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鬼造製作研究所

掲載日:2012/08/17

東京都郊外のベッドタウン、二人の男女が一軒家の前で立っていた。男は満面の笑みを浮かべ、隣に立つ女はどこか不貞腐れている。二人は夫婦、名前は守屋 進と守屋 奈緒子。交際期間10年、結婚して3年目の今年、遂にマイホームを購入。だが二人の間に子供はいない。ではなぜ家を購入したのか。そこには進の密かな思惑があった。週末、土曜の真っ昼間から男女は熱く求めあう。外から聞こえるのは近くの公園で遊ぶ子供たちの声。どこまでも明るくて無邪気なその声を聞きながら、男は女の口内をねっとりと舌で舐め回す。甘い声を漏らしながら身体を震わせる女の反応を見て満足そうに笑いながら唇を離し、女の真横へ寝転んだ。「っ・・・あー・・・!!!もう、ダメ。さすがにもう腰が動かない」両手を天井に向けて上げながら弱音を吐くと男の頬を女がつねる。「ちょっと進さん、何バテているんですか?!私まだ全然満足してないんですけど」「ごめんよ雫ちゃん。でもさ、俺も年だし・・・」「まだ30代前半じゃないですか!」「んー・・・でもやっぱ怠いから。あー・・・本当にごめん、もうダメだ!」そう言ってベッドを降りたのはこの家の主であり所有者の守屋 進。「進くんの根性無し!そんな態度でよく奥さんと10年も付き合っていられましたね」ベッドの上で横になりながら暴言を吐く全裸の女、名前は早川 雫。守屋と同じ会社に勤めているOLであり、守屋の愛人だ。「正しくは13年。一応俺は奈緒子の夫なんだぜ?」「不倫男がよく言うわ」呆れたようにそう言って雫もベッドから降りて無造作に床へ散らばっている下着や洋服を手に取り、着替えはじめる。その姿をニヤニヤと厭らしい視線で見つめる進。と、そこへインターホンの音が響く。瞬間、進は眉を顰め雫は目を輝かせながら微笑み進からの指示を待つ。「・・・帰って来たか・・・早いな」「どうする?私まだブラしか付けてないよ。この姿でベランダに出てようか?」「やめろ。そんな姿をご近所さんに見られたら折角買ったこのマイホームを手放さなければいけなくなるだろ」「マイホームじゃなくて、愛人専用のやり部屋の間違いじゃないの?」「うるさい。いいから・・・いいからお前はそこのクローゼットにでも隠れてろ!俺が良いって言うまで、出るんじゃないぞ」「はーい、分かりましたよご主人様」不貞腐れた様子の雫はそれでも進の指示通りにクローゼットの中へ入っていく。雫がクローゼットに入ってからすぐ、部屋のドアが開く。入ってきたのはスーツ姿の妻、奈緒子。「おっ、お帰り奈緒子」「ただいま。ご飯食べた?」「昼飯はさっき外に出て食いに行った」「そう。じゃあ、私ちょっとシャワー浴びて来るから」「おう」「うん」部屋を出て行く奈緒子。どこか素っ気ない夫婦の会話、しかし二人にとってこれが日常だった。そんな二人を見ていた雫がクローゼットの中から冷静なツッコミを入れる。「なんかすんごく冷めた夫婦―。離婚秒読みですかー?」雫の声を聞いても反論しない進は「はいはい」と彼女をあしらいながらクローゼットの扉を開けて中で待っていた半裸女の身体を抱きしめると、そっと雫の耳元で呟いた。「悪いけど、まだ離婚の予定はないんだ」「・・・むぅぅ・・・」子供の様に頬を膨らませる雫。だが抱きしめられたことは素直にうれしかったのでそれ以上、進に対して暴言を吐くことも無く奈緒子がシャワーを浴びている隙を見てそそくさと家から出て行く。彼女を見送り、姿が見えなくなったことを確認してからキッチンへ向かい歩き出す進。