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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
3/18

人は二度は死なない




 突き刺され、激痛を伴っていたと思われた太股からは血液が溢れ出し、洋服を赤黒くで染め上げ、アスファルトの上には血の海のようなものが出来上がっている。


 しかし、槍を刺され、破れたズボンの先には傷跡らしきものは存在しない。

 つい、数秒前まであった熱く、気持ちの悪い痛みもまるで無かったかのようだった。


 痛みで震え、動かなかった足が動く。

 この状況を打開するだけにはそれで充分だ。



 ーーーー考えている時間は、ない。


「死ねぇ!!」


 頭上に振り下ろされた槍を、避けるように身体を横へ飛ばす。

 だが、間一髪の状態で急所は避けられた、という所だ。


 既に痛みはなくなった足だが、先程の激痛を体は覚えているようで最大限の脚力で飛べたわけではなかった。

 アスファルトの上に上半身が強く擦れる。

 避けた勢いで横向きになった体の右側は、皮膚が擦れ、摩擦が起きたかのように熱い。


 ガチンと、鉄とアスファルトが当たる音がすぐ足元で聞こえた。


「んなあ!?貴様、恐怖で苦痛すら忘れたのか!」


 アスファルトの上に槍を突き立てながら、すぐ横に寝転ぶ少年に罵声を浴びせる。


「は、そう、だな。そうかもしれねぇ、お前に殺されるぐらいなら痛みぐらい、どうってこと無い、って事だろ」


 横向きになったまま、足元の方にいる一号を見て悪態を付く。

 しかし、この状況では強がりにしか見えない。


「少し避けたぐらいで、図に乗りやがって!まぁいい。次は避けれないようにするまで、だ。」


 そう言うと、軽く足を上げたと思いきや少年の膝下を強く踏み付ける。


「う、ぁあ!?ぁぁあぁっ!!」


 骨に伝わる激痛は足が折れたのだ、とすぐにわかった。

 槍で刺された時とは違い、足が圧迫され、潰れたかのような感覚に陥る。


 少年が悲痛な叫び声を上げると、一号は満足そうな顔をし、乗せていた足を下ろした。


「ハハハッ、ハハ、アハハハハハハッ!!」


 痛いい痛い痛い痛い


 気味の悪い生き物の甲高い笑い声が耳を突き刺す


 立て続けに起こる激痛で頭がおかしくなりそうだった。

 せっかく無くなったと思われた足の痛みが再来してしまったのだ。

 激痛に襲われた足を見れば、踏まれた箇所はヘコみ、青黒く変色している。

 溢れ出る冷や汗が止まらない。


 ーーーー俺が、何したっていうんだ


 頭の中で自分が何故この状況に置かれているのかを考えた。


 嘗めた態度をとったからか?

 槍を避けたから?

 俺が、通り魔なんかに刺されたから?

 そもそもここは何処なんだ?

 この生き物はなんだ?


 さっきあった激痛は何故なくなった?

 もしかしたら、この激痛もなくなるのか?

 なくなるなら、いつ?まだか?まだなのか?

 痛い痛い痛い痛い痛い痛いいだいいだいだい


 考えれば考える程、頭の中は混乱する。

 冷や汗で、髪が濡れ顔に張り付くのが鬱陶しい。


「ハハ、ハ、は、?なんだ、これは?」


 甲高い声で笑っていた謎の生き物一号が、少年の潰れている足を見て、信じられないという顔をした。


 何の事かわからない。痛む足に目線を向けた瞬間、少年の目は大きく見開かれた。


 先程までヘコんでいた足が見る見るうちに元の形状になり、青黒く変色いた皮膚は、本来のあるべき色になり、見慣れた足へと戻っていく。


 溢れ出ていた冷や汗はピタリと止まり、激痛が消えた。


 ーーーーまた、だ。痛く、無い


「なんだなんだなんだこれはあ!?何故戻った!?何故だ!?」


 目の前で起こり得た奇妙な光景を見た一号は、声を荒がれ半歩ほど後退りをする。



 “驚異的なまでの自己再生能力”


 自身の傷付いた身体を自然治癒力によって、再生させる事が可能。本来、人間の身体ではここまでのスピードで傷口が治ることなど有り得ない。ここまでの速さで治るという事は、一種の不死身、と名付ける事にも違和感はない。


