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探偵

作者: 嶋中捺己

探偵というのは漫画やテレビとは違い事件が少ないためにさほど仕事がない。あるとすれば浮気調査や猫探し。そんなつまらない探偵に一つの事件が舞い込んできた。

「佐原雅也さんですね。依頼しにきました」

依頼者は一八歳の女性。高校生にしてはどこか大人びていた。

「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」

雅也は彼女を事務所に入れ、ソファに座らせる。お茶を入れてくる間に彼女のことについて聞いておく。

「電話では年齢しかお聞きしませんでしたが、名前も聞いてもいいでしょうか?」

「小笠原加奈です。高校三年生です」

湯気のたったお茶を、彼女の前に置き依頼内容を聞いた。

「私の担任が妙なんです」

「妙とは?」

「最近金の羽振りがいいって言いますか…いきなり高級車に乗ったり…ブランド品を身に付けたり…」

「なるほど…しかしそれだけでは依頼としては弱いのでは?もしかしたら宝くじや賭け事が勝っただけかもしれません」

「それだけじゃないです。他にも不思議なことがあるんです」

「と言いますと?」

彼女はカバンから写真を取り出した。

「この写真は?」

「友達がこの先生を見かけた時に撮った写真です。それを私が現像しました」

写っていたのは男性が車に乗っている写真だった。

「この写真になにか?」

「見てください。ここ」

彼女が写真に指を指した。

「これは…」

指を指していたものは、車のナンバープレートだった。

「このナンバープレート、おかしくありません?」

「確かにおかしい。普通プレートに『お』は使ってないはず。それに分類番号も百番台ってのも気になりますね。見た所この車クラウンですね」

「さすが詳しいですね。そうなんです。私もそこが気になったんですよ。ナンバープレートの偽造。これはなにかあると思い今回依頼しました。もしかしたらお金の羽振りがいいのと関係があるのかもしれません。この人の近辺調査をご依頼します」

「分かりました。ではここにサインをお願いします」

雅也は依頼書に名前を書かせ、依頼内容をまとめさせた。

次の日、早速雅也は学校に向かった。彼の名前は郷田政治。歳は二十四歳で生徒との信頼もあり若いにしてはとても優秀であった。今日は土曜日で、生徒の数も少なかった。駐車場に行き、車を捜した。だが郷田政治の車はなかった。

「今日はいないのか」

帰ろうとした時に、一台の車が校門に入ってきた。クラウンに乗った郷田政治だった。

「あの人か…」

雅也はじっと見つめ、どんな人か観察をする。

その日の晩に彼女が事務所に訪れてきた。

「近くに用があったので寄りました。何かわかりましたか?」

「いえ、一日目ということもあり、まだなにも」

そうですかと、彼女は肩を落としていたが一つ雅也にも疑問があったため聞いてみた。

「部活の顧問などはされていますか?」

「先生ですか?いえ、なにも受け持っていないと思います」

「そうですか。明日も引き続き調査をしています。何か分かりましたら連絡しますね」

お願いしますと彼女は頭を下げ事務所を出て行く。

次の日も調査をする。だがなにも進展がない。本当に賭け事に勝っただけかもしれない。だとしたら何故あの写真に写っていたナンバープレートが…考えれば考えるほど分からなくなってしまった。いやそれよりも…

「小笠原さん、少し時間よろしいですか?」

雅也は彼女に電話をした。彼女が事務所に来たときには既にお茶と折り菓子を用意し、招く準備は整えていた。

「ようこそ。事件の真相を知る前に、あなたに聞きたいことがありました」

「聞きたいことですか?」

「探偵というのは依頼者のことも調べるものなんですよ。勿論私も調べました。あなたのこと。するとあの学校に小笠原加奈という人物はいなかったのです。三年前に卒業した人にあなたと同じ名前の人がいました。その方とあなたは同一人物だと思いましが、何故あなたが年齢を詐称し依頼をしてきたか…もしかしたらあなた…この方の彼女、もしくは奥さんではないのでしょうか?」

「何を言ってるのですか?」

「以前にあなたに聞きましたよね。顧問をやっているのか。生徒ならすぐ分かるはず。政治さんのことをおかしいと思ってるあなたなら尚更。だが何もやっていないと思うと答えた。その時に学校のことを知らないかと推理をしました。あまり依頼者と相手の関係は気にしないようにしてましたが、普通高校生が探偵まで雇って調べるものか…そこにも疑問がありましたよ。あまり嘘はつかれたくないのです。本当のこと教えてください。あなたは誰なんですか?」

彼女は下を向き黙っていた。しばらくの沈黙。時間の針だけが部屋の中で響く。

「分かりました。本当のことを話します」

彼女が口を開く。

「彼と私の関係は恋人ではなく兄妹です。ですが両親が離婚をし、再会をしたのは私が高校二年の頃でした。それから度々連絡を取るようになっていたのですが、兄は彼女ができて会うこともあまりなくなりました。そんな時、兄の彼女が私のところに訪ねてきました。兄が急に高級車やブランド品を持つようになったと。危ないことをしてるんじゃないかと心配していました。そこで私はここに依頼しにきたのです」

「ふーむ…何故あなたなんでしょうか?彼女であってもよかったはず。それにわざわざ嘘をつかなくてもよかった気がします」

「兄の彼女は病気を持っていて、今入院してるんです。なので代わりに私が…。高校生と偽ったのは…」

急に黙り込む彼女。

「はぁ…よっぽど私なことを信用してないのですね…?」

ため息をつきながらも聞いた雅也に、彼女は申し訳ない顔をしていた。

「私の推理だと…加奈さん。あなたは漫画家かなにかじゃありませんか?」

「え?」

「その手のタコですよ。中指のところにタコができている。それはおそらくペンダコですね。それとあなたのカバンの中。この前ちらっと見えたのですが、資料に使っていると思われる背景の本とよく書き込まれたメモ帳がありました。もしかしたらこれは最初からあなたが作った架空の事件じゃないのでしょうか?だから足がつかないためになにもかもデタラメだった。昨日、学校に行くと政治さんの車を見ました。ですが、ナンバープレートはなにも違和感もなかったのです。写真で見たものと違いました」

「ふふ…さすが探偵です。観察力が凄い。そうです。あの写真は加工したやつですよ。そして私に兄弟なんていない。あの話も嘘です。適当な高校から、先生と卒業した生徒の名前を見つけて今回の依頼内容を作り、ここにきました」

「何故そのようなことを?」

彼女は目の前にあるお茶を飲み、笑いながら言った。

「漫画の話作りですよ」

「そうでしたか…参考になりましたか?」

「えぇ…とても。怒らないのですか?」

「探偵は平和を求めます。いい時間つぶしになりました」

雅也はカーテンを開け、振り向いて言った。

「探偵にとって生きがいなのは真実を知ることです。それ以外はなにも感じられません。今回の事件の真相が分かり、ホッとしています」

「すみませんでした」

彼女は謝罪をし、指定された金額が入った封筒をテーブルの上に置き事務所から出て行った。

事務所に一人残った雅也は、自分の机に向かった。何故雅也が探偵になったのか。それは先の話で語ることにるだろう。一つの資料を手を出す。そこには『矢澤亮太の事故について』と書かれていた。

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