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、昼飯代わりに何本か飲んで一時的に腹を満す。先程雫から言われた言葉、マイホームでありながら愛人専用のやり部屋というフレーズ。将来のことを考えて離したくない妻と現在の自分を満足させるために手放したくない愛人。どうすれば二人をこのまま保持できるだろうか。考え抜いた末、進が導き出した答えは家を買うということだった。それもマンションでは無く敢えてのマイホームを。子供が出来た時のために、ホテル代を浮かすために、その為だけに購入した家はあまりにも高すぎる買い物だった。だがそんな金すら進は惜しまない。自覚はしていないが、結局男は誰よりも自分が一番大切だった。だからこれは自分への投資、これからも自分が不幸になることなく、幸せに生きて行けるようにするための買い物。そういう風に勝手に考え納得した挙句、進は奈緒子に何の相談も無くこの家を購入したのだ。しかしその日から、以前より更に奈緒子の進に対する態度は冷め、寂しさから進は何度となく雫と関係を結んでいく日々。ビールを飲みながらそんな日々を思いだしながら、しかし全く反省する気も無い進は空き缶をゴミ箱へ捨てると余った時間をパチンコ屋で過ごそうと思い自室に向かって走り出す。とある日曜日の早朝、スーツを身に纏った奈緒子が家を出て行った。どうしても済ませなければいけない仕事が出来たとのことで、休日を返上して仕事場である病院へ向かう。彼女を笑顔で見送ってから進はポケットに忍ばせていた携帯電話を取り出し雫へメールを送る。『うちに来ない?奥さん夜まで帰って来ないよ』簡潔に用件だけ入力して送信すると10秒もしないで返信メールが届く。本文には顔文字や動く絵文字など多くあしらわれ進の感性では可愛いと言うより派手なメールだった。そんな目に悪そうなチカチカと動く本文を読む。午前中は買い物に行くので行けないが、お昼頃なら来られるとのこと。了解した、そう短い言葉で返事を送ると彼女が家に来るまでの時間、どうやって暇を弄ぼうか。進は天井を眺めながらぼんやりと考える。パチンコに行ってもいいが、財布の中身が少し寂しいので下手な散財はしたくなかった。ならばカラオケは?それともたまには映画でも見に行くか?脳内での妄想は膨らむばかりだが、実行に移そうとしても身体が動こうとはしない。如何せん、午前中に体力を消耗してしまっては午後に差し支える。折角雫・・・愛人が家に来てくれるのだから、十分楽しみたいし楽しませたい。そうなると午前中、しかもこの暑い日差しの中へ出掛けて行くのは自殺行為だ。ここは家でつまらないテレビ番組を眺めながら仮眠でもしよう。予定が立ったので、早速テレビを付けようと思いリビングへ向かう進。すると突然家の固定電話が鳴りだし、けたたましく呼び鈴を鳴らす。妻でも愛人でも会社であろうと自分に用件があれば基本携帯電話に電話が掛ってくる。ということはこの電話は特別出なければいけない訳では無いし、どうせこんな時間帯に掛って来るのだ。間違い電話か無言電話だろう。そんなもの、出る必要は無い。そういつもなら思うのだが、今日の呼び鈴はやたらと長くこちらが受話器を取らない限り鳴り止まない。そんな雰囲気を漂わせていた。「・・・はぁ、うるせーな」気怠そうに呟き渋々と受話器を取る進。すると少しの間を置いてから相手が離し始める。『あ、どうも。こちら鬼造製作研究所と申します』聞こえて来た声は甲高く、きっと若いバイトの女がマニュアル片手に慣れないセールス電話を掛けてきたんだと察する進。