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お嬢様は大変だ。まだ4歳なのに習い事をしなきゃいけない。
いや、俺も前世では4歳からピアノを習っていたので年齢に関してはそこまで言えない。問題はその習い事の数だ。
ピアノ、バイオリン、水泳、バレエ、英会話の計5つ。幼稚園が終わったら毎日違う教室へ行き、帰宅後は習ったことの復習をし、土日は予習。マジで俺死ぬぜ。
俺が自分でやりたいと言ったものが1つもないこの状況は、いかにも親に習わされていると言った感じだ。
これじゃあ全て浅い状態で終わりそうなのだが、それでもいいのかもしれない。親からすればある程度の心得で十分なのだ。だって俺お金持ちのお嬢様だもん。
どうせ将来は結婚して家に入るのだから、恥をかかないレベルで身につけば良いのだろう。
とは言え幼稚園児の体力しかない現時点では肩が凝る。聞けば、まだまだ増やす予定らしく自分の今後に不安を覚えた。さっさと上達してさっさとやめよう。
幼稚園でプール開きがあった翌週、普段から仲良くしているお友達の一人、由貴ちゃんにプールへ行こうと誘われた。正確には由貴ちゃんママに俺の母親が、だ。
他にもいつも一緒に遊んでいる女の子達とそのお母さんが誘われていた。
ぶっちゃけ週に一回スイミングスクールに通っているし、普段から自宅の温水プールで反復練習もしているのでそんなに楽しみとも思えないが、だからといって断る理由はないので行くことになった。
そして当日。てっきり市民プールにでも行くのかと思っていたら、プール=ホテルのプールだった。そうきたか。
しかも貸切。親はテラスで優雅に談笑、子供は由貴ちゃん家のお手伝いさんに見守られつつ浮き輪を持ち込んで泳いだり、備え付けの幼児用の滑り台ではしゃいだりと様々だ。
わかりやすいセレブアピールが殆どないから忘れていたけど、やっぱりみんな金持ちだと思った。
ママ友同士でのお茶や子供を連れて出掛ける場所、ちょっとした時間の過ごし方に余すことなく金を掛けているのだろう。
母親達の会話に耳を傾けるとみんな笑顔で話しつつもさり気無くうちの母に気を使っているようだった。カースト最上位こわっ。
子供同士はそんなことないのだが、ママ友の世界はやっぱり夫の年収がモノを言うらしい。
白峰百合香の家はゲーム内でも桁外れの金持ちと評されていたはずなので、その母親が花霞学園のママ友界を牛耳るのは当然の事なんだろう。
実際、父親は会社の社長とよくいるお嬢様キャラのお約束を守っていた。しかし驚くべきは白峰家の系譜だ。
お手伝いさん達に教えてもらったのだが、俺の父方の高祖父は財閥総帥、母方の曽祖父は元華族、親戚には国会議員や有名企業の創業者一族、都市銀行の頭取、果てには元内閣総理大臣もいるとかいないとか。
4歳の俺に話していることなのでどこまで本当なのか分からないが、まさしく華麗なる一族。
都心の一等地に建てられたお屋敷は入ったことのない部屋すらあった。広すぎる庭は俺と竜胆のためのアスレチックや母の趣味のガーデニング等、綺麗に整備してあるものの完全に持て余していて、家から門を出るまでは車で行かないと迷子になるほど距離がある。
これで美形一家ときたものだから、ちょっと設定盛り過ぎじゃね?と思った。
そんな向かうところ敵無しの白峰家にも問題がある。俺と竜胆の関係だ。
竜胆も俺と同じく様々な習い事をしているのだが、そのうちピアノ、バイオリン、水泳はレッスン時間も被っていた。
そのためいつも同じ車で教室まで送り迎えをしてもらうのだが、その間俺達兄妹に会話はない。
運転手さんが気を使って色々と話題を振ってくれるので車内の空気は悪くないが、どんなに会話が盛り上がっても竜胆は俺を見ようともしなかった。
俺、何かした?
決して無視されているわけではなく、竜胆は話し掛けたらちゃんと返してくれる。
でも向こうから声をかけてきたことは、今まで数えるくらいしかなかった。それも「父さんが呼んでる」みたいな業務連絡レベルだ。挨拶だって向こうからされたことは一度もない。
これ何なの?どういうことなの?
本気で俺のことが嫌いなら、徹底的に無視をするはず。そうじゃないってことは、そこまで嫌な感情を抱いているわけではない。
でも仲良くはしないって、なんだそれ。
年が離れているから扱い方が分からないのだろうか?赤ちゃんの時からずっとそうだが、成長しても相変わらず竜胆の気持ちが掴めなかった。
不仲というべきなんだろうが、喧嘩はしたことがない。喧嘩するほど互いに関わらないからだ。
ちなみに両親は何も言わない。俺達の仲について気が付いているはずなのだが、触れないようにしているみたいだ。
それってかなりの問題だと思うのだが、両親は子育てに無関心なわけではないし、何か事情があるのかもしれない。
正直、竜胆と仲良くしなくても生きてはいけるし、今のところ不利益を被ったこともないのでこの関係を改善する気はなかった。
というかどこを改善したら良いのか分からないから、やることがないのだ。なにか深い事情があるのかもしれないのにいきなり「私のこと嫌いなの?」って聞くのもアレだし。
そんな感じで俺は生まれた時から続く何とも言えない謎の兄妹関係を特に変えることもなく日々を過ごしている。






