日常から?
それは11月の寒い日。例年よりも強い寒気が街を覆っていた。
道路沿いに植えられている街路樹では葉が落ち始め、本格的な寒さに備えているようだ。
駅やその近くの店では気が早いのか既にイルミネーションを飾っている。イルミネーションをきれいだね、と見ている親子もやはり厚手のコートに身を包み、本格的な冬を思わせる。
強い風が吹き抜ける。
「、、、寒い」
俺、加賀赤理もまたコートに手袋、マフラーといったかなりの重装備で街を歩いていた。俺は近所にある大学に通う大学生だ。半年ほど前に20回目の誕生日をむかえている。今はいつもどうり大学から家に帰るところだ。
手にはコンビニのレジ袋。中身は寒さを紛らわそうと購入した肉まんと缶コーヒーが入っている。
今は18時を過ぎたあたりだろうか。この時期では、もうあたりは真っ暗だ。空には星が、道路には街灯が灯っている。
カシュッ
缶コーヒーを開けて口に含む。うん、温かい。コーヒーの熱とカカオの風味が広がり憂鬱な寒さを紛らわしてくれた。
「~~♪」
しばらくの間、機嫌よく歩いていた。この時間帯ではすれ違う人もほとんどいない。
コーヒーも残り半分となった頃だろうか。
近所で見かける猫が歩いていた。エサをやると嬉しそうに近づいてくるやつだ。
「おお、久しぶりだな」
肉まんでも分けてやろうと思いレジ袋に手を入れて近づいた。
そんな時だった。
「!?」
突然、青色の円のような光が地面に現れた。
光はまるで生き物のように動き、その形を複雑なものにしてゆく。内側に様々な模様が凄まじい速さで描かれている。
俺は訳も分からず、立ち尽くした。
なんだ!?何が起きていいる?
青い光と円?いやそもそもこれはなんだ?
2、3秒ほど過ぎたころだろうか。光が動きを止め、地面には直径3メートルほどの図形が描かれた。
「これは、魔法陣、、、?」
これは漫画やゲームの魔法使いがよく使用するあれだ。あの魔法陣が俺の目のにある。
あたりにほかに光源はなく、その場所だけが怪しく光っている。
魔法陣はしばらくの間一定の明るさを保っていたが、光がまるで熱い鉄が冷める時のように明るさを失ってゆく。
青い光は黒い線に変わり、魔法陣は輝きを持っていない。
何事もなかったかのように、冬の寒い日が戻ってきた。
だが、目の前には輝きを失った魔法陣がある。
静寂。遠くから、街の喧騒が聴こえてくる。俺は相変わらずその場に立ち尽くしたままだ。
「こういうのは、大抵次に」
そう呟いた次の瞬間、魔法陣が一気に輝きを取り戻し、2メートルほどの手のようなものが現れた。
人の手の形を直方体で作ったような見た目をしている。色は黒。
手はあたりの様子をうかがうように左右にゆらゆらと動き、俺のほうを見て動きを止めた。
「なんだ、これ」
蛇に睨まれた蛙ってのはこんな気分なのかね。最悪だ。
こんなことを考えられるなんて、割と冷静だなと思った。
手は上から見下ろすようにこちらを見ている。その大きさは2メートルほどもあるのだ。
俺も目を離せない。怖い。
どれくらい時間が経っただろうか。実際は数秒なのだろうが、ひどく長く感じた。
もう、この手は動かないのではないかという考えが浮かび始めたころ。
「にゃー」
猫が鳴いた。
俺は猫のほうを見た。それを合図にか手がものすごい速さで俺のほうに向かってきた。
急いで視線を元に戻したが、遅かった。既に手は俺の体に絡みつき、身動きができない。
「うわあ!」
必死にもがいたが、やはり振りほどけない。
魔法陣へと引きずり込まれる。
そうして俺は
魔法陣へ落ちた。
その後、魔法陣は役目を終えたのか、スーと消え始め数秒で姿を消した。街は何一つ変わらない。元どうりだ。
人どうりがほとんどない路地、日も暮れかけた時間帯。この騒動を見たものはいないだろう。
道路には赤理の飲んでいたコーヒーがぶちまけられ黒い水たまりができている。
コーヒーはまだ温かいが一分と経たないうちに冷めてしまうだろう。
そこが、赤理のいた最後の場所だった。
「みゃー」
猫が寂しそうに鳴いた。
どうも、こんにちは。ポーと申します。
今までさまざまな小説を読んできて、自分でも物語を書いてみたいと思い執筆してみました。
まだまだ至らない点も多いと思います。
が、精一杯書きますのでどうかよろしくお願いいします。