表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/45

08

 年長さんになった俺はまたもや山吹君と同じクラスになった。今度はさくら組だ。

 山吹君は加奈子先生との別れを悲しみ涙するかと思いきや、新しい担任の七海先生(巨乳)に夢中だった。その切り替えの早さ、嫌いじゃないぜ。


 二度目の幼稚園生活3年目を迎えて分かったのは、幼稚園は思いの外イベントが盛り沢山だということ。

 定番の運動会や芋掘り、親子遠足、お遊戯会に加えてこどもの日の鯉幟作成や七夕、クリスマス会、餅つき、豆まき、ひな祭りと世間様同様に季節のイベントもばっちり押さえている。


 そして今回、年長さんになって最初のイベントは参加型の保育参観だった。親子で紙粘土を使ってお題に沿ったものを作るという。

 仲が良い者同士で固まる遠足や運動会、大半が不参加の保護者会とは異なり、子供も交えてセレブママ達が一堂に会するという色んな意味でドキドキしちゃうイベントだ。

 

 当日、七海先生から発表されたお題は動物。各々好きな動物を作って最後に絵の具で色を塗るのだが、それだけでは物足りないのでビーズやモール、ビー玉などの小物を使用して好きに飾り付けて良いという。

 うちは母の発案でうさぎを作ることにした。女子っぽい。

 雪だるまを作ってから耳や手を生やしていく。目を作るのが面倒だったのでビー玉を埋め込んで目の代わりにしていると母が粘土用のヘラで胴体にハートや星など細かい模様をつけ始めた。あ、タトゥー入れてる設定なのかな?

 冗談はさておき、色を塗るなら白か茶かなと思っていたら母が赤と白を混ぜて可愛いピンク色を作り出したのでそれを塗ることになった。やだ、メルヘン。

 辺りを見回し、他の子達の作品を窺うと由貴ちゃんは人を襲いそうにない優しい顔をしたクマ。山吹君は翼の生えたライオンだった。うん?一回死んで天の使いとして活躍している設定なのかな?

 園児の作品というと意図せず悲惨なものが出来上がるのだが、今日はどの子も親が手伝ってくれているのである程度形は整っている。だがそれは途中段階に過ぎず、色塗りを子供に任せる親が多いため仕上がりはカオスだった。山吹君、なんでライオンが紫なの?死ぬと紫になるの?


 ツッコミどころは多いものの保育参観は何事もなく終わった。

 完成した(主に色遣いが)カオスな作品達は、各自のロッカーの上に並べられた。後日それらを眺めていると恐ろしい事に気が付いた。

 俺以外でうさぎが作った子がいなかったのだ。

 うさぎと言えば女子の中で1、2を争う人気の動物。全員別のものを作りましょうとは言われていないし、そもそも幼稚園児が知っている動物なんて限られているので、被らないなんてありえないはずだ。現にネコは8体くらいいる。

 自分の母を思い出して震えた。嘘だろ、ママ友社会ってここまで気を使うの?


◆◆◆◆◆◆


 子供の成長は早い。

 見た目もそうだが顕著なのは言葉で、年少さんの時と比較すると皆ベラベラとよく喋る。どこで覚えたんだそんな言葉、って言いたくなるようなことも話すし、飲み屋のおっさんのような発言が飛び出したりもする。

 一つ言えるのは、年長さんの子達は大人が思っている以上に頭が良いということだ。勿論小難しい単語は知らないが、子供なりに相手の話をちゃんと理解している。それが俺にとってはちょっとした問題だった。


 子供と言うのは何でも喋っちゃう生き物である。特に自分の大好きな家族のお話は尽きることなく、日常のちょっとした事件から隠しておいた方が良いことまで幼稚園で話してしまうので、俺は山吹君のお兄ちゃんが最近学校をサボっている事もほのかちゃんのお母さんが12万円のスカーフを購入した事も美沙(みさ)ちゃんのお父さんが痛風になった事も知ってしまった。ごめん、不可抗力だ。

 何よりこの年頃になると3歳の頃は何も気にしていなかった子達も『お金持ちはなんかすごい』と認識し始め、子供の間でも親の職業自慢や家の広さ自慢が行われるようになった。


「うちは馬がいるんだよ」


 そう言ったのは由貴ちゃんだ。周りを囲んで話を聞いていた子達がすごーいと盛り上がった。

 家に行ったことはないが、ホテルのプールを貸し切ったりお手伝いさんを連れているのでお金持ちなのは知っている。馬もいるのか、すごいな。


「でもね、ゆりかちゃんはもっとすごいんだよ!お家なんてようちえんよりずーっと広いし、プールがあって車もべっそうもたくさん持ってるんだって!」


 なんで俺急に巻き込まれた?

 離れた位置にいた俺に視線が集まった。確かに家は幼稚園より広いし、温水プール完備だし、車も別荘も沢山あるけどちょっと待て。由貴ちゃんが家に遊びに来たことはないはずだ。

 どうして知ってるの、と尋ねると由貴ちゃんはママが言ってたよ!と笑顔で返してくれた。

 由貴ちゃんママを思い浮かべて納得した。普段の様子を見る限り由貴ちゃんママはうちの母にちょっと憧れている感じだったので、きっとうちの母から聞いた事を娘にも色々話しているんだろう。


 それから話は一気に広まった。

 中には俺をお城で暮らすお姫様かなんかだと思う子まで出てきたのでそんな高貴なものじゃない、と否定したものの一人では拡散を防ぐことは出来ず、尾ひれのついた噂は隣のクラスにも伝わった。

 2日後、俺は年長クラス全体のトップとして一躍有名になった。ついに園児達の中でも階級制度が生まれたか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