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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
8/18

領土交渉という名の殺戮

 



「ただいま、インキュバス、サッキュバス、いい子にしていたか?」


「もちろんですわ!ルシフェル様のお帰りを今か今かと待ち望んでいましたのよ!」


 微笑みながら問いかけるルシフェルの優しげな声に、パァっと明るい表情を浮かべたサッキュバスが興奮した様に、腕を振り回しながら答えた。

 少女のような身体はルシフェルよりも少し小さい。

 宛ら、興奮しながら話すサッキュバスの表情は恋する乙女のようだ。


「いやいや、ルシフェル様、私の方が数倍良い子だったと思うよ?サッキュバスはルシフェル様がいないぃー、だのとキィキィ五月蝿かったからねぇ?」


 そこに割って入っていった青年インキュバスはあたかも自分の方を褒めてくれと言わんばかりに、ルシフェルが居なかった屋敷内で繰り広げられていたサッキュバスの騒がしい行動を告げ口する。


「ま、まぁ!?インキュバスったら何を言っているのかしら?ついに幻聴まで聞こえるようになったの?頭がおかしいとは前々から思っておりましたけど、ここまでとは…さすがのサッキュバスも同情致しますわぁー」


「ハハッ、幻聴だなんて白々しい嘘はやめたらどうだい?そんなに自分の醜態をルシフェル様に知られるのが怖いんだねぇ?私こそ君に同情するよ、か わ い そ う に !」


 話し方こそ親しげな物だが、言い合う二人の間にはバチバチとした火花が散っているかのように見えた。


「やめないか、二人共。」


 バチバチと火花を散らす二人の肩を叩くと、ピタリと言い合いは終わった。


 彼等にとって、ルシフェルの言葉というのは絶対的な物のようだ。

 底知れぬ忠誠心のような愛情のようなものを感じさせられる。


「インキュバス、サッキュバス、お主らに紹介したい者を連れて来た。今日から我の側近としてここに住まわせる、アザゼルだ」


 ルシフェルがアザゼルの方へと顔を向けると、インキュバス、サッキュバスも追うように目線の先を見つめる。

 全員の視線が自分に一気に集中したアザゼルは、こそばゆく感じ、頬を少しだけ紅潮させた。


「あ、その、あれだ、俺の名前はアザゼル、ルシフェルを王にするために一緒にいる事になった、ここに住むってのは今初めて聞いたけど、まぁよろしく」


 右手を頭の後に回しながら、自己紹介をする。

 何年ぶりになるであろう自己紹介は、結構照れくさいものだった。


「ふーん、そっかぁ、アザゼルなんてずいぶん立派な名前だねぇ?そんなに凄い能力でも備わっているの?」


 インキュバスは疑いをかけるかのような目で照れたアザゼルを見つめた。

 突然の質問に、なんて答えれば良いのかわからないアザゼルはルシフェルに助けを求めるかのように視線を送る。


「こいつの能力は驚異的なまでの自己再生能力。人間の身でありながら見事なものだぞ、そしてもう一つのポイントは戦闘時のみ発揮されるであろう、残虐性だ。インキュバス、お前程度ならもしかしたら、こいつに惨殺される事もあるかもしれぬなぁ?ククッ」


 アザゼルに疑いの目を向けるインキュバスを脅すルシフェルは何処か楽しそうだ。

 しかしながら、その残虐性のあるアザゼルを躊躇いなく貫いた彼女こそ一番危ない存在のように思える。


「お、脅さないでくださいよルシフェル様ぁ、私はこう見えてか弱いんですよぉ?」


 若干涙目の顔をルシフェルに向けたインキュバスは弱々しい声を出す。

 確かにあまり強そうではない雰囲気だった。


「フンッ、自己再生能力や残虐性が優れているってだけで側近にしてもらえるなんて、贅沢な男ね!ルシフェル様?このアザゼルという男、人間だと仰いましたわよね?所詮は人間、何の役にたつといいますの?自己再生が出来たところで、ひ弱な人間の戦闘能力なんてたかが知れていますわ!」


 アザゼルを罵倒するサッキュバスは、不満げに腕を組むと、先程のインキュバスの疑いの目など比べ物にならない程、睨むようにアザゼルを凝視する。


 その視線に、威圧感を感じた身体は少しだけ仰け反った。


「まぁ、確かにサッキュバスの言う通りではあるな。再生能力で死なないとは言えど、反撃出来なければ意味が無い。しかしながら我がこの男を傍に置くのは興味があるからだ、端からそのような期待などしていない。敵の候補者が現れれば、間違いなく我が殺す。それで何も問題はないはずだ」


