4話
「ハヤトさん! 練習をしましょう!」
朝早くから近くの森で魔法の練習する事になったが、未だに脳が覚醒していない颯斗はぼーっとしている。
「聞いてますか! ハヤトさん!」
耳元で大声を出されたおかげで、意識がはっきりとした。
「はっ! ……あ、うん」
「しっかりしてください」
エリスはわざとらしく一度咳払いをする。
「それではまず魔法についてお話ししますね。魔力を使う事を総じて魔法と呼びます。私達の世界は皆がこの魔法を使う事が出来ます。しかし、皆が皆同じ魔法が使えるとは限りません」
「なんでです?」
小首を傾げて質問する颯斗。
「使える魔法が限定されているからです。例えばAの人は火の魔法が使えますが、Bの人は一切使えません。しかし、水の魔法なら使えるといった風になります」
「ほうほう」
感心したよう首を縦に振る。
「もちろん鍛錬や体質などで例外はありますが、基本使える魔法の属性や特性は決まっているのです」
「つまり、この世界の人達は一人一人違った魔法を持っているって事?」
「被っている場合も珍しくありませんが、そのように考えて間違いありません」
という事はアルビンみたいな魔法をこの世界の人々は使える可能性を持っている事になる。しかし問題は異世界からきた颯斗が使えるかという事だ。
「魔力は脳みたいな体にある特別な器官を使うもの?」
「いえ。精神的な体力言えば分かりやすいですかね」
なるほど、鍛え方次第で増福出来るのか。
少しずつ魔法について理解を深めていく。そして、理解が深まったなら実践あるのみ。
「魔法についても教えました。さぁ! 次は魔力を肌で感じましょう!」
と言われたものの颯斗はどうすればいいのか分からず、困惑するだけ。手を前に構えて漫画の主人公のように声を出すが特に何も変わらない。あえて言うなら、エリスがかわいそうな人を見る目に変わっていた。
「あの、ハヤトさん?」
「すいません。やり方がわかりません」
アリスと颯斗は対面になり、指導が始まる。
「特に決まった姿勢はありません。ただリラックスしてください」
瞼を下ろしたエリス。同じように颯斗も目を閉じた。
「大きく深呼吸してください」
胸が膨らむほど大きく息を吸い、ゆっくりとそれを全て吐き出す。
「そして内側から力を溜めるイメージをしてください」
指示通りにイメージすると、体の奥から暖かくなる。その暖かさはあの時颯斗を包んだ光の暖かさと同じだった。
「なんだか……暖かい」
「それが魔力です」
エリスはパンッと一度手を叩いて区切りをつける。
「次は魔法の発動です。と言いたのですが」
眉をハの字に下ろすエリス。
いよいよここからが本番という所で暗くなるエリスに颯斗は声をかける。
「どうしたの? 早く魔法に」
「それなのですが、まだ颯斗さんは自分が何の魔法が使えるか分からないようなので。出来るのは魔力の質を上げるくらいしか」
「ち、ちょっと待って! 魔法って、いつから使えるの!?」
やる気満ちたこの行動力をどこにぶつければいいのか分からず、エリスに聞くが困るばかり。
「大体の人は小さい時に予兆が見られ、すぐに魔法を自覚するのですが」
この世界ではイレギュラーである颯斗が魔法を使うには何かしらのきっかけが必要だった。
「そ、そんな……」
気が滅入る颯斗だが、もう一つ重要な事がある。
「そ、そうだ! 日にちは!? 競争の日にちは!?」
「確か……一週間後です」
お互いに肩を落とす。
一週間以内に秘められた魔法を自覚し、それを使いこなせるようにするには些か時間が足りない。
「どうしよう。早く魔法を使えるようにしないと」
「焦っても仕方ありません。本来魔法は普段の生活をしている内に自覚するものです。変に意識すると、もしかしたら自覚できないのかもしれません」
結局午前の特訓は魔力の量と質を上げるため、座禅を行うくらいで終了した。
午後も座禅を組もうとしたが、長時間やっても成果が出ないとエリスに諭された颯斗。午後は自由行動とし、颯斗は一人であの広場へと向かった。
昨日と同様に人がいない。
アルビンと競争をしたトラックに足を運んだ颯斗は昨日の勝負を思い出していた。
『ロックギア』
アルビンが発動させた魔法。
エリスは言っていた。魔法の種類がかぶる事は珍しくないと。もしかしたら。
レーンに入り、構える颯斗。
昨日の光景を鮮明に頭の中に浮かべた。空想の護衛が手を上げ、勢いよく振り下ろす。
スタートダッシュを成功させた颯斗はだんだん速度を上げる。
「ロックギア!」
名称を叫び、隆起する地面を待つ。しかし、地面は平面を保ったまま。颯斗は誰にも邪魔されずに40エルズ(100m)を走り切った。
颯斗の心は虚しさしか残らない。
「やっぱ、そう上手く出来ていないよね」
トボトボとトラックを離れ、エリスの自宅に帰った。




