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04

 学年が上がり、何の因果か山吹君と俺は同じばら組になった。

 山吹君は前回のリサイタルが失敗したことをずっと気にしていたらしく、出会い頭にいきなり再リサイタルを仕掛けてきた。


「ぼくは前とはちがうからね!」


 と宣言してから俺に向けてハッピーバースデーを歌う。

 怪しい箇所もあったが声は出ていたし、音も外さなかった。確かに前より上手くなっている。

 本人も大満足の仕上がりらしく歌い終わった後、「どうだ!」と得意気に聞いてきた。

 ブラボー!と手を叩くと両手を挙げて大袈裟に喜んだ。うん、良かったね。


 教室内を見回す。山吹君以外は全員普通の髪色だ。

 もちろん俺のように藤色の目の子もいない。黒かせいぜい焦げ茶だ。


 なのに、みんな俺と山吹君の『色』を当たり前のこととして受け入れている。

 それとなく先生やお迎えに来る大人達にも聞いてみたのだがどの人も「綺麗な色だよね」と笑って返すだけだった。

 俺や山吹君に怪訝な表情を向ける人はいないし、染髪やカラーコンタクトの使用を疑われている様子もない。


 どうやら銀髪も藤色の目もちょっと珍しいけど日本人でもあり得ない色ではない、と捉えているみたいだ。

 これがフィクションの世界か……。人の感覚まで変えてしまうのか。


◆◆◆◆◆◆ 


 山吹君は活発ではないが大人しいわけでもない、普通の子だった。でも銀髪。

 送り迎えの際に見かけるお母さんは暗めの茶髪だったので父親の遺伝なんだろう。いや、うちの竜胆のようなケースもあるので断言はできないな。そもそもゲームキャラなら親と違う髪色でも問題ないし。


 そこは置いといて、山吹君は普通の子だけどクラス内でもよく目立った。あの派手な頭髪はそんなに関係なく、本人の性格と顔立ちがポイントになっているらしい。

 幼稚園児でも色恋はある。乱暴ではなく、優しくて、誘えばおままごとにも参加してくれる人懐こい美少年にばら組の女子はメロメロなのだ。

 朝は彼と「お当番さん」のペアになった女の子を羨ましがり、お弁当の時は彼の隣の席を取り合う。お昼休みは自分達の遊びに誘い、帰りはお迎えが来るまで周りを囲んだ。

 幼稚園であんなあからさまにモテるやつ初めて見た。


 俺が普段仲良くしている子達も山吹君が気になるらしく、よく一緒に遊ぼうと誘いに行っている。

 その場合、山吹君は笑顔で了承してくれるのだが、周りの子達が許さない。


「えー、みさ達とブランコするんじゃないの?」


「違うよ!ほのかと昨日お花のゆびわ作る約束してたもん」


「でも今おままごとしてくれるって言ったじゃん」


「違うってば!お絵かきするの!」


 今日も早速彼と遊びたい女の子達が揉め始めた。

 山吹君が何でも「いいよ」って返事しちゃうからああなるんだな。昨日約束してたなら、今日のお誘いは断りなさい。

 渦中の山吹君はぽやーっとして、女の子達の争いを眺めている。なんだあの他人事みたいな顔は。

 今日は良い天気で外の明るい日差しが射し込んでくるためか、彼は段々うとうとし始めた。嘘だろお前寝る気か。

 

 友達が山吹君争奪戦に参加しているため、教室から移動できない俺は彼らの観察を続ける。

 女の子は男の子に比べて口が達者だと言われるが、まさにその通りで誰も引こうとしない。みんなで遊ぶという考えはないようだ。話し合いは終わりを見せず、いい加減泣き出す子が出てきそうだった。

 山吹君はその場に座り込んでぼーっとしているので頼れそうにない。

 仕方ないと女の子達の間に割って入り、ジャンケンを提案した。

 

 ジャンケン、それはどんな揉め事でも解決できる公平な手段。

 幼稚園ではジャンケンが全てだ。勝ったものが正義と言っても過言ではないので、もうみんなジャンケンに命懸けてる。

 

「やったー!ともや君、お絵かきしよう!」


 勝ったのはお絵かきの子だった。床に寝転がっていた山吹君の腕を引っ張り立ち上がらせる。

 これで解決、かと思いきや負けた俺の友達が、俺のスモックを掴み涙声で「おままごと~」と訴えた。そんなん言っても負けたじゃないですかー。

 慰めるが納得できないらしく、このままでは本格的に泣き出してしまいそうだった。

 一緒にお絵かきさせてもらえば?と言えば、ジャンケンに勝った子も「みんなで描こう」と快諾してくれたので俺達のグループも今日はお絵かきをすることになった。友達は山吹君と一緒に遊べるなら何でもいいらしい。


 ロッカーから各自クレヨンとスケッチブックを取り出し、椅子に座る。

 特に描くもんないなーと思っていると先程までの眠気はどこに行ったのか山吹君は嬉々として絵を描いていた。

 お絵かき好きなのかな?と移動して覗いてみると彼のスケッチブックには2本のピンで前髪を留めているポニーテールの女の人の顔が描かれていた。

 女の人、というより女の子といった印象だが、口紅も塗られていたので女の人に違いない。誰を描いたものなのかすぐにわかった。


「それ、加奈子先生?」


 聞いてみると山吹君は笑顔で頷いた。

 加奈子先生は俺達ばら組の担任だ。優しくて若くて可愛い先生。

 スケッチブックを見せてもらうと山吹君が今まで描いた絵は殆どが加奈子先生だった。


「またかなこ先生描いてるの?」


「ともや君ってかなこ先生ばっかり描いてるよね」


 他の子達も集まってそう言うと山吹君はきょとんとした後、目に涙を溜めた。え、なんで!?

 

「だ、だって……好きっ…なんだもん~!」


 そして号泣。

 決してバカにされたわけでも非難されたわけでもないのに、どうしてそうなるんだろう。子供って難しい。

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