ダンジョン解放ー2時間前ー
剣が突きつけられる
「ああ、質問があってね。いや、、、交渉、それとも要望かな」
男が初めて口を開く。黒目黒髪、中肉中背、ありふれた容貌、年の頃は20代半ばだろうか。ありふれた男、と見て取れた。まるで、喫茶店で馴染みの友人と待ち合わせをしているかのような、ゆったりとした所作で力が入った様子も無く座る。だからこそ少女は警戒と期待を強める。
「ああ、魂で買い物が出来るんだろう?あちらの世界からは?」
「もちろん。食べ物、寝具、暇つぶしのおもちゃから、果ては家そのもの、人間までなんでも御戯れだよ。もちろん重火器だろうともね」
「ゲームや漫画も手に入るんだ、よかったよ。文明的な生活が出来そうだ。」
「そんなに重要な事かい?この状況でよくそれの為に待っていられたね。」
「ん?ああ、まあ一番重要な事はこれで終わりだけどさ。次は交渉かな」
「、、、、言ってみるが良い」
それが重要な事か、先ほどの説明から読み取れないのだろうか。少女の中で期待が小さく成って行くのを感じる。期待はずれか、、、、
「ああ、モンスターはいらないから他のボーナスをくれないかと思ってね」
「は?」
「ん?なにか変な事をいったかな?」
「くくく、残念ながら罠関係もモンスターに含まれているよ。使われた罠が勝手に時間経過で元に戻るんだぞ?対価ぐらい必要だろうさ、、、。他の者で気づく者達は少なかったみたいだがな約1割といったところか。だから君の願いは、、、
「ああ違う違う、まあ罠が使えないのは少し残念だけどさほど重要では無いよ」
期待が膨らむ、一体この男は何を望んでいるのか。
ダンジョン、冒険者が挑み、モンスターと戦い、罠をくぐり抜け、お宝を得る。それでは、何の脅威も無いただの迷路になった宝物庫だ、、、、
「望みはなんだ?」
「ーーーーーはできるかな?凝り性な性格なんだよ。困った事にね。」
「は?、、、くだらんな。これだけ時間を使わせておいてそれか、、、、面白みも何も無い。死にたがりか、、まあいい。その勇気に免じてくれてやろう。」
期待は打ち砕かれる、少女は目の前の男が憎い程だ、平静を装う、落ち着け、期待が砕かれる事なんて慣れているじゃないか。
「ああ、おかげで中々楽しみだよ。どうせ残り物はヤバいもんばっかだろうからさ。まあ君みたいな人間は最後の一人だけにある選択肢とか用意してるんだろうけどねー」
「ふん、とっとと逝け。」
実際、あった。最後の一人に成ったときにのみ、ページの隅に小さな字で描かれるそれは、ゴブリンだろうが人間だろうが、、、、それどころかドラゴンだろうがダンジョンマスター、妖精、何に対してでも自分の思いのままに操る事が出来る異能。洗脳でとどまらない能力、、魔力が続く限りなら、天候、魔法、運、次元、対価は大きいが文字通り何にでも。
お遊び程度の仕掛けだ、が、気に食わない。目の前の男に読み取られていた事が、その男がくだらない要望を述べた事が。
心の中に残った印象は、巨大な警戒と大きな失望、少しの怒り
「ああ。最低限、君の為に働くさ、、、名前は?俺は雪人、桂木 雪人」
「、、、、、、邪神で充分だ。」
「つれないねー、まあいいや。邪神ちゃん、またね。」
期待は無い
引っ張るよー 無駄に引っ張るよー