S,4『木崎、ベビーシッターをする。』
誤字脱字が多いかも知れません。ご了承下さい。
ベビーシッターを始めて3日、未だに分からないことが多いし失敗も多い、子供達との接し方もぎこちないが、何とか慣れてきて最低限のことはできるようになってきた。
銃は子守には使わないので、弾を抜いて自分の金庫に入れてある。
「だいぶ慣れてきましたね。」
「はい、まあ分からないことの方が多いですが、」
「いえ、そんな事ありません。キザキさん、覚えが早くて助かります。あと、敬語じゃなくていいですよ?私の方が年は下なんですから。」
「でも、色々教えてもらっているのに・・・それに、先輩には礼儀正しくしなきゃ。」
年下でも先輩、だから敬語を使う。
「それと、気になることが・・・」
「はい、何でしょう?」
「メグちゃんの事なんですが、」
「えっと・・・」
その話をしようとした途端、エレナの表情が曇る。
部屋の隅の方にある机で本を読んでいる8~9歳くらいの赤毛に黒眼の女の子がいる。
名前はメグ・シュペーヤといい、何もしなければ大人しく、手の掛からない子なのだが・・・
-バキッ-
木崎とエレナが子供の遊び相手をしながら話していると、ベニヤ板が割れるような音がした。
驚いてそちらを向くと、茶髪の男の子が壊れた机の上で泣いてい
る。その前には、メグ・シュペーヤが立っていた。
エレナが慌てて男の子に怪我がないか確認する。怪我は無いようだ。
「メグちゃん!!何でこんな事するの!?」
どうやらメグが男の子を投げ飛ばしたらしい。
「またか・・・」
木崎がベビーシッターをやり始めて3日しか経っていないが、もうこれで五度目だろうか。
メグは、気に入らない事があると、相手に暴力を振るう。
実際木崎も、メグが一人でいるのを心配して「あっちでみんなと遊ぼう。」と言ったらスネを蹴られて思わず叫びそうになった。
もうすぐ10歳、このままではいけない。
エレナがメグに動機を問い詰めるが黙秘を続けている。しばらくエレナがメグに説教をし疲れた感じで戻ってきた。
その姿を見て何だか母親を思い出す。小学校3年の時に病気で他界してしまったが・・・
「はぁ・・・何であの子・・・」
「何とかなりますよ。きっと」
エレナがこちらを見ると、「何でそんなに楽観的でいられるんですか?」と、言われた気がした。
そんなやり取りをしていると、
『所属不明船接近、各員警戒せよ、繰り返す、所属不明船接近、警戒せよ、・・・』
急に部屋の隅に取り付けられた伝声管(声を届けるためのパイプ)から急に、そんなアナウンスが聞こえてきた。
「何ですか?」
木崎は訳が分からずエレナに慌てて聞く。
「海賊かも知れません。」
「海賊!?」
-ヒュー-ドンッ--ヒュー-ドンッ-バキッ-砲弾が風を切る音、弾着して木が折れる音。
-ガシューン-ガシューン-ガスが一気に放出され、砲弾を飛ばす音、
エレナは子供達を部屋の真ん中に集めて、「大丈夫だよ・・・大丈夫だよ・・・」と声を掛けて続けている。
子供達は、「怖い、怖いよ」と言って震えている。
メグも机の下に潜って目を堅く瞑っている
何か出来ることはないか、物語の主人公ならここで全く場違いな歌でも歌って励ますのだろうか?
恐らく、現実でそんな事をしようものなら、白い目で見られるだけである。
従って出来ることは、「大丈夫だよ」と声を駈けるだけである。
しばらくして砲撃の音が止んだ。
『海賊船は撃退されました。ですが、船内に海賊が侵入した可能性があります。安全が確認されるまで、注意してください。』
アナウンスが流れる。
海賊は撃退されたようだ、だが、船内に海賊が残っているって大丈夫か?
エレナの方を見ると、もう既に保育室の鍵を開けて、子供達に「もう終わったから大丈夫だよ」と声を掛けている
「あの・・・まだ船内に海賊が侵入って・・・」
「多分、大丈夫です。たまにこういうの有りますが、いつも同じアナウンスが流れますから。」
「そうですか・・・」
-ガタンッ-
勢いよくドアが開いた。そこには安っぽい錆びたカットラスを持った背の低い、コブリンみたいな体型の男が立っていた。
その男はドアの近くにいたメグを掴みカットラスの刃を向ける。
「メグを放して!!」
エレナは保育室のロッカーを開け、護身用の気銃を出し、カットラスの男に向ける。
「その子を放せ!!」
男は下品な笑みを浮かべ、
「放すと思うか?」
と言う、確かに放せと言われて人質を放すバカはいない。
メグは、本を読んでいる時のような無表情で動かない。怖がっていないのか、怖くて動けないのか分からない。
「チッ」
一瞬でも隙ができれば、
-その時-メグが男に金的を喰らわせた。男も予想外だったようで股間を押さえて膝をつく
「た、タマが・・・クソ痛てぇ・・・」
メグはその隙に逃げる。
男はフラフラと立ち上がる。
木崎はその隙に男の腹に全力で蹴りを入れ、その後、腕を固めて動けないようにする。
格闘の訓練なら自衛隊や警察でイヤというほどやった。
「イテテテテ、ギブ、ギブ、ギブアップだ。」
入り口の方を顎で指しながら、男が変なことを言い出した。
入り口の方を見ると、船長と何人かの船員が集まっている。
船長が板のような物を掲げている。
そこには、ゴテゴテした字で-ドッキリ大成功-と書いてあった。じゃあ・・・こいつは?
「えっと・・・ドッキリ、大成功?・・・」
船長が気まずい顔をして、言ってくる。
「エレナさん知ってたの?」
「・・・」
砲撃の音はマミヤの放った空砲だったそうな。
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船長はドッキリの件でユエさんに怒られた。「子供達を怖がらせるな」とドロップキックを三発食らったとか。
その後、木崎に転属命令が出た、保育係から警備係だ、あの格闘戦技術を放って置くのはもったいない、ということだった。(格闘には慣れていると、言ってあったが・・・信じてなかっのか・・・)
転属日まであと、2日ある。
それまではベビーシッターである。
「キザキさん、違う係に行ってもたまには来てくださいね?流石に一人では手に負えない時があるので。」
エレナは少し頬を赤くしながら言う。
「はい、分かりました。・・・あの・・・もし知っているならメグのこと教えてくれませんか?なぜ彼女がああなったのか。」
「・・・」
「えっと・・・これは、彼女から聞いたわけでではなく、この船で保護する時に船長から聞いた話しですが・・・」
エレナは少し戸惑ったあと話し始めた、メグ・シュペーヤの過去を。
次回は、メグの話しです。