炎の巫女 2
次の日、目が覚めるけど、やはり身体はまだ動かせなかった。
けれど主はそんな私を許さず、すぐに倒れてしまうけど私を小間使いとして働かせた。
父だけと暮らした生活で、その大半を父がひとりで担っていたので、私に出来ることは無きに等しかったが、小間使いの長は短い言葉で淡々と教えてくれた。
一度伝えた仕事を再度聞くと途端に怒り出すというのを掴んでからは、必死に頭の中にやるべきことを詰め込んだ。
最初のうちは身体が全然言うこと聞かなくてすぐにダウンしたりもしたけど、日が経つごとに少しずつではあるが長く働けるようになり、その分やることは増えたりもした。
でも、それでいいと思っていた。
特に寝る前の、ちょっと気が緩んだ瞬間に、襲ってくるのだ。
あの、恐怖の時が。
ちょっとでも暇そうに見えたら働かせるこの環境だから、あまりそのことに触れなくても済むと、逆に感謝を覚えていた。
私は、唯一の守ってくれる人を、自分の力で無くしてしまったのだ。
だからここを出ていかされるようなことがあったら、どうやって生きていけばいいのかわからなくなる。
そうしたら、自分はありとあらゆるものを燃やしてしまうかもしれない。
いやだ。そんなの。
あんな怖い思いはもう嫌だ。
「いつまでもアンタ、って呼んでらんないわね」
ある日、小間使い長がいきなり、そんなことを言い出した。
曰く、他にも私みたいな年で転がり込んできた子供がいるので、差別化を図るために、まずは名前を聞き出そうとしたらしい。
「フラン、と呼ばれてましたが…」
ここに来て雑多な会話の中で、家族は略名を呼ぶということを聞いていたため、言葉を濁す。名乗る必要もなかったから、父が自分を呼んでいた名しか知らないのだ。
「フランねぇ?」
小間使い長は訝しんだ表情を見せたけど、「じゃあこれからはフランと呼ぶ」とすぐに頷き、次の仕事を割り振ってきた。
ほかの子とは、私は近寄ろうとはしなかった。
あっちも何らかの罪を背負っているというのは知っているけど、接し方がよくわからなかったので、近付いてきても、逆に避けるくらいだった。
人付き合いも仕事と同じように、やり方がひとつだけならよかったんだけど、そうではない。
しかもひとりだけじゃなく、大勢同じような子がいるので、とてもじゃないが覚えられる気がしなかった。
そんな風に、何か月か過ぎても私は独りだったので、小間使い長から「アンタみたいに仕事一筋って子も珍しいね」と呟かれたりもした。