贈り物
彼女が作る服は、いつも俺好みのものだ。
「これ、今日完成したの。雅人にあげる」
服飾系の専門学校に通う彼女は、学校で何かを作る度、そう言って服を渡してくる。
俺の帰りを家で待ち構えていた彼女から手渡されたものは、これからの時期に相応しい、毛糸で編まれたセーターだった。紺色をベースに、襟元と袖口に白いラインが入っている。
「雅人が好きな色でしょ?」
彼女は柔らかい笑みを浮かべると、桃色のエプロンを着て台所に立つ。
そのエプロンもまた、彼女が自分で作ったものだ。
「また、いいのか?」
「なにが?」
「これ、もらっても」
「いいからあげてるの。どうしたの、改めてそんなこと聞いて」
「いや……」
包丁を手にする彼女の後ろ姿を見て、言葉を濁す。
そんな俺の様子に気付いていないのか、彼女は夕飯の支度を始めた。しんとしているからか、食材を切る音がやけに耳に入る。
彼女は、自分で着るための服をほとんど作らない。強いて言うなら、今着ているエプロンくらいだろう。あとは色もデザインも、全て俺に似合うように作られている。Tシャツも、ジャケットも、手袋も、全部。
「少しくらい、自分のものも作れよ」
気付いたら、そんな言葉が零れていた。
包丁の音が止んだ。彼女が手を止めてこちらを振り返る。
「もちろん、俺のもの作ってくれるのは嬉しいけど……せっかくいろんなもの作ってるんだから、俺のばっかりじゃなくてさ、自分で着る服も作れよ」
一瞬驚いたような顔をする彼女だったが、すぐにいつもの笑みを見せた。
「私はね、自分の作った服を、誰かが喜んで着ているのを見ると、すごく嬉しくなるの。そういう顔が見たいから、服を作ってる……っていうか」
はっとして、彼女の顔をまじまじと見つめる。
俺の着る服は、いつの間にか彼女が作ったものばかりになっていた。それを好んで着る俺を見て、彼女はいつも幸せそうな顔をしていた。
「でも……そうだね。雅人の言う通りかもね」
「え?」
「たまには自分の服も作ろうかなって。それで、雅人と一緒に着るの。うん、次はそうする! 楽しみだなぁ」
彼女が台所に向き直った。軽やかな包丁の音が、再び部屋に響き始める。
「……そうだな」
彼女の後ろ姿は、幸せそうだった。