しかしそんな仕事に不慣れな彼女の姿はとても初々しくて素人モノのAVを彷彿とさせるその姿に感銘を受けた進は一方的に話されるセールストークを反論せず、ただ黙って聞くことにする。「この『自発エネルギー備蓄保存機』は皆様の胸の奥に仕舞い込んだ気持ちを解放させ、発散された感情をエネルギーとして処理して保存する。そんな夢の様な機械です。あ、使用するにあたって電気代とかは全くかかりません!どうですか?エコっぽくないですか?!」そんな話を数十分一方的に話し続けた末、セールス電話は切られた。最後に『それでは、この電話を受けたお客様へは自動的に商品が発送されますので、どうぞご利用してみてください』と言って。セールス電話が掛ってから数日後、進はあることにやっと気が付いた。台所にあるテーブル横の壁際に置かれた除湿機の様なモノ。こんなの、自分は買っていないが奈緒子が買ったのか?でもこんなものを欲しがる性格でもないし。俺が通販で買ったのか?いや、記憶にないんだが。「・・・」不思議に思いキッチンで夕飯の準備をしている奈緒子へ声を掛ける進。すると何を思ったのか彼女は大きな音を立てながら包丁を置き、不機嫌そうな表情を進に向けながら吐き捨てる様に答えた。「それはあなたが勝手に買ったものでしょ?!何で私にいちいちそんなことを聞くよ!!」

普段あまり感情を表に出さない彼女が、自分が13年間連れ添ってきた妻である奈緒子が初めて見せた表情は進に対する『怒』の顔。何が癪に障ったのか、虫の居所が悪かったのか、彼には彼女がそこまで自分の簡単な問いに対する答えに怒らなければいけないのか、その意味が全く理解できないでいた。その理由を聞きたいが、話しても奈緒子は多分ずっとこんな調子だろうしこれ以上の質門は無意味だろうと思い、進は「そう、忘れてた」と言ってそれ以降夫婦の間で一切の雑談は打ち切られる。関係は冷めていても日常会話は交わされていたのに、遂に今日はそれすらも無くなってしまい無言のまま夜を迎える。ベッドに寝転びながら雫へメールを送る進。『妻が何故か怒ってる。会話も無いし、寂しい夜だ。明日、電話してもいいかな?』『いいよ。寂しいならいつでも私に電話してね!いつでもあなたからの電話、待ってるよ~!!!』他愛も無いメールのやり取りが今日はとてもうれしかった。そう、素直に雫からのメールを喜びながら進は隣のベッドに目を向ける。ベッドの上に奈緒子は居なかった。出掛けているわけではないが、最近よく深夜まで彼女は起きている。一体何をしているのかは聞いていない。いや、あまり聞ける雰囲気では無かった。真意は不明だが、奈緒子はいつも夕飯後にもう一度ご飯を炊き始め、同時に薬缶で大量のお湯を沸かしている。コーヒーでも淹れてくれるのかと最初は思っていたが、一度もそんなことは無い。なにか別の用途で使うようだが、その真意は不明。朝早く起きて各部屋の中をチェックしても、特別おかしなことをしている形跡は無く普段と何ら変わらない我が家。一体妻は何をしているのだろうか。理由を聞きたくても口を開けば最近怒ってばかりだし、仕事場で怒鳴られるのはいいが家出まで罵声を浴びるのはごめんだ。そう考えて、進は奈緒子の行動に対して例えおかしくても口は出さないようにしよう、そう自分の中で決めていた。だが妻の様子は日を追うごとにおかしくなっていく。今まで溜め込んでいた物を発散するかのようにヒステリックな物言いや、食事も作らないという横暴な態度。更に事あるごとに「あなた、不倫してるでしょ」「あなた、私のこと嫌いなんでしょ」と、同じ言葉で何度も進を問い詰めてくる奈緒子の姿を見て、進は一抹の不安を感じた。そして遂に、男は見てしまう。女の常軌を逸した行動を。深夜、足音を立てずに1階へ降りる進。