プロローグ4
「ときに陽佑様」
「ん?どうかしたのか」
「お腹が減ってしまいました。茶菓子などはありましょうか...?」
少し躊躇いながら尋ねる紅葉。その様子は先程とは異なり、子どもらしさに溢れている。
「茶菓子かあ。リビングに置いてあると思うが。お腹が減っているのならもっとちゃんとしたものを食べた方が良くないか?」
「いえ、茶菓子で十分でごさまいます。私茶菓子が大好物でして」
嫣然と笑うその姿に目を奪われる。
「あ、ああ。そうなのか。じゃあ持ってくるから少し待っていてくれ。ところでお茶はいらないのか?」
「大丈夫でございますよ」
「了解」
リビングへと釜宮が向かい、稍あって戻ってくる。
「安物の水羊羹と最中しかなかったけどこれでいいか?」
チラリと視線を紅葉へと向けると、そこにいたのはさながら童女のように目を輝かせる妖様の姿。
「陽佑様、これを頂いても…?」
「紅葉のために持ってきたんだ。好きなように食べろ」
「…ありがとうございます」
「しかしさっきも言ったがこれ安物だからな口に合わなかったとかそういうのはやめてくれよ」
「ふふっ、その心配はございませんことよ。ここで一つ、私の妖力と言ったようなものをお見せいたしましょうか」
紅葉はそう口にすると水羊羹を一つ手に取る。釜宮には何をしようというのか検討もつかなかったのだがその刹那、まばゆい光が紅葉の掌を包み込む。ただその光も瞬刻。紅葉の掌には先程とは少しも変わらないように見える水羊羹が。
「陽佑様、一緒に食べませんこと?」
「あ、ああ頂こうかな。しかし今の光は一体何だったんだ?」
「まあまあ、それは食べてからのお楽しみということで」
クスクスと笑いそう告げる紅葉。よくわからないが釜宮は水羊羹を少しばかり口の中へ運ぶ。そうすると…
「な、何なんだこれは…とても美味しいじゃないか!まさか…君が先程の胡乱な光で…」
「はい、その通りでございます。私は茶菓子の味を美味に出来るのでございます!」
得意満面でいる紅葉の気分を害することを理解していながらも釜宮は尋ねた。
「なあ紅葉」
「…なんでしょうか?」
「和菓子を美味しくする妖力ってなんか、こうさ、しょぼくないか?」
それを聞いた紅葉の美しい双眸から涙が溢れ出る。
「グスッ…」
「おいどうして泣くんだ」
「私は…ヒック…陽佑様と一緒に水羊羹を、美味しく…グスッ食べた、かったから…妖力を、使っただけなのに…それをしょぼいだなんて、ヒック…」
「す、すまなかった。紅葉の気持ちなんて全く考えてなかったよ。泣き止んで一緒に水羊羹を食べよう!なっ!」
「ふふっ、ふふふっ、」
「今度はどうした紅葉?」
「今のはすべて空泣きですよ?」
「俺はまんまと騙されたってわけだ」
「だいたい茶菓子を美味しくする妖力しか使えないわけじゃありませんの。もっと強い妖力もありますことよ」
「もっと凄い妖力が見たいもんだ」
「それは私と一緒に着いてくればいずれ分かることですわ」
「そりゃ楽しみだな」
「念を押しますけど本当に宜しいですの?得体のしれない私と行動を共にするなどど」
「男に二言はないさ」
「…やはり陽佑様は」
ホタルの羽音のような幽かな声で呟くも釜宮には届いていないようであった。
余談ではあるが、紅葉の言っていた空泣き、あれは嘘であると釜宮は気がついていた。敢えては触れてやらなかったが、顔を赤くしながら涙が頬を尋常なく伝っている姿を見れば明瞭である。紅葉って案外泣き虫なのだなあと感じた釜宮であった。