「あぁ、そうか、そういう事か、へぇ、なるほどなぁ、こりゃいいぜ」


 寝転び苦痛に叫んでいた男の顔に笑みが浮かび上がってくると、ゆっくりとアスファルトの上に手をつき、身体を起こす。


 先程までの表情とはうって変わり笑みを浮かべる少年を見て、後退りをしていた一号は尻餅をついた。

 その途端、持っていた槍は手を離れ、アスファルトへと転がる。


「ひぃ!?き、貴様、人間ではないのか!?それほどまでの再生能力など、見たことも聞いたことも無い、有り得ない、有り得ないだろお!」


 声を震わせ、怯えた表情の瞳には薄ら涙が浮かび上がる。

 立場が、逆転した。


「へぇ、俺も知らなかったよこんな事が起こり得るなんてなぁ?神様ってのが本当にいるなら、不幸な俺にくれた贈り物ってとこなんだろうよ、だってそうだろう?人ってのは」



 ーーーー二度は死なねぇんだよ




 ジリジリと尻餅を付く一号の元へ近づき、落ちていた槍を掴みあげると、涙を浮かべる一号の爪先目がけて槍を突き下ろす。


「っ!ぐぎゃぁっ!」


 震えて動けない一号の悲痛な叫び声が響き渡る。先程までは口も出さず静かにその場にいただけの、二号の瞳にも動揺が見えた。


 突き刺さった槍を荒々しく引き抜くと


「案外、爪先って使い物にならなくなると立つのに支障が出るよな?当分は歩けないだろう?可哀想だなぁ、そうだ。この際だから」


 ーーーもう立つの辞めれば?


 名案を思い付いたかのようにニヤリと笑うと、

 引き抜かれた槍は、爪先から少し上に移り、足首、膨ら脛、太股であろう場所を刺しては抜き、刺しては抜きを繰り返していく。


 引き抜く度に吹き出る血液がアスファルトの上に散らばる。


「ひぎやぁぁああ!ぎ、がぁっぐぐ、ぁぁああうぁあ!!!」


 悲痛な叫び声は突き刺さる度に次第に大きなものへと変わっていく。


 太股を突き刺し、引き抜いた所で少年の握られた手からは槍が零れ落ちる。

 ガランガランと落下音が鳴り響いた。


 もう?終わりか?というかのように一号は苦痛で歪んだ顔を少年の方へ向ける。瞳には微かに期待を抱いているのがわかる。


「刺された痛みってのがお分かり頂けたか?はい、じゃあ次は、骨が折れる痛みタイムだ」


 一号の前に屈み込むと、血液でヌルヌルになった膨ら脛を強く掴み、もう片方の手で太股を押さえつける。

 次の瞬間、膨ら脛が勢いよく上に持ち上げられ、テコの原理かのように、太股は先程よりも強く下へと抑えられた。


 膝は、本来では曲がる筈のない方向にバキバキと軋む音をたてて曲がっていく。


「ぁぁああぁあああ゛ぁ゛あ゛あ!!!!」


「耳元でギャアギャア喚くなよ、お前の声なんて“ 煩わしいだけ”なんだよ、はいじゃあ次反対いくよー」


 苦痛の叫び声を鬱陶しがるかのように、叫ぶ一号を睨みつけると、またあっけらかんとした表情で、反対の足へと手を移す。


「やめ、やめで、やめでくだざいぃ、たす、たすげで、だずげろよぉ!!」


 歪んだ顔を、あまりの狂気さにただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった二号へと向ける。


「し、知らね、知らねぇよお前が勝手にやった事だろ、こいつ、頭おかしいって俺は関わりたくねぇよ!!」


 動揺と恐怖が入り交じったような表情で、グチャグチャの足をした一号へと、言葉を返した。

 しかし、二号も二号で恐怖で足がすくみ、逃げ出す事は出来ない。


「ふ、ざげるなあ!!だずげろたすげろ助けろよぉ!!」


「あぁ、煩いなぁ、静かにしないともう1本今すぐ折るよ?」


「ひぃ、や、嫌だァ、貴様、もなぜここまで、する、必要があると、いうのだあ!」


 まだ折れてはいない方の足を掴みあげながら、意地悪く問う。

 自らがやった行為よりも何倍の行為が返ってきた一号には、何故、少年がここまでするのか、疑問であった。


「なんで、ってそりゃあ、槍を刺された時痛かっただろ?骨を折られた時、痛かっただろう?やめてくれって言った時、辞めなかっただろう?それを、ちょこっと割増しで返してるだけだよ」


 少年は無邪気に笑った。

 苦痛で歪む顔、グチャグチャの下半身、血まみれのアスファルト

 それらを目の前にしていながら、子供のような無邪気さ。


 それはまさに“狂人”というのが相応しかった。


 掴み上げられていた足が、またバキバキと音を立て、曲がった。

 悲鳴は最早、聞き慣れたものに変わっていた。


 曲がってはいけない方向に曲がった足から手を離すと、傍に転がる槍を再び手に取り、痛みで疲労しきっている一号の喉元の目の前まで、突き出す。


「俺に苦痛を与える奴なんか、」



 ーーーーみんな死ねばいい。



 突き出されていた槍がグチャリと音を立て、突き刺さった


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