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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
5/18

少年の名は「アザゼル」

 



 彼女は静かに微笑んでいた。

 突如現れた、というのが正しいのだろうか、今の今までそこにいた事には気が付かなかった。夢中になっていたからなのだろうか。


 ルシフェルと名乗るその少女を見つめる。


 一号や二号についている触角のようなものとは、大いに違った触角というよりハッキリとした黒い20cmほどの角と呼べるであろう物が頭に二本はえている。


 腰ほどまであるであろう、烏のように真っ黒で青光りした髪は寝癖のようにあらゆる方向に跳ね、ボサボサといったところだ。

 凛々しくつり上がった眉に、大きな瞳、口元には小さく八重歯が生えているのが見える。いや、人間に見えて人間ではないであろう存在だ

 牙というのが正しいかもしれない。

 顔立ちは整っており、所謂、美少女だ。

 何故、少女、と感じたか?というのは、簡単なことだ。

 背丈は150cmもないだろう小柄な身体。着ているのは真っ黒のノースリーブのワンピース。おまけに胸元には赤い細めのリボンが付いている。

 大人の女性が着るのには少し幼すぎる服装だ。

 そして、何故か靴や靴下は履いておらず素足のまま冷たいアスファルトの上を立っていた。


 すると、ルシフェルはゆっくりと少年のもとへと近づいていく。


「ん、と?誰だお前?俺今忙しいからお前の話に付き合ってやってる暇ないんだけど?」


 触角を掴みあげ、涙と流れる血液で顔がグシャグシャな二号をルシフェルの方へ向け、持ち上げる。

 どうやらこの生き物は、なかなかにして軽量のようだ。


 ほら、見ろよコレと片手で持ち上げた二号の頬を反対の手の人差し指でグリグリと押しやる。


「ル、ルシフェル様ぁ!こいつはそこに転がる同族を殺した人間です!その行動は非常に残虐的なものです!お助けをぉ!!」


 押し当てられた指のせいで上手く喋れてはいないが、必死の喧騒でルシフェルに向かい、声を荒らげる二号は、アスファルトの上に転がる肉袋と化した一号を指差すと、助けを求めた。

 さながら、二号の目には目の前にいるルシフェルが天から現れた一本の蜘蛛の糸のように見えていたに違いない。


 しかし、そんな二号を無視するかのように、少年の目を見ながら


「お主、我に向かって無礼極まりない。そんな薄汚い物を我の目に映すな、反吐が出る」


 と、言い放った。ルシフェルは嫌悪に満ちた目でチラリと二号を見ると、腕を胸の前で組み仁王立ちをし、言葉を続けた。


「おい、そこの低級悪魔、早くその汚らしい顔を我の前から消せ、ついでにそこに転がる肉袋も目障りだ、すぐに処分しろ、早急に、だ」


 睨みをきかせながら二号を見つめ、一瞬だけ一号を見ると、あっちへ行けというように首を動かした。


「ひ、ひぃ!」


 あまりに怖いものだったのか、二号は掴まれた手を払い除け、一号の元へ駆け出すと、手を掴み引き摺りながら、バタバタと慌ただしい音を立て急いでその場を後にする。


「あっ、逃げちゃった」


 少年は、払い除けられた手と走り去っていく二号を交互に見つめると、少し残念であったかのようにポツリと呟いた。


「あぁ、これはすまない。あまりに不快だった為、下がらせた、なにか不満だったか?」


「いや、別にもう居なくなっちゃったしいいや」


 少しだけ自らの発言が少年の気に触ったのではないか?と思い、凛々しくつり上がった眉を顰めたルシフェルであったが、特に気にした様子ではない少年の言葉を聞くと、安堵の表情を浮かべる。


 少年は、その場にドカッと腰を下ろすと、先程、槍が刺さり穴のあいたズボンを凝視するように下を向いた。


「なぁ、ここって何処なんだ?」


 穴のあいた部分を触り、下を向いたままルシフェルへ問う。


「お主、そんな事も知らないのか?ここは“魔王国”魔物や悪魔が住まう国だ、まぁ間違ってもお主のような人間がいる場所ではないな。ここに居るのは全てが人外だ、見ての通り我も、そしてお主が先程グチャグチャにした“低級悪魔”共も呼び名の通り、人間ではない」


「はぁ?魔王国?低級悪魔?なんだそりゃ」


 淡々と仁王立ちをしたまま喋るルシフェルに疑問の声を投げると、下を向いていた顔は前を向き、呆けた顔が顕になる。


「言った通りだ、人間。因みに低級悪魔というのは、我の配下でありながら最も地位の低い、いわばゴミのような生き物だ。頭の片隅にでもいれておけ、しかし、ここはお主等、人間の住まう国家とは明らかに違う筈だが、周りをみて気付かなかったのか?」


