死して尚、覚える怒り
ーーーー怖い怖い怖い怖い怖いっ、嫌だっ、死にたくない
ーーー誰か、誰か、助けて、誰か……っ!!!
荒い呼吸、呼吸困難状態の喉からはヒューヒューと音がする。
冷たいアスファルトの上に倒れ込む身体からは、大量の赤黒い液体が流れ出ていた。
流れ出る大量の液体の正体は、血液。
ナイフで刺された腹は無残にも裂かれ、傷跡は熱く、気持ちが悪い。
ーーーー痛い痛い痛いいだいいだいいだい
意識が遠のく。恐怖と今までに感じた事の無い痛みが身体を襲う。
強過ぎる痛みは、身体を痺れさせ、血液が大量に流れ出ているせいか、酷く寒い。
ーーーー死に、たくないよぉ、死にだぐないよ
何度も何度も頭の中で呟いた。
“ 通り魔”
それは無差別に夜道などを歩く人々を殺害する事を目的とした人物達の事。殺害動機は、「そこに居たから」「人を殺してみたかった」などという私利私欲と言えるものばかりだ。
そして、ここに腹を裂かれて倒れる少年もまた、コンビニに行く為に夜道を歩いていた「そこに居た」だけの被害者の1人だ。
偶然起きた不幸な出来事。
たまたま夜道を歩き、たまたまそこに通り魔が存在し、たまたま彼が選ばれ刺された。
そう、ただそれだけの事だ。
確率は限りなく低いとも言える出来事だが、それに偶然にも遭遇し、上手く立ち回ることも出来ずに呆気なく刺されて終わった。
死にたくない死にたくない死にたくない
願うだけで身体は動かない哀れな少年。
夜道に人が通る事など、此処ではまず期待出来ない。
助けは来ない、わかっていても期待してしまう、死にゆく者とは皆そういうものなのだろう。
痛みで歪み、涙、鼻水、涎を垂れ流した汚らしい顔は次第に怒りに満ちていく。流れ出るものとはあまりに似つかわしくない表情だ。
ーーーーくそ、が、殺す、殺してやる
俺を、こんな目に合わせる奴、なんかーー
意識が遠のく頭で最後に思った言葉。
震えていた身体は、次第に静止していき、荒かった呼吸が止まった。
ダラダラと流れ出る血液だけが、アスファルトの上を流れていく。
呆気ないものだった。自らの命を狙う者が目の前にいながら、彼は抵抗もできず、ただやられて終わった。
悔しくて堪らなかった。何も出来ずに終わった自分が憎くて堪らなかった。
故に、彼の顔は、怒りに満ちていた。
死に絶えても尚、怒りが読み取れる。さながら狂人のようだ。
享年18歳。
誰もいない冷たいアスファルトが広がる歩道で、彼の生涯は幕を閉じた。