1
今回だけ連続投稿です
そろそろ目を覚まさなくてはいけない。
どこか漠然とした、それいでいて徐々に大きくなっていく焦燥感に駆られて急いで重い瞼を上げる。
急に瞼を開いたものだから瞳が差し込む光に驚いたのだろう、飛び込んできた真っ白い世界に頭がくらくらとする。
一度、目を閉じてから今度は注意深く徐々に瞼を開いていく。
ようやく目が光に慣れたところで次はゆっくりと半身を起こそうとしたが、霞に巻かれたような心地と自分の体の下から香るイグサの良い香りに段々と億劫となり、再び体を畳に預けて眼前いっぱいに広がる美しい高い天井を見つめる。
天井は、濡羽色の細い二本の細い柱を一対としてそれをいくつも組み合わせて一面格子模様を造っている。
格子を造る漆塗りの柱と柱の重なり合った部分には、金の箔でちょうど井桁を表すように飾られている。
さらに格子の内側には鳥の子色の板が張られ、中心には格子の内側いっぱいに円形の別の板がはめ込まれているのだが、そこにはそれぞれ色とりどりの花や木々、鳥獣虫魚の様子が精緻でまたとても美しい彩色で描かれている。
「はぁ・・・・っ」
知らず知らずにため息が零れる。
ほんの少しでも視線をずれせば、天井画がいじけてどこかに隠れそうな気がして目が離せない。
そうやっていったいどれだけの間、天井をみつめていただろう。
これを見飽きることは永遠になさそうだったが、頭の片隅にもっと他に面白そうなものがあるかもしれないという好奇心が湧き上がる。
それでもまだ体を動かす気にはならなかったので、目線だけを少し畳の方へ向けてみる。
すると体を起こそうとした際には目の眩みにばかり気を取られて気が付かなかったが、目の端に映る繧繝錦を張った畳縁を見つけることができた。天井画を見ずともこの場所がいかに手をかけられて作られたのかがよくわかる。
「オルガ」
落ち着いた声がしんと静まり返っていた座敷に響く。
ここにはひとりきりだと思っていたため突然の自分以外の声に微かに体が跳ねたが、
低くとも良く通るその声を耳にしてじんわりと温かなものが自分の中に流れ込んでくるのをオルガと呼ばれた女は確かに感じた。