ダンジョン解放ー1305日目ー
灯りがついた
「やぁ、きたよ。相変わらずだね、電気ぐらいつけたらどうだい?こんな真っ暗なところでゲームなんて目が悪くなってしまうよ?はい、これ」
黒目黒髪の少女がいつものように手土産のお菓子を差し出す。
「わぁーい!ありがとう御座います!今日のお昼は角煮定食ですよ!昨日からじぃっっっっっ、、、、っくり!煮込んだんですよ!」
ぱたぱたと小走りで部屋に飛び込んできた赤毛の少女がメイド服の下でしっぽを大きく振りながら焼きたてのお菓子の匂いを堪能する。
「それは楽しみだね、私の分はからし抜きでお願いね」
「ぷぷっ!からし抜きっておこちゃまみたいですねー。あの美味しさが分からないなんて人生三回分ぐらい損してます。わたしはよゆーですけどね!」
ひょこりと扉から顔を出した肌の白い耳の尖った少女が小さな背で胸を存分に張って大人ぶってみせる。
「はいはい、今度お寿司持ってきてあげるからね。わさびたっぷりでね。」
「ね、ね!早く!やろ!きょーはまけないんだからね!ひっさつわざはきんしだかんね!」
耳をふさいでぴゅーっと逃げる少女と入れ違いで、他の子より更に一回り小さい栗毛のくりくりした目の少女が飛びつく
「先にご飯食べてからにしようねー今日もクッキー持ってきたから勝てたら私の分もあげるよ!」
「ふぁーぁぁ、ごはん!?お腹すいたー!今日のお昼はなーに?」
ソファーの端で丸まっていた八重歯の尖った少女が大きな伸びをしながらゆったりと立ち上がる。
「おはよう。お昼は角煮定食だってさ、もうちょっとでできるんじゃない?」
「はぁーいみなさーん!ごはんですよー!みんな手を洗って席に着いてくださいよー!」
キッチンからの赤毛の少女の声にあわせて皆が部屋を出て行く。ただ一人、この部屋の主を残して。
「ほらお昼ご飯だって!君は全くどうしようもないね、毎日毎日ゲームばっかりして。まあ、ソレ目当てで遊びにきてる私の台詞じゃ無いけどさ、、、、ほらご飯だって!行くよ!」
「ちょっと待って!あとちょっと!こいつだけ!このモンスターだけ倒させてよ!」
黒目黒髪、ひょろっとした青年が無駄な抵抗を、懇願をする。
「はい、じゅーーーーーう、きゅーーーーーう、はーーーーーち、なーーーー「ちょい勘弁!マジ勘弁!はい、大丈夫もうポーズ押したから!行くって。っから電源から手を離してください!」
「よろしい」
じゃれ合うように、仲が睦まじい男女の姿。青年と幾人かの少女達の住む部屋、そこに訪ねてくる一人の少女。物語の仲のような光景。この3LDKは世界で一番平和な時間が流れている。
「ったくまじ邪神だわ」
「君には言われたくないけどね、、、未だに配下の一匹足りともいないのにダンジョンマスター様!にはね」
ここは地獄の底、ダンジョン『不過視の化物』その一番奥底にある。
未だモンスターの一匹も見つかっていないダンジョン、しかし異様なまでの死亡率の高さがダンジョンランク『未定』という評価を与える。