ダンジョン解放ー545日目ー
扉が開かれた
「やっほーミルちゃん!遊びにきたよ!」
「邪神様!おはようございます!どうですか?お部屋のお掃除がんばったんです!それから、、、これ!邪神様に教えていただいたくっきーです!」
わくわくした目、ぴんとたった耳、揺れるしっぽ、喜びを表現して憚らない。
「どうしたの?その服?」
「あっこれですか!実はごしゅじん様が買ってくれたんです!お掃除のときによごれちゃ駄目だからって!えへへ、、、ね!ごしゅじん様!」
はにかんだ様に笑う少女、ちらりと相変わらず画面を見続ける男を見ながら。褒められた事よりももらった事を思い出して喜んでいるようだ、いや、そんな、馬鹿な!あの男は、ゲームや漫画ばかりで全く働かない、所詮ニートのはず!このような幼気な少女がなつくなんて、、、!まさか!
「やあ、おはよう。雪人くん、、、、ちょぉぉぉっと邪神様とお話しようか。なーに、すぐ終わるさ。痛みも感じずにね。」
男は、少女がこれまで見た事が無い、早さで返事を返す。全ての可能性を洗い出し、邪神の性格を鑑みる。そして口を開く、、
「漫画を読んだんだ、、、一緒に」
いつのまにか少女の手に握られていた巨大な鎌が止まる、首まで残り1センチ
「僕が漫画を読んでいたときにな、横からちらちら覗いていたから。音読してやったんだよ、、」
首まで残り2センチ
「それでな、字を覚えてみたいと言うんでな、、、賢いぞミルはもうひらがなをほぼ読めるんだ!まだ濁点と半濁点でつまづいてるがな!」
首まで残り3センチ
「なんでも、ミルが生まれた村では村長しか字が読めなかったそうでな。そこの家の子が寝る前に本を読んでもらったのがずっと羨ましかったそうなんだよ、うん」
首まで残り10センチ
勝った、男はそう思った。焦らない様子はやましい事が無いというポーズだ、理由の紡ぎ方も完璧だ。後一言で鎌を引っ込めるだろう。これで俺に手を出そう物なら、ふっ、この子が勉強する事が悪い事だとでも言うようじゃ無いか。この邪神様はそういう事を嫌う、、
「そうなんですよ!わたしひらがながもう読めるんです!」
「へー、ミルは偉いね。次は私が読んであげるからね。でもね、、、雪人くん。一言だけいいかな?ゲームすっごい下手に成ったねぇぇぇぇえ?えぇ?」
!?しまった、、、まさかこの状況から見抜かれたというのか!?ふっまさに邪神。
「はい!この『メイドとご主人様、、えーとほにゃらら?、、しよう!』ってやつが読みたくって、、えへへ、ご主人様だけ漢字でも読めるんですよ!この子私と同じ服着てるからなんかいいなーって、えへ。あと、よめるように成るとご主人様が褒めてくれるから、、、」
かわいいです、はにかんだ様子も、上目遣いでちらちらと男を見る仕草も、先ほどよりも早く動くしっぽも、最後で小さく成った声も。
ただ、幼子の無邪気まではかのダンジョンマスター様でも、予想は出来ない!それを読んでたのか、、、たしかにメイド服だけど、ご主人様だけども、、
邪神が来る旅に同じように成る構図、見慣れたからだろうかミルに心配してほしいなー。これは軽ぅく本気だ、、、ああ、そしてミル。君が持っているそれは、青年誌だ、R指定の。、、二巻からがすっごいんだよね。
「雪人くん、言い残す事は?」
「二巻以降は目の届かない所に隠してあります!」
「そ、さよなら」
鎌が容赦ない速度で迫る。
「何よりも、あの女の子のえほんが嬉しかったんです、、、、。寝る前に毎日ごしゅじん様におんなじの読んでもらってるんですけど。えへ、
ひらがな読めるようになったから気づいたんです。あのえほんで奴隷の女の子がさいごに死んじゃうんです、多分ですけどね。
でも、ごしゅじん様がはじめて読んでくれたときに私、泣きそうになっちゃって、
すぐにウソだよーって笑って、ぎゅってしてくれて、もういっかい読んでくれて、
女の子が死なないお話にしちゃったんです。えほんのさいごで女の子ベッドの中なんですけどね。すぐに分かるウソなんですけどね。えへへ、、、でもやっぱりうれしくって、でもなんかくやしくって。
いつか私があのえほんのさいごを書くんです!だから字をいっぱいべんきょうするんです!」
首まで残り−2ミリ
「執行猶予付きだ、ミルちゃんに感謝なさい。さ、お茶にしましょうか。今日はいい茶葉が手に入ったからね。」
いやいやちょっと切れてるからね!動脈一歩手前!もちろん口には出さない。
相手はかの傍若無人の邪神様だ。
なつく理由が安っぽいって?
子供なんてそんなもんじゃね?ハナクソホジー