プロローグ2
目が覚めるとそこは見慣れた自分の部屋。考えること暫し、なるほど先程のあれは夢であったと釜宮は判断する。夏の暑さとあの不可思議な夢の体験とが相まって、身体中には無数の汗が。もう少し惰眠を貪りたい気もしたが、こんな汗では寝心地も悪い。釜宮は布団から抜け出し冷房機のリモコンへと手を伸ばした。そしてクローゼットからタオルを取り出し汗を拭う。やや暫くして、
「それにしたっていやにリアルな夢だったな」
そう独り言つ。彼の経験上、見た夢なんぞその大半は目が覚めるとすぐに忘れてしまうし、覚えていたとしてもここまで明瞭に思い出せるものはなかった。あの少女。幼さが残りながらも端正な顔立ち。艶やかな黒髪を纏い、その透き通った双眸は、見る者を惹き付ける超然的な力を持っているかのようで。しかしながら結局彼は、夢は所詮夢でしかなく、潜在意識が表れたに過ぎない。そう結論づけた。潜在意識の中であのような胡乱な少女の存在を望んでいたということに少々落胆するも、今日の休日をいかにして過ごすかを考えることにした。だがここで、聞こえる一声。
「うふふ。それはそうですよ。だって夢ではないんですもの」
ころころと鈴を転がしたような声で、夢と同じように妖しげに笑いながら、紅葉が目の前に降り立った。