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7話

「まさか君がコロロ村の代表とは驚いたよ。だけど、俺は俺の役目を果たす。手は抜かない」

「分かっています」


 暫し二人がお互いを見合っていると、実況者の声が響き渡る。


「戦士の紹介も終わった所で、今回のルールを説明します!」


 観客席に付けられた大きなモニターが白く光りだした。


「まず、戦士達に走ってもらうコースはこちら! 」


 合図と共に一面真っ白だったモニターは何処かの平原へ移り変わる。


「目の前にある平原を走り抜けてもらい」


 画面はすぐに山へと変わった。


「山の頂上まで登って頂き、そこで待つ係員から自分が持つ紐と同じ色のコインを受け取た後、この会場に戻ってくる! 優勝者はもちろん! 一番に自分のコインを持ってきた戦士だ!」


 観客席は実況者につられてヒートアップする。


「細かいルールとして、相手戦士の隔離や地表から1.2エルズ以上離れたり、地中を潜ったりした時点で即失格となります。なお、観客席の方も楽しめるように映像を送れる魔道カメラが戦士達の勇姿を見届けます。そして最後にこれだけは言わせてください。あなた方は選手ではありません、誇り高き戦士です!」


 その時の颯斗にはこの実況者のことばの意味が理解出来なかった。しかし後に、この言葉の意味を痛いほど思い知らされる事を颯斗はまだ知らない。


「それでは十分後に競争を開始します。戦士達はそれまでに100%の力が出せるようコンディションを整えてください!」


 選手達は各々で散らばりアップを始める。しばらく颯斗はどうしようかと迷っていると、聞き慣れた声が颯斗を呼んだ。


「ハヤトさん!」

「エリスさん!」


 観客席に近づき、エリスとアリスの元に駆け寄った。


「ようやくこの日が来ましたね!」

「うん。でも少し緊張はしてるけど」


 少し自信なさげのハヤトの手を両手で握る。お互いを目と目で見つめながらエリスは口を開いた。


「ハヤトさんなら大丈夫です。今まで努力したもの、全部出し切ってください。そして、絶対勝ってください」


 戸惑っていた颯斗だったが、最後には男らしく答える。


「任せて。勝ってみせるよ」

「あらあら、若いわねー」


 二人を茶化す形で会話の中に入り込むアリス。


「一週間も一緒に暮らしただけでこんなに仲良くなるなんて。二人とも相性がいいのね。ところで話は変わりますが、以前に話したハヤトさんにお願いしたい事の詳しい話なんですがーー」

