炎の巫女 4
部屋も確認したし、つくお姉さんも確認した。
なので調理場に向かって、いつもやっている細かい作業をやろうと、それに手を伸ばした。
「フラン」
丸い、柔らかな手が私の手を阻む。
顔を上げると、小間使い長だった。
「アンタは今日、お付きだろ? こんなことをしなくていい。病気で休んでる子の表用衣服に着替えな」
小間使い長は必要なことだけを話し、廊下を通り過ぎようとした別の部署の女に私を託す。
「綺麗にしてやっておくれ」
女は軽く請け負った。
まずは、湯場に連れていかれた。
湯場なんて、表舞台の女たちとそのお付きのものだ。私みたいな奥の奥に閉じこもって仕事をしている者は、目立たないところにある井戸の水で身を洗い流すもの。だからどうすればいいのかわからなかったけど、連れてきた女は、狼狽える私にお構いなく、隅から隅まで磨き上げた。
女が何かブツブツ言っていたけど、それに構う間もなく湯場から連れ出される。うすーい生地の服に腕を通していたけど、寒い。
それから女は私の頭に、ちょっと冷たくてぬるりとしたものをかけ、櫛で髪を梳いていく。私の髪は長かったが、女はそれは気にしないようだった。
ぼんやりと鏡を見つつ、お付きの子が結わえる髪型にされるのを、不思議な気持ちで見つめた。
三つ編みにするくらいなら、ただ髪をまとめるくらいなら、私でも出来る。でもこれは…どうやったのか、さっぱりわからない。長い髪はくるくると丸められて、いつもよりまとまり感があって。いいな、と思った。
それからよくわからないものを顔や首に塗られる。
…あぁ、こういうのを塗るから、お姉さんもお付きの子も、肌が白く見えたり唇が赤く見えたりするのか…。
小奇麗な服を着て、鏡を通して自分を見つめる。
まるで別人みたい。
「へぇ。器量はいいんだね」
女はそう呟いた。
表に戻るとお姉さんは驚いたような表情を見せたけど、「あたしの客、取らないでよ?」と言ったきり、自分の準備に勤しんだ。
何のことだろう?