 その言葉にハッした少年は、辺りを見回す。

 先程まで夢中で謎の生き物を相手にしていたせいで、周りの風景など目に入ってはいなかった。


 空は、夜のように暗く、しかし、夜と断言は出来ないほどに、それともまた別の言い表し難い酷く淀んだ色をしていた。

 不思議なのは、辺りには建物などはなく、やけに殺風景としている事だ。

 国という肩書きがあるにしては、人、いや、魔物 の姿は見当たらない。通りで周りが気にならなかったわけだ。


 そして辺りを見回す少年は最後に身体を捻り、自らの後ろを見る。


 そこにはアスファルトで広がる地面の上に高く積み上げられた石壁、ちょうど真ん中あたりには何かの紋章のような、文字のようなものが一面に書かれた大きな門が聳え立っていた。

 確かに大きさだけで威圧感を感じる程なのだが、門一面に描かれた奇妙な羅列された紋章が気味悪く感じた。


「なん、だこれ、魔王城の入り口かよ、迫力ありすぎるだろ」


 開いた口が塞がらない、とはまさにこの事だ。

 聳え立つ門を目の前にし、身体に多少、鳥肌が立つ。


 死んだ筈が、目の前には気味の悪い門。

 傍には、角の生えた少女。

 傷が治る不思議な自らの身体。

 そして、魔王国という聞きなれない言葉。


 頭が混乱していく、頬に汗が伝った。


「お主、話を聞いていなかったのか?ここは城ではない、単なる魔王国の入り口に過ぎない、故に建物などはない。城は最深部に聳え立つ、あれだ」


 ルシフェルの声が耳に入ると門を見ていた身体を彼女の方に戻した。

 ルシフェルは門とは反対のアスファルトが広がる方を向き、少年に背中見せる。少しだけ上の方を指指していて、その先を少年は目で追った。


 指さされていた場所は、大分遠くにあると思われるのに何故だかハッキリと見えた。

 黒い霧がかかり、ところごころ隠されているが、洋風な造りの城とよばれるその建物は、酷く異様な雰囲気を醸し出しているのが遠目からでもよくわかる。


 RPGゲームなどで、ラスボスが住まうであろう魔王城。

 立体になったそれがまさか自らの目に映るとは思ってもみなかった少年は、開いたままだった口を閉じると唾を飲み込む。喉からはゴクリと音がした。


「おい、おい、まじかよなんだこれ、有り得ねぇだろ、俺、死んだと思ったら城でもなく平和な異世界でもなく魔王国なんかにいんの?ある意味地獄に来ちゃったって事かよ」


 おでこにじんわり汗を滲ませながら、城を見つめ続ける。

 すると、城の方を向き少年に背を向けていたルシフェルは、少年の言葉が不思議であるかのように眉をしかめながら振り返った。


「お主、何を言っている?異世界?死んだ?死んだのは先程の低級悪魔の一匹の方ではないか、お主は驚異的な治癒能力で生きているだろう」


 首をかしげながら、ルシフェルは少年に問いかける。

 いやそうなんだけど、と煮えきらない返事をしながら頭をかく少年の穴のあいたズボンを見つめながら、ルシフェルはニヤリと牙を見せ笑った。


「馬鹿なことを言う。わからぬか?奴は死んで人間であろうお主が生きている。その身体、どうなっているのだ?我は不思議でたまらない、我々の国では皆、そこそこの自己再生を目的とする治癒能力は備わっているのだが、お主ほどのものは見た事が無い。ましてや、お主は見るからに人間だ、何故人間のお主にそれほどまでの事が出来る?」


 ルシフェルは語りかけながら、徐々に腰を下ろす少年の元へと歩み寄ると膝を曲げ少年の前に座った。

 先程、自己再生したと思われる足にルシフェルの少し冷たい手が触れる。


「俺も知らねぇよ、なんで俺がここにいるのかもこの能力がなんなのかも、驚異的な治癒力だなんて言われてもパッとしない。敢えて言うなら神様から与えられた贈り物ってとこだろ」


 同じ目線の高さになったルシフェルの大きな瞳を見つめると、フッと鼻で笑う。神様からの贈り物、などという自分が少しだけ可笑しかった。


 表情を和らげた少年を見ると、ルシフェルの表情も微笑んだように目を細め、口角を上げる。


「この魔王国で神の名前を口にするなど、常人のする事ではない。ハハッ、お主面白いな。しかし、その贈り物とやらをもう一度だけ見てみたくなった、少しだけ、我慢してくれるか?」


