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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
7/18

目の前に広がる豪邸

 



「うっわー、すっげぇなこりゃ」


 アザゼルは関心したように、辺りをキョロキョリ見回しながら呟く。空いた口が塞がらないという感じだ。


「当たり前だ。この国唯一の街の中心部だぞ?」


 少し前を歩くルシフェルは、慌ただしく首を左右に交互に動かすアザゼルの方をチラリと振り返ると、誇らしげにフッと笑った。



 二人が今、歩くのは魔王城の少し下に位置する、城下街。

 街の中は、先程現れた低級悪魔の一号二号のような謎めいた見た目の者や、如何にも魔物と言った感じの鋭い爪を持った二足歩行の肉食獣のような者、それにルシフェルと同様な人間のような者、様々な容姿の者達が賑やかせていた。


 それは人間の街とほぼ変わりなく、洋風な建物のようにレンガ造りかと思われるような建物が多く並び、淀んだ空とは似つかわしくないほど、辺りの建物は灯りに照らされている。

 人間の街でいうならば、夜の賑わう街といったところだろう

 。


 店を開く者、子供を連れて歩く父母、それ等は確かに人間とかけ離れた容姿をしているが、それを除けば見慣れた光景のようで、平和そのもののように見える。


「なんか魔王国って感じだなぁ、魔物だらけじゃん、けっこう人型もいるみたいだけど、なんかみんな基本、角ありだし」


 人型の者達を見るが、皆が皆、大きさ、本数は様々だが頭に角が生えているのを見ると、少し前を歩くルシフェルの元へ駆け寄り、口元が周りに見えないように隠し耳元でヒッソリと


「なぁ、もしかして俺浮いてない?」


 と言った。

 何故なら、何やらやたらと既存の国民達とよく目が合うような気がしていたからだ。しかし、目が合ってもすぐに逸らされる。


 そんなアザゼルの言葉に、ピクッと反応したルシフェルは耳元へ近寄って来ていたアザゼルの方は向かず、前だけを見つめている。


「あぁ、浮いている。しかし、お主が人間だからでは無いぞ?」


「えっ?じゃあどういうーーー」


「そこの窓ガラスで自分の身体をよく確認するがいい」


 前を向いていたルシフェルが、横を向くとクイッと首を動かし、あそこだと言わんばかりの態度をすると立ち止まる。

 ルシフェルが言った方向を見ると、そこは昔は何かの店であったかのようだが今は廃墟であろうか、という建物があり、窓ガラスにはアザゼル自らの姿が映し出されていた。


 長くも短くもない黒髪、中性的な顔で、実年齢よりもいくらか幼く見える。しかしそんな自分の姿は見慣れていたのだが、見慣れない事が一つだけあった。


 それは穴のあいたTシャツとジャージのズボン。

 幸いな事に黒のTシャツに紺色のズボンだった為か血こそわからないものの、ボロボロだ。


「なるほど、通りでなんかスースーすると思った!」


 掌に拳を乗せ、ポンッと叩くと納得というような顔をしたアザゼルを、変なものでも見るかのように眉をしかめたルシフェルは溜め息をつく。


「はぁ、バカかお主は。よくもまぁ気付かないものだな。因みに我がお主よりも前を歩いてたのは、他人のフリをしたいがためだ、そんな見窄らしい格好のやつを隣に歩かせていたら我の品格が疑われてしまう」


