S,5『メグ・シュペーヤ』
誤字脱字が多いかも知れませんご了承下さい。
「彼女は、気に食わないから人を傷つけるのではないんです。怖いから拒絶してしまうんです。」
エレナは、メグ・シュペーヤの過去を話し始めた。
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メグ・シュペーヤは「ガルバ」という割と大きな街で産まれた。
メグの父親はメグが2歳の時に母親と離婚した。
新しく来た義理の父親は疫病神だった。自身の社会的地位に劣等感を感じ、それを隠す為に周りの人間を打ちのめす機会を蛇みたいに狙っていて、しかも臆病だから自分より弱い立場の人しか狙わない。
「接客態度がダメだ」と言い店員に罵声を浴びせ、名前を聞き出して脅しめいたことしたり、小さい子供がボールで遊んでいて、そのボールが少し当たっただけで、その子供の親を呼び出して土下座させたりする。しかよそれが「男らしい」行為だと本気で思っている。
しかも厄介なことに、メグの母親はそういった劣等感の裏返しな「男らしいさ」に少なからず惚れていた。
もう、呆れるしかない。
義父は、家族を暴力的に服従させることを「男らしさ」の一つと考えていた。
その他にも、「酒」「タバコ」「博打」。彼としてはそこに「女」を入れたいと思っているのだろうが、どれだけ彼が「男らしさ」を磨こうと、そこに寄ってくる女など母親以外いなかった。
本人もそれを気にしているのか、「自分は、妻一人を愛するのが生き甲斐で、女なんて少し本気を出せば、幾らでも寄ってくるから興味ない。」と言うような事をよく言っていた。
そして、舌の根が乾かないうちに母を殴った、だが何もしない。隠れるだけだ。弱虫とか戦略的撤退だとか言う前に6歳と8歳の子供には何も出来やしない、仕方ないのだ。
いつだったか、母と姉と自分の三人にだけになったとき、「もう嫌だ、」とはっきり言ったことがある。だが、「実家に心配を掛けたくない、」だとか「私は、男の人がいないとダメなの。」とか、挙げ句の果てに、「私達にも悪いところがあった。」などと言い出した。
まだ6歳で母の言っていることの8割は理解していなかったが、幼いなりに理解した事がある。「母親はもう駄目だ。」
メグ・シュペーヤ 7歳。
メグはいつものように、床下収納のスペースに隠れて耳を塞ぎ、目を瞑って嵐が過ぎるのを待つ。
-ドン-ガタガタ-パリンッ-
「キャッ、止めて、あなた止めて」
「黙れ、元はお前が悪いんだ。」
-ドカッ-
しばらくすると、コンコンと、床下収納の扉を叩く音がした。
恐る恐る扉を開け、隙間から外を見る、2歳年上の姉、ノロア・シュペーヤがいた。
「もう大丈夫だよ・・・」
彼女も怯え切った声で言ってくる。
彼女もまた、嵐が怖くてどこかに隠れていのだろう。
「もう、収まった?」
「お父さんは何処かへ行った。」
床下収納からズリズリと這い出る。
姉は、メグにとっての唯一の支えだった。
いつも一緒に居てくれた。泣いているとき、自分も泣きたい筈なのに、いつも笑って「大丈夫だよ。」と、言ってくれた。
-メグが唯一甘えられるのは姉だけだった。-
この時、父親の暴力は娘の二人にも向かい始めていた。
まぁ、自然な流れだ、
父親は、些細なことを理由で暴力を振るった。
食べ方が汚い、部屋が散らかっている、父親に挨拶をしない、どれもとるに足りないことだ、それに部屋が汚いのは義父のせいだし、こんな父親に挨拶などしたくない。
それからしばらくして、メグにとって絶対起きて欲しくないこと、彼女の心を壊してしまう事が起きた。
-酔った義父による一家心中未遂。-
仕事をクビになった義父は、やけ酒を煽り、母親と口論になった。
そして、「みんなで死のう」と言い出して酒瓶を振り回した。
メグとノロアは隠れていたが、ノロアは義父に見つかり、殴り殺された。
その光景を見たメグは直ぐに目を閉じて耳を塞いだ。
-これは悪い夢だ、起きたらいつも通りでボロいベッドの上で姉と一緒に寝ていて、その後いつも通り母親がご飯を作ってくれないから、不味い缶詰めのスープとカビの生えたライ麦パンか乾パンを食べる。そして父親から逃げるためいつも通り隠れている・・・-
それが私の日常、それ以上でも以下でもない。姉は死んでなんかいない。
そうあって欲しかった。姉が生きていれば何とかなる気がするから。
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殴り殺したショックで正気に戻ったのか、義父は酒瓶を捨てて逃げ出した。
目を大きく開いたまま動かない姉、息をしていない。
体を揺さぶってみる。
手に血が付いた。
メグは泣くことすら出来なかった。何が起きたか分からなかった。何時間もその場で何も考えずにいた。そしてふと思った。
-何でノロアが死んでるんだろ、何で私は何も出来なかったんだろ?弱虫だから?ノロアが居なければ私は生きていけないのに、何で生きているんだろう。-
その後、母親は罪悪感のあまり焼身自殺。
義父は逮捕され、今はどうなったか知らない。
その後、メグは親戚の間をたらい回しにされた挙げ句捨てられ、しばらく孤児院で過ごした。
メグは人の手が怖くなった、自分へ伸びてくる手がまた自分を傷つけるのではないかと、あの時のように大切なモノを奪っていくのではないかと。
それ故に拒絶してしまう、その手が差し伸べられた助けの手だとしても・・・
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「これが、私が知っていることです。」
木崎は、情けない気持ちになった、メグのことを気に食わないと実力行使に出る子、などと考えていた自分が。
メグの過去も知らずに行動だけで決めつけていた自分がとんでもなくバカに思えた。
転属まであと2日、できればメグに何かしてあげたい、だが誰かとの接触を根本的に拒絶している。
どうすれば、心を開けるのだらうか・・・
「あの、どうにか出来ないでしょうか、」
「私がこれまで何度も色々な手で挑戦しましたが全て玉砕しました。」
「あ、・・・そうですか・・・」
メグがここに来る前からいるエレナが何も試さずほっといた訳がない。
「まぁ・・・何か考えが有るなら、試して損は無いと思いますが・・・絶対にメグちゃんを傷つけるようなことはしないで下さい。」
「はい、」
とは言ったもののどうすれば、いいのか。
さんざん考えた結果、ベタだが、あの作戦で行くことにした。
というのも、木崎の頭ではそれぐらいしか思いつかないのである。
あの作戦とは、・・・何か、次回明らかになる!!
ってかなりベタなので、大体予想は付くかと思いますが・・・