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8話

「見つけた!」


 前方で魔物に苦戦する選手達。

 颯斗は集団との差をどんどん縮めていく。

 あと数秒で差はなくなる。そんな時だった。


「やれ」

「……迷宮(メイズ)


 突如として土の壁が選手全員を囲むように隆起する。


「な、何これ!?」

「俺の魔法だ」


 声の主に顔を向ける。

 そこに立っている無精髭の生えた厳つい男性。颯斗が初めてこの世界で競争した相手でもあった。


「アルビンさん」

「すまないが村のためにここで君達には退場してもらう」

「なんでですか! 僕はハナハ村を助けようとーー」

「分からないのかい? ボーイ」


 アルビンを押し退けて現れたのはササラ村代表のワール。

 黒い顔から溢れる笑みに本能が颯斗を身構えさせた。


「彼らは私と組んでいるのだよ。私を勝たせるためにね」

「そんな事したら村が――」

「ササラ村を勝たせれば、俺達の代わりの居場所を提供してくれる。だから邪魔をしないでくれ」


 村長が受けた話とはササラ村の協力者になる事。

 目的のために走っている颯斗はその目的に裏切られた。失意になってもおかしくわない。しかし、颯斗は走る意思をなくしつもりはなかった。

 元々はハナハ村のためではあるが、今の颯斗はコロロ村の代表。背中にはコロロ村とミシェルの意思を背負っている。


「それでも……僕は約束したんです。エリスさん、アリスさん。そして、コロロ村の人達とミシェルさんに! アルビンさんが僕の敵になっても、僕は走り続ける!」


 アルビンに向かって走り出した颯斗。

 ワールは呆れた様子で首を横に振った。


「ボーイ、分かってないな。ボーイの敵は”彼”ではなく”彼ら”だよ」


 颯斗の背後に数人が回り込み、魔法を放たれる。

 アルビンに意識を向けていたため気づけなかった颯斗は全ての魔法を受け、その衝撃で壁に激突。壁には傷一つつかず、口から出た血だけが跡を残す。

 ササラ村に賛同する村も協力し、邪魔する選手を潰しにきているようだ。


「おい、ちゃんと通り道はあるだろうな」

「……はい」


 アルビンが指を指す方向には縦3センチ、横30センチほどが下で切り抜かれた壁があった。


「よしよし。ちゃんとあるな」


 とても抜け道とは言い難いが、満足したようにワールはその壁に近づく。


「ジェルスタイル!」


 今まで逞しかった体はゆらゆらと揺れ始め、次第に体が沈んでいく。あっという間に体は液体と化し、穴に向かって動いていく。


「アルビンはついてこい。他はここを任せた」


 それだけ言い残し、壁の向こうに消え去った。アルビンも用意していた通路でその場から離脱。


「い、行かなきゃ!」


 遠くからその場面を見ていた颯斗も立ち上がって後を追うが、それをササラ村の協力者達が阻む。


「行かせるかよ」


 鳩尾に蹴りを食らい、その場で颯斗は膝をつく。

 一般の選手もアルビンの使った通路を目がけて走り出すが、颯斗と同様に痛みつけられ、通路に近づく事が出来ない。

 ササラ村に賛同する者達は皆腕に覚えがある強敵ばかり。一方それに立ち向かう者には小さな力しかない。対立して初めて分かる力の差に諦めの色を見せる。

 もう無理だ。そんな言葉が漏れた。

 だが颯斗は何度も立ち上がる。何度倒れても立ち上がり、何度飛ばされてもその分だけ前に進もうとする。

 血が流れても、激痛に襲われても……。足が動くならば前へと突き進む。

 以前の颯斗なら最初の一撃を喰らう前に逃げていただろう。しかし、たった一週間の出来事が颯斗の意思を飛躍的に強固なものにした。

 誰かのために使える力を手に入れた事で逃げる事を止めた。

 未だに立ち上がる颯斗に苛立ちを覚えると、全員で攻撃を仕掛けてくる。


「いい加減にくたばれ! 起き上がっても意味ないんだよ!」


 全ての魔法が颯斗に注がれる。

 しかし、颯斗の姿に他の選手達は再び戦う意思に火がついた。


「させるか!」


 自分達の魔法で相殺させ、颯斗を守るように前へと立ち塞がる。


「ここは俺達が何とかする! 君に全てを託す!」


 相手にしがみ付き、必死に邪魔をした。

 颯斗はその行動を無駄にしないように通路に向かって走る。たびたび魔法が飛んでくるが、全て難なくかわし切り通路に消えていく。

 通路に入ったはいいが、迷路のような構造になっているため簡単には外に出る事が出来ない。


「……ん? 風が……こっち?」


 常人では感じ取れないほどの微風を感じ取った颯斗。それが道案内をしてくれているのか、迷う事なく迷路を攻略し、目の前に光が差し込んだ。


「出口だ!」


 力を緩めず、出口を目指す。

 太陽の体が光に包まれた瞬間、颯斗の後頭部を鈍痛が襲った。何が起こったかは分からないが、とにかく倒れないように踏ん張る。


「やっぱり、きたか」


 颯斗を見下ろすアルビンは先に進めないように、進行方向を体で遮った。


「アルビン、さん」

「許せ。これも村のためなんだ」


 奥歯を噛み締め、アルビンを抜く。しかし、土の柱が颯斗を後方に押し退ける。


「ササラ村に協力すれば、俺達の新しい居場所を与えてくれる」

「元の居場所を奪われてたら意味ないです!」


 再びアルビンの横を通り過ぎるが、土の柱は鞭のようにしならせ、颯斗の腹部を捉えた。

 肺の空気を押し出された颯斗はその場でゲホッ! とむせ返る。


「ワールには勝てない」

「やって、みなきゃ……分かりません!」


 少しでも前へと足を動かす颯斗。その姿はアルビンには到底理解出来ない。


「何故だ……君じゃ彼には勝てない!」

「”家族を信じろ。仲間を信じろ。そして何より、自分を信じろ”」


 その言葉にアルビンは目を丸くする。


「僕はエリスさんやアリスさんが信じる僕を。ミシェルさんやコロロ村の人が信じる僕を。そして、僕が信じる僕を、絶対に信じる!」


 真っ直ぐ走る颯斗。今度は土の柱が出現する事なく、見えない先にいるワールを追った。


「バーダさん、俺は……」


 颯斗を視界にすら入れず、その場に立ち尽くす。


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