「いよいよ競争が始まります! 戦士達はスタートラインで待機をお願いします!」


 実況者の呼びかけに邪魔されたアリスは不機嫌そうに頬を膨らませる。


「すいません。もう時間なんで」

「なら一つだけ……”家族を信じろ。仲間を信じろ。そして何より、自分を信じろ”。夫の口癖を貴方に送ります」


 アリスの言葉をしかと噛み締め、スタートラインに立つ。


「戦士達が全員スタートラインに立ちました! スタートの合図は僭越ながら自分にさせていただきます!」


 高台から選手を見おろしながら大きく息を吸う。


「レディー……」


 一時の静寂が会場を包む。十数人の選手達は故郷の思いを背負い、再びこの場を目指す。


「ゴーーーー!」


 砂埃を巻き上げ一斉にスタートを切った。

 歓声に押された選手達は加速させ、最初のエリアへ脚を踏み入れる。

 選手達の前に広大な平原。膝ほどの高さまである草のカーペットが颯爽と走り抜けた後に吹いた風によって揺れる。

 風の魔法で加速する颯斗は後方から他の魔法を観察した。颯斗と同じように風を操る人もいれば、水や火の魔法もいる。

 そして、そんな参加者の先頭に走っているのササラ村代表のワール。すぐ後ろにはハナハ村のアルビンが追いかける。続くようにぞろぞろと列をなして走っていく参加者。

 選手ではなく戦士。その言葉が気になった颯斗はこうして列の一番後ろを陣取り様子を窺っていた。

 すると突然、草が不規則な動きをし始め、草むらから何か黒い影が飛び出す。

 黒い影は列に混じる一人の選手に襲い掛かった。


「ぐぁ! が……」


 必死に襲い掛かる生物の頭部を押さえ、強靭な歯が肉に刺さるのを防ぐ。

 他にも周りに同じような影が現れ、颯斗も含めた選手達の脚は止まる。


「クソッ! マッドウルフかよ」


 ある選手がそう呟く。

 マッドウルフと呼ばれた生き物に颯斗は目を向ける。

 赤い目に鋭い牙。それらに加えて黒い体毛と引き締まった体が余計に狂暴性を表しているようだった。


「チッ、めんどくせぇな」


 ワールは襲いに来たマッドウルフを拳で打ちのめす。マッドウルフが吹っ飛ばされた事でその後ろにいたマッドウルフ達も巻き添いを喰らい、前方に突破口が開かれる。

 ワールは開かれた道へ走り出し、アルビンや他の者もマッドウルフの壁から抜け出す。


(い、行かなくちゃ!)

「た、助けてくれ!」


 通り過ぎざまに声をかけたのはマッドウルフに襲われている選手だった。

 目標を一人に絞ったマッドウルフがその選手を取り囲んでいる。未だにマッドウルフを払い退けられていないため、その場から動く事も出来ない。

 前方では山へ向かって走る群衆の後ろ姿。右には助けを求める人。出来れば助けたいが、争い事の土俵に立った事のない颯斗に戦い方など知っているはずもない。

 颯斗はようやく”選手ではなく、戦士”という意味を理解した。

 これはただ速さを競う合うレースじゃない。平然と襲われ、己の身を守るために戦う。一歩間違えれば死と直結しかねない。

 その事実に気がついた颯斗は足元が震えて、その場から動けなくなった。

 その間にも疲弊していく選手をただ見る事しかしない颯斗。


(僕には無理だ。力もない僕じゃ、助ける事なんて)


 震える足を必死に抑えて前に走り出そうとしたその時、向かい風が吹く。

 そよ風ほどだが、颯斗を足を止めるには十分だった。

 顔を下に向け、脚をじっくりと見る。


「ホントに、僕は馬鹿だ。今の僕には魔法があるじゃないか」


 90度向きを変えて走り出す颯斗。マッドウルフの大群へ一直線に向かう。


(村の英雄ヒーローなれるか分からない。けど、目の前の人を助けようとしない奴が英雄ヒーローなわけがない!)


 大群に向けて、風を纏った右脚を振り上げた。

 強い突風にマッドウルフ達は空中を飛び、地面に落ちる。仰向けだった選手だけが飛ばされるずに残っていた。


「つかまってください!」


 負傷している選手を背負い、すぐさまその場から立ち去る。

 縄張り意識があるのか、マッドウルフはある程度の距離を取るとそれ以上追いかける事はなかった。

 魔物の追っ手がない事を確認した颯斗は近くの木に選手を座らせる。


「ありがとう。助かった」

「気にしないでください。それよりも怪我が」

「大丈夫」


 懐に手を忍ばせると、細い筒を取り出す。

 それを天にめがけて、魔力を込めると先端から藍色の玉が飛び出した。


「これで、運営側の誰かが来るはずだ。君は先を急げ」

「で、でも」


 救援が来るとは言え、傷の状態から一人にするには些か心配な颯斗。そレを容易に感じ取り、語尾を強めた。


「君も村を背負った代表だ。俺なんかのためにその責任を投げ捨てるな!」


 強い眼差しに後押しされ、颯斗は元のルートに戻ろうとする。


「最後に、忠告をしておく。君の敵はいても、協力者はいないと思え」


 颯斗はピタリと止まった。


「それはどういう事ですか?」

「この競争から脱落しなければ嫌でも分かる。早く行け。これ以上離されたら君の勝ちはなくなるぞ」


 颯斗は言葉を真偽を確かめる暇もなく、レースへと戻った。

 先行者達から離れてしまった颯斗はどうにかして追いつこうと、魔力を上げて加速する。


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