昼寝のせいで寝心地が悪く夜中に目を覚ました進は隣のベッドを見る。そこに妻の奈緒子は無い。そして思い出す、夕飯に白米は出されなかったのに確かに炊飯器は動き米を炊いていた。「・・・」階段を降りると左右に首を振り、妻が待ち伏せていないか確認。どうやらそこまで警戒はしていないようだ。改めて辺りを見渡すと真っ暗になった廊下の一角、応接間の扉から微かな光が漏れていた。「・・あそこか・・・」他に出来が付いている場所も無いし、応接間に妻が居るのは間違いない。確信した進は足音を立てずゆっくりと部屋に向かって歩いていく。不気味なことに、部屋へ近づくにつれて何やらお経の様な声が聞こえて来た。何かの録音テープかと思ったがその声は普段から聞きなれている声で、それはまさしく妻・奈緒子の声だ。なぜお経を唱えているのだ?不安な気持ちが高まる中、遂に扉の前に来た進。軽く息を吸って吐いて、そして意を決っして応接間の扉を開いた。中を見て唖然とする進。部屋の中には大量の茶碗と山盛りになったご飯、その真ん中には箸が突き刺さっている。そんなものが部屋の中で大量に置かれていて、その脇には湯呑茶碗が置かれ親切に緑茶が注がれていた。「何だよ、これ」その声で初めて進の存在に気が付いた奈緒子は慌てて手元に置いてあった蝋燭の火を消して立ち上がり、入り口で立ち尽くす夫の方を見る。その顔は蒼ざめ、身体も小刻みに震えていた。手には大量の数珠が巻かれ、足元には先程消した蝋燭と一緒に線香の箱が何箱も置かれ何本かは火がつけられ香炉に刺さっている。その異常な空間の壁際にはしっかりと消臭スプレーと空気洗浄機がいくつか準備されていた。「なぁ、奈緒子・・・これ一体」まずは冷静になって話を聞こう、そう思い声を掛ける進。だが奈緒子は一向に口を開こうとせず、互いに無言のまま数分が経とうとしていた。そこで、初めて奈緒子は重い口を開く。「・・・・・・迷惑掛けて・・・ごめんなさい。すぐ、片付けるから・・・」「・・・あ、じゃあ俺も・・・」手伝おうか?そう柔らかい物腰で言おうとした進を真っ向から拒否する奈緒子。「あなたはいいから!!いいから・・・いいから上に行ってて!!!」折角手伝ってやろうと思ったのに、その態度は何だ?お前頭おかしいんじゃねえの?病院行けよ!―言いたいことは山程あったが、こんな状態の奈緒子には多分まともに意見を聞き入れて貰えないと思い進は自ら身を引き、黙って2階の寝室へと戻っていく。理由は明日の朝、落ち着いた状態になってから聞こう。そう思いながら眠りにつく進、だが次の日の朝、奈緒子の姿は家のどこにも無かった。奈緒子が失踪して1カ月後。家の中では楽しそうに笑い合う進と雫の姿があった。雫特製の朝食を食べながら朝のニュース番組を見る二人。今日のトップニュースは最近多発する女性失踪事件の話題。「怖いねー、進」「雫は可愛いんだから、人一倍気を付けろよ」「はーい!」笑顔で進を見送り食器洗いを始めようとした時、電話の呼び鈴が鳴る。こんな朝から一体誰だろう、ただのイタズラ電話かな?そう思いながらとりあえず電話に出る雫。「はーい、守屋でございます」「・・・・・・雫さん、ですね」「へ?」誰?聞いたことがあるような無いような女声に突然名前を呼ばれ戸惑う雫。だがその疑問は直ぐに拭われる。相手が自ら名前を名乗ったことによって。

「私・・・・・・初めまして、私は・・・守屋 奈緒子・・・です」「・・・え・・・まさか進の・・・」「・・・・・・妻です。・・・・・・一応」それは居なくなったと思われていた妻・奈緒子からの電話だった。夜、家に進が帰ると、雫は不在で夕飯は何も用意されていなかった。仕方なく外で食べようと思い自室へ向かった進はクローゼットを開き、そして中にある鞄に手を伸ばす。夜11時。少し酔っぱらった状態の女子大学生・高瀬 綾乃は親友の瀬戸 光の肩を借りながら歩いていた。「あははははー!私ってなんでこんなモテないの―!!!」口内から流れる酒とニンニクの臭さに鼻をつまみながら光は呆れたように言う。

