二度目の死の恐怖の末に
ーーーー殺す、あいつを、殺す
ーーーー俺にこんな痛みを与えた奴を、助けてくれなかった奴を
ーーーー殺す、絶対にッ……
「ぶっ殺してやるッ……!!」
「んひぃ!?なんだこいつぅ!?」
痛みで喋れる筈のなかった口からはハッキリと声が発せられた。
身体の痛みはまるで初めから存在しなかったかのように、楽なものになっている。喉からはヒューヒューとした呼吸がしずらい音も聞こえては来ない。
一つだけ同じ、と言えるものは頬に感じるアスファルトの冷たさだけだった。
出る筈が無いと思われた口から声が発せられた事に驚き、バッと目を見開くと、光が射し込む。
暗かった夜道は瞳には映っておらず、その変わり目の前には人間とは思えない生物の怯えた表情が映った。
「ぶ、ぶっ殺してやるだあ!?おま、おまえのような人間如きが何を抜かす!」
奇妙なまでに細い手足、顔から全身にかけて真っ黒な色をしている身体。腹は幼児のように丸く突き出し、手にはフォークのような形をした槍を持ち、頭には触角のような角が二本生えている。
その“ 生き物”は、ワナワナと身体を怒りで震わせ、少年に向かって怒鳴り声をあげた。
「なんだ、お前」
痛みのなくなった身体をゆっくりと起こし上げ、胡座をかくと、怒号の声をあげる生き物に問を投げかける。
「なんだ、だとぉ!?お前の方こそなんだ!人間!急に門の内側に現れるなど、どういう類いの魔術師だ!さっきの言葉といい、奇妙な格好といい、反逆者だろう!」
その生き物は、怒り狂ったように声を荒らげフォークのような槍を少年の顔の前に突き出す。
少年はその行動に少しビクッと肩を震わせるが、逃げようとはしない。
あくまで表情は冷静そのもののまま、謎の生き物を見据えている。
すると、槍をかざした謎の生き物の横から同じ形状の生き物がもう1人顔を出した。
「おいおい、たかが人間一匹に動揺しすぎだって、今はそんなやつに構っているほど俺等も国も暇じゃないだろ、さっさと殺して警護に戻らねぇとルシフェル様に叱られるぞ、それにこいつ見た感じ勇者じゃねぇみたいだし、な?」
同じ形状をしているとは言え、一人一人性格が違うようだった。
淡々と喋る謎の生き物は少年に向かって槍を向ける生き物の肩をポンと手を置き、諭すように言った。
「なんだよ二号登場かよ、しかもお前等個性ってもん持ち合わせてないのな、どっちがどっちかパッと見じゃ見分けつかねぇよ、フォークみたいなの持ってない方が二号で、お前が一号な。はい、決定」
槍をかざす生き物を一号と呼び、指を指す。
少年の表情は至って冷静なものだった。
「き、貴様ぁあ!?ふざけるのも大概にしろぉ!」
あっけらかんとした少年の言葉に一号はまた声を荒らげると、持っていった槍を振りかざし、胡座をかく少年の太股に突き刺す。
「ぐがぁ、!?」
思ってもいなかった痛みに、悲痛な声をあげる少年。
太股からはダクダクと血液が流れ出ているのが見えた。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたあ!?殺すんじゃ無かったのかぁ!?」
太股に突き刺されている槍をグリグリと深く、深くへ差し込みながら、唾を飛ばし、少年を煽るように言い放つ。
「ぐ、あぁ!いだ、い、やめ、やめて、くれぇえ!っがぁ!」
少年の瞳には涙が溜まり、必死に突き刺さった槍を抜こうと刃先を握るも、痛みで力が入らず深く刺さっていく一方だった。
「はは!どうだ人間!貴様の叫び声など煩わしいだけだ!さぁ、一思いに殺してやる!」
グシャッと肉と刃先が擦れる音がすると、槍は太股から抜かれ、また大きく頭上に振りかざされる。
「ぐぁああ!っ、はぁ、は、やめ、ろ。頼む、やめてくれ、謝る、あやまるがらざぁ!!」
血液でビチャビチャになった足を手で必死に抑える。
苦痛と恐怖で顔は歪み、溜まっていた涙は溢れ出し流れる鼻水とで酷く汚れ、必死に命乞いをする声は枯れてしまっていた。
「命乞いするなど哀れな生き物だなぁ!人間!さぁ、死ねぇ!!」
振り下ろされて来る槍は、少年の頭部を狙っているのが位置でわかる。
二度目の死を感じた瞬間だった。
痛い、怖い、死にたくない、死にたくない。
頭の中はそんな事しか考えられない。何か、何か打開策はないのか。
せめて、この痛む足が動けば、動いたなら、避けられるかもしれない。
この血だらけの足が、自由に動けばーーーー
ーーーーーあ、れ?痛く、ない?
振り下ろされる槍の中、少年は痛みが消えた太股を見る。血液でビチャビチャなのに代わりはないが、槍が刺されたであろう場所には傷口など見当たらない。
ーーーーーど、うして、?