 細めていた瞳は次第に元の大きさまで戻っていく。


 その時だった。



 ーーーーグチャ、グチュグチュ




 何やら、聞き覚えのある音が響き渡る

 少年の胸のあたりに酷く気持ちの悪い感触が広がる。圧迫を感じる胸元へと、ゆっくりと視線を移すと、

 彼女、ルシフェルの白く細い腕が、手首程まで突き刺さり、少年の体内に進入しているのが見えた。背中からは微かに、指先が生えているかのように飛び出ている。


「ぐ、ぁあ!?ゲホッ、ぁぁ゛ぁ゛ぁ」


 瞳にその光景が映し出された途端、気持ちの悪かった感触が苦痛へと変わる。

 喉から込み上げてくる逆流した液体の様なものを感じると、抑えきれず吐き出した少年の目には赤黒い液体が広がる。

 込み上げてきていた液体は血液。大量の血液が口から吐き出されたのだ。


 吐き出された血液は、伸びたルシフェルの白く細い腕を赤黒く染め上げ、ポタポタと血液がルシフェルの腕から少年のズボンの上、アスファルトの上に滴り落ちていく。


 少年には何が起こったのか、よくわからなかった。

 ただ身体を駆け巡る激しい痛みに顔を歪める事しか出来ない。


 しかし、その腕はすぐに引き抜かれていった。


 またしても、肉が擦れたようなグチャグチャとした音が響く。勢いよく抜かれた傷口からは血液が溢れ出している。もはや胸から下は血だらけだ。


「うがぁ、ぁぁあぁあああ!!」


 少年の悲痛な声が聞こえると、ルシフェルは少年の血で濡れた腕をペロリと舐め、牙を出して妖しげに笑った。


「さぁ、ここからが見物だ」


 そう呟くと少年の胸を凝視する。ルシフェルの顔はどこか楽しそうに見えた。

 激しい痛みに、小刻みに震える少年は、痛みのせいで最早、声もまともには発せられなくなっている。


 ーーーー痛い、痛い、この痛みは今日何度目だ、


 やっぱり、ここは、地獄なんじゃないだろうかーーー


 心の中で呟いた。何度も何度も感じる死にそうな程の痛みで、精神が限界だった。虚ろな瞳は、ルシフェルの足元をただ意味もなく見ていた。


「やはりか」


 ニヤリと笑ったであろうルシフェルの声が聞こえ、虚ろな瞳でゆっくりと顔を上げ、彼女を見つめる。


 ルシフェルの頬は少し紅潮し、身体は快感に震えるかのように両腕を抱えている。

 視線は穴があいているであろう、少年の胸元へと向けられていた。

 その表情を疑問に思った少年もまた、自らの胸元へと視線を移していった途端、虚ろだった少年の瞳には光が戻り、瞳はこれでもかというほど大きく開かれた。


 そう、少年とルシフェルの目に映るのは、あいた穴のような傷口が見る見るうちに塞がっていく様だった。


 ーーーーやっぱ、すげぇな、これ


 あっという間に傷口はなくなり、血液だけがそこに残っていた。

 少年の苦痛はまたしても一瞬にして消えた。


「あぁ、なんて素晴らしい光景なの!こんな一瞬で元通りだなんて!」


 先程までの堅苦しい口調ではなく、見た目相応の口調になるルシフェルはまるで少女のように興奮していた。少年の胸元に血で濡れた手で触り、傷が消えた事を確認している。


「凄い凄い凄い!凄いわ!…ハッ!?ふぅ…これがお主のいう神から与えられた力か、見事なものだ。お主、名はなんという?」


 ペタペタと胸元を触りながら興奮するルシフェルはハッとしたような顔をして、手を引っ込め、落ち着くように息をはいてからまた元の口調に戻ると、苦痛の消え平然とした表情の少年を見つめる。先程、吹き出していた汗がまだ残っていた。


「俺の名前はーーー」



 ーーーあれ?なんだっけ



 何故だか少年は自らの名前が思い出せないでいた。

 今の今まで気が付かなかった事に、驚きが隠せない。

 言いかけたまま、眉をしかめ考え込む少年を不思議そうに見つめるルシフェルは口を開いた。


「なんだ、お主、自分の名も言えぬのか?それとも、言いたくない、という事か?まぁどちらでも良い。名がないのならば、この我が直々にお前に名をやろう、そうだな、お主の名は」



 ーーーーアザゼル、だ。



 少し考え込み、空を見上げたルシフェルは、ゆっくりと少年の瞳に視線を戻し、そう、呼んだ。


「我はお主のその身体、それに我から見ても少しばかり残虐すぎるその行為の意味するものに興味が湧いた。アザゼル、我の配下になれ、お主を側近として扱ってやる。そして我のためにその身体、精神を使い」



 ーーーー我を王にしろ



 唐突すぎるルシフェルの言葉に、アザゼルと名付けられたその少年は呆然と彼女の顔を眺める事しか出来なかった。


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