「こーんだけお酒飲んで、大量のピザ食べてたんじゃあ、仕方が無いよ」「そんなぁーーー!!!いいじゃん、イタリアン!最高じゃん!!」「・・・はぁ、本当にあんたって奴・・・」言葉を途中で切らし立ち止まる光。未だ陶酔状態が続いている綾乃はヘラヘラ笑いながら「どしたー?」などと明るく質問すると、光はその言葉には答えず、綾乃の腕を掴むと突然今歩いて来た道を逆走する。「ふぇ?!・・・あれ、何どうしたの?光」「いいから走って!!」一体どうしたというのか、綾乃は走りながら徐に後ろに振り向いた。真後ろに居たのは知らない男、その手にはスタンガンが握られていて・・・。雫は奈緒子の第一声を聞いた瞬間、飲みかけのコーヒーを吹きそうになる。それ位、あんまりにも突拍子も無い話を始めたからだ。「ある日突然、家の応接間に知らない女性が居たんです。話しかけても何も答えてくれなくて、お・・進が帰ってきてもその場から動かないし声も出さないし。だから思ったんです、これは進とその人がグルになって私を騙そうとしているんじゃないか、そういうゲームなんじゃないかって」「ぷっ、あ・・あははは。ちょっと、待ってよ奥さん!いきなり愛人呼び出して開口一番何言い出してんの?!頭おかしいんじゃない?」冗談半分に雫が言うと奈緒子は神妙な顔つきで「そうなのかもしれません」と呟き、雫は内心、本当にこの女はダメになったんだな。と、思った。「話続けますね。それで、次の日の朝まで彼女は応接間に居て、そしてその日の夜、また他の女性が一人その部屋に居たんです。昨日から居る女性と一緒に。並んで座っているんです」

「・・・」

奈緒子の表情は真剣そのものだ。精神的に何か患って妄想を語るにしては落ち着いている感じがする。そう思い、最初こそ真面目に話を聞かなかった雫だが徐々に彼女の話を真剣に聞き始めた。

話の続きはこうだ。それからも女性の数は増えていき、そして進はその事に気付いていない。自分にしか見えていない彼女たちは何なのか、本当に気がおかしくなったのか。疑心暗鬼になる日々の中で、奈緒子はある答えを導き出す。「もしかして、彼女たちは死んでいるのではないか?」そんな中、彼女は遂に目にしてしまう。夫の奇行と、それと同時に理解した。彼女たちがなぜあそこに留まるのかを。「それから毎晩供養を兼ねて見よう見まねでお経を唱えてみたり、御線香をあげたりしました。それでも・・・彼女たちは居続けて・・・」だから彼女は家を出た。自分も彼女たちと同じようになる前に、夫の元から逃げだしたのだ。「・・・・・・証拠は、そういうのはないんですか?」全てを聞き終えた雫は重い口を開く。正直、彼女はまだ奈緒子の言葉を信じてはいなかった。そんな、作り話のようなことが現実にあってたまるかと。奈緒子は俯き首を横に振る。その姿を見てやはり奈緒子の考えた妄想だ、そう確信した雫は伝票を筒の中から取り出しながら立ち上がり、席を離れようとした。その時、奈緒子は通り過ぎる雫の背中に一言声を掛ける。「台所にある・・・除湿機みたいな機械」「・・・は?」「主電源を入れてみればいい。それで全てが分かるから」「・・・」家に戻った雫は手洗いもせずに台所へ直行すると、除湿機の様な機械の前で立ち尽くす。そして忠告通りに主電源を入れてみると機械の蓋が自動的に開いた。中身を見た瞬間、流し台に顔を突っ込み激しく嘔吐する