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 4月になると5年生になった。

 恒例の係決めから始まり、面倒なクラス代表は誰も立候補せず、またもやくじ引きになったが今回は無事に切り抜けることができた。以前までの俺と同じと思うなよ。

 クラス代表以外なら何でも良かったのだが、どうせなら今までやったことのない係をやろうと思い、掲示係というものになった。

 これがまた信じられないくらい楽な係だった。毎月、各教室に届く行事予定や献立などの掲示物に色を塗って壁に貼っておくだけ。時々ホームルームでお知らせをするものの「プリントが貼ってあるので見ておいてください」で終わる。

 なんてこった、こんなに素晴らしい係があったなんて。次も掲示係を狙おう。

 相変わらず提出物を出してくれない久藤少年に苦労している新クラス代表の子達を横目にのんびり過ごす。

 久藤少年は学年が上がっても絶好調だな。


 そして、5年と言えば児童会に選ばれる子が出てくる学年だ。

 どちらかといえば6年が仕切る組織なので、5年から選ばれるのは基本的に一人だけらしい。今年はなんと山吹君が児童会のメンバーになっていた。

 出来る子だと知っていたが、彼は本物の優等生だったらしい。あの眼鏡はキャラ付けじゃなかったのか。


 学年が上がるごとに外見的にも内面的にも様々な変化が訪れる。

 女子の間では、ひっそりとカースト制度の土台となるものが出来上がっていた。

 表向きは皆仲良くしているが、その裏では幾つかの仲良しグループに分けられている。簡単に言うと気が強かったり、自己主張の強い子達が集まるグループ、あまり目立たない大人しい子達の集まるグループなど。

 もちろんグループを越えて仲良くしている子が殆どだが、中には用がなければ喋らないなんて子達もいる。

 まあ、相性ってものがあるからな。クラス全員大好きなんて無茶な話だ。

 俺は昨年クラス代表をやっていたこともあり、今のところ皆と仲良くやっているが中等部に上がったらどうなるかわかったもんじゃない。

 ママ友と言い、女は何かと面倒だ。一生グループ分けされて生きていくんだろうか。


◆◆◆◆◆◆


「勉強会?」


「うん、放課後に図書室で」


 中間テストが近くなってきた頃、誠に勉強会をやろうと誘われた。


「百合香って天才なんでしょ?」


 そんなわけねーだろ。

 なんだその聞き方。一体誰にそんなデマ吹き込まれたんだ。

 否定すれば「違うの?お母さんが百合香のお父さんに聞いたって言ってたよ」ときょとんとした顔で返ってきた。おい親父。またか親父。


「けど、成績良いのは本当なんだよね?もしよかったら教えてくれないかな」


「それは構わないけど……」


 誠ってそんなにやる気あったのか。

 別に不真面目な子に見えるわけではないが意外だ。

 授業内容が難しくなる中学生や受験を控えた高校生なら分かるが、小学生でテスト前に勉強会なんて余程学業面に力を入れている子しかやらないものだと思っていた。

 しかもここって私立だぞ?言っちゃなんだがエスカレーター式なので真面目に勉強している子は少ない。

 自主的にテスト勉強なんて偉いね、と感心すると誠の表情が曇った。


「4年生は順位付けされるんでしょ?実は学年で10位以内に入らないと教育テレビしか観られなくなるんだ……」


 何それ可哀想。

 誠は「これは死活問題だよ」と聞いたことのない真剣な声色で語った。

 既に塾にも通っているらしいが、心配なので同じ学校の先輩で天才の俺に見てもらいたいのだと言う。誠ママって意外と厳しいんだな。


 ということで学年10位以内を目標に掲げた誠と放課後に勉強会をすることになった。

 図書室の2階の窓に面したカウンター席で、下校中の生徒達を眺めながら教科書を広げる。

 誠は特にできない科目はないようで、どの教科の問題もすらすら解いていた。

 なんだ、余裕じゃん。

 と思ったがこれで10位以内に入れるかは分からないし、本人が不安なら納得できるまで勉強した方が良いだろう。


「あ、百合香」


「山吹君」


 誠の教科書をぺらぺら捲っていると児童会入りした銀髪少年が後ろを通り掛かった。

 あれ、山吹君って俺のこと呼び捨てだったっけ?

 まあ、多感な時期なので女子にちゃん付けはしたくないのだろう。

 山吹君は俺達の手元を見て「勉強してるの?偉いね」と褒めてくれた。もうすぐテストだから、とさも発案者かのように返す。

 誠は見知らぬ人間の登場に、困り眉でもじもじしていた。このお兄ちゃんは怖くないぞ。ちょっと天然なだけだぞ。


「山吹君はテスト勉強してる?」


「うん。塾のない日に家庭教師の人に来てもらって一緒に対策してる」


 えー!そこまで!

 流石児童会メンバーは違う。塾にプラスして家庭教師もついてるなんて受験生かよ。


「ちなみに去年のテストはどうだった?学年順位は?」


「1位だったよ」


 こいつか!こいつに負けたのか!

 俺の順位も聞かれたので3位だと答えたらすごいじゃん!と言われた。嫌味か?

 誠は俺という天才を負かした山吹君に尊敬の眼差しを向けていた。

 山吹君って多分アレだわ。ゲーム内では真面目で成績優秀な憧れの先輩枠だわ。生徒会長か風紀委員長になるんじゃないか。

 今日は暇だから、とそんな山吹君も加わりこの日は三人で勉強会をした。なんだろう、このメンバー目がぱちぱちする。

 1位の正体が判明したので、とりあえず今回は打倒山吹君を目標にして俺も真剣に取り組んだ。


 そして挑んだ中間テスト。結果は学年では4位。

 下がってる!?

 昨年以上に頑張ったつもりだったのでただただ驚いた。

 1位はやっぱり山吹君で、総合点を比べるとその差は23点。この間に、まだ二人いる。

 塾に行かずにこれなら優秀じゃないか、とも思えるが、俺は元大人なんだからある程度は出来て当然だ。

 くそ、まだまだ勉強量が足りないのか。

 いつも通り両親に「よっ、天才!」とヨイショされても悔しさは紛れない。

 まさか下がるとは……いや、周りが上がったってことか?

 敗因を探っていると誠から電話が掛かってきた。


『勉強付き合ってくれてありがとうね。百合香のお陰で学年とクラスで1位取れたよ!』


 えー!?

 受話器越しでも分かるほど嬉しさを隠せない様子の誠に辛うじて「誠が頑張ったからだよ」と返した。

 ねえ、ちょっと待って、1位ってそんな簡単に取れるものなの。

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