 異論はないな?と言うような威圧的な目をするルシフェルに怯えるようにして小さくなるサッキュバスはコクリと頷いた。

 やはり、ルシフェルの言葉というのは絶対という事のようだ。


「で、でも、お言葉ですけど!一つだけサッキュバスにも提案させてくださいませ!明日の領土交渉、彼を連れて行っても良い…?」


 彼と言いながらその小さな手でアザゼルを指さすインキュバスは気まずそうに尋ねた。

 ルシフェルの存在が恐ろしいのか、少しばかりか震えている。


「領土交渉…か、良いだろう。連れていけ、どれほど役に立つかは定かではないがな、それでサッキュバスの気が済むというのなら、我は許可する」


「ありがとうございますですわ!」


 許可を得た事に、またパァっと明るい表情へと戻っていくサッキュバスは凄く愛らしい小動物のようだった。嬉しそうにピョンピョンとその場で跳ねている。


「えぇー、サッキュバスだけずるいよルシフェル様ぁ!私も同行したいよぉ!」


「インキュバス、お主には留守番を任せる。我の家だ。しっかり守れ、これも大事な仕事であるからな」


 駄々をこねるインキュバスをなんとも適当な理由で宥めると、アザゼルの方を向いた。


「聞いた通りだ、アザゼル。明日の領土交渉、お主にも行ってもらう事になった。我の側近になってからの初仕事というわけだ。しかし残念な事に今回、我は一緒には行かぬ、実に簡単な仕事だからな、我がベッドで寛いでいる間にさっさと済ませてこい」


 ニコやかに微笑んだルシフェルの口元からは牙が見え、可愛いものだったが、一緒に行かない理由が自らが眠りこける為だと思うと、なんだかやるせない気分になってくる。


「おいおい、なんだその理由?面倒臭がりかよ、ていうか領土交渉ってなんだ?」


 ルシフェルの話す理由に呆れると、聞き慣れない言葉に首をかしげたアザゼルはキョトンとした顔をした。


「領土交渉についてはこのサッキュバスが話させてもらうわ、簡単に言えばその土地くれませんか?って話になるかしら。魔王候補達の間では候補者を殺して順位をあげる方法もあるけれど、その他に、奴隷として売り捌いた人間の数、人間から奪った領土の数、後は人間を殺した数など、そういったもので順位を上げる方法もあるのよ、そして今回増やすのは、人間から奪った領土の数、という事になるわね。」


「ほう…なるほどなぁ」


「でも、領土“交渉”だなんて言ってるけど実際はもっと横暴なものよ。一人づつ村人殺すから、その間にこの土地支配させてくれるか決めてくださる?といったところかしら?」


「えげつねぇな…」


「それが魔王国の者のやり方よ、人間であるアザゼルに果たして出来るかしら?同種である人間の手足を一本づつ引き抜いて、刻んで、折りたたんで、10人程度で終われば、順調に事が運んだと言えるわね」


 サッキュバスの言葉に、引いた。

 人間であるアザゼルが人間を惨殺するのだ。

 なかなかすぐに決意できるものではない、しかし、アザゼルにはルシフェルに害をなす者を皆殺しにする、という約束があった。



 ーーーもし、その村人達がルシフェルを傷付ける未来があるなら、俺は…


「…なぁ、そいつ等って、ルシフェルにとって何か害があるものなのか?」


 アザゼルの問いに、サッキュバスではなく、ルシフェルが口を開いた。


「害、か。特にないな、たかが人間如きだ。しかし、“ 行かない我に害はない”この言葉の意味がわかるか?お主も人間ならわかるだろう、自らに襲いかかる火の粉を払う為に戦う、この場合、火の粉はお主等だけどな?…いいか?よく聞けアザゼル」



 ーーーー殺さなければ、殺される



 ただそれだけだ、とルシフェルは真剣な瞳をして言い放った。


 殺さなければ、殺される。


 低級悪魔をひたすらに刺していた時に考えていた言葉だ。

 それがルシフェルの声で、聞こえてきた。

 ハッとしたアザゼルは、少し時が止まったかのように停止してから、口角を上げた。


「あぁ、そうだ。人間だろうと悪魔だろうと殺さなければ、殺される。ルシフェルに害がなくても、俺に害があるなら」



 ーーーー皆殺し、だ



 ニタァと虚ろな目をして笑うアザゼルの姿は狂気的なものであり、その表情にインキュバスとサッキュバスは頬に汗を流し、息をのんだ。

 ただし、その狂気的な表情を見て一人微笑むルシフェルは


「…決定、だな」


 と呟いた。

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