「だが、その見窄らしい格好のやつがお前の側近なわけなんだが、そこはどう思う?」


 呆れているルシフェルにアザゼルは、茶化すようにニヤニヤとしながら言ったのだが


「なるべく早めに死ねばいいと思う」


 とバッサリ言い切られてしまった。

 思っていたよりキツイ言葉が返ってきてしまった事に、肩を落としたアザゼルはとても不憫なものだった。




 ************




 城下街を抜けると森のような道へと繋がっていた

 しばらく他愛もない話をしながら歩くと、ピタリとルシフェルが立ち止まる。


「着いたぞ」


「はぁ?着いたってどこにーーー」


 着いたという言葉の意味がわからないアザゼルは、ルシフェルの視線の先を見る。

 目の前には城というにはやや小さめだが、乳白色が基調とされた洋風な造りの豪邸が建っていた。

 特に頑丈そうな門があるという訳では無いが、レンガ造りであろう塀に囲まれている。


「なんだ?この豪邸、しかもまた魔王国っぽくない作りだなぁ、もっとこう真っ黒で禍々しい建物ばっかりだと思ってたよ、で、ここ誰んち?」


 関心したように腕を組みながらその豪邸を上から下まで眺めた後、立ち止まるルシフェルの横顔を見ながら首を傾げる


「我の住まいだ」


 アザゼルの顔を見ようともせず、キッパリと一言そう言ったルシフェルの言葉に驚き、豪邸とルシフェルの姿を交互に見ると、溜め息を零した


「おいおい、まさかとは思ったけどお前お嬢様的なやつなのか?魔王候補の位ってのは家柄の地位が高いとかそういう所から決められてたりするわけ?」


 思っていたものとは違ったかのように呆れた様子で、やれやれというように手を広げるアザゼルの言葉に、ムッとすると眉を動かしたルシフェルはアザゼルの方を向くと、軽く睨みつける。


「家柄の地位などというものはこの魔王国には存在しない。我の力の強大さがあるが故にここに住まえるのだ、家柄だのお嬢様だの馬鹿馬鹿しい、無駄口を叩く暇があるならさっさと中に入るぞ、いつまでそんな見窄らしい姿で外にいるつもりだ」


 ムッとした表情のまま、フイッと豪邸の方へ顔をむけ、中へと歩き出す。


「あ、おい!ちょ、ルシフェル!怒んなよ!」


 置いていかれてしまったアザゼルはルシフェルの背を追いかけ、自らも中へと入っていく。隣に並らび同じ速度で歩いていくと、ルシフェルは気まずそうに口を開いた。


「我は不愉快に感じたが、怒ってなどいない。腹立たしいとは思ったが…」


「腹立たしいってのは怒ってたって意味と一緒じゃねぇのかよ!?」


「だ、黙れ!目上の我に向かって反論とはいい度胸だ!今すぐにでもお主の身体を穴だらけにしてやるぞ!」


「あーでたでた!またそれだ!すぐ穴あけようとする!いいっすよー俺の身体、すぐ治るしやれるもんならやってみればー?」


「アザゼルッ…!!おま、お前ってやつはぁ!」


 子供のような言い合いを繰り返しながら、ギャアギャアと騒がしく玄関へと繋がる道を並びながら歩いていく。


 庭はそれなりに広く、玄関へと繋がるであろう道の両サイドには花壇、上にはアーチが出来ており、青い薔薇が咲き乱れている。とても綺麗に手入れをされているようだ。


 しかし、そんな綺麗な花など、今は二人の目には微塵も映っていないことだろう。

 言い合いをしていたアザゼル達は玄関の扉の前まで行くと、やっと落ち着きを取り戻す。


「ハァハァ、もう、いい。お主、ひとまず休戦だ。中に入って紅茶でも飲もう…」


「ハァ、あぁ…そりゃいい考えだ」


 言い合いをしていた為、大声の出しすぎで疲れ果て、息を荒らげると、玄関の扉を開き中に入る。


 豪邸とも言える屋敷の中はなかなかに綺麗なものだった。

 中央には当たり前の如くレッドカーペットが敷かれ、床はタイル。

 壁には大きな趣味の悪い首を吊った人間の絵画。

 勿論、天井にはシャンデリアだ。

 左にも右にも扉があり、目の前には階段が広がる。


 中に入ったアザゼルが、そのあまりに豪華な光景を呆然とした顔で見ていると、ガチャッと勢いよく扉を開けたであろう音が響く。両サイドにあった扉が全開に開かれたと思えば


「ルシフェル様ぁあ!おかえりなさいませですわぁー!」


「ルシフェル様!おかえりぃ!会いたかったよぉ!」


 と、少女と男性の元気な声が聞こえてきた。


 右側の扉からは真っ黒で、フリルが沢山ついた(くるぶし)程まである丈のドレスを着て、ウェーブのかかった肩にかかるぐらいの金髪の少女

 左側の扉からは長身で細身のタキシードを着た、襟足の長いこれまた金髪の男性


 が、現れた。

 勿論、二人の頭にはルシフェル程ではないが、小さな黒い角が二本づつ生えている。


 全力疾走の如くルシフェルの方へ走り寄ってくるその男性と少女を見たルシフェルの表情が和らぐ。


「ただいま、インキュバス、サッキュバス。いい子にしていたか?」


 微笑みながら、インキュバスと呼ばれた男性、サッキュバスと呼ばれる少女を交互にみる姿は、今までで一番穏やかな表情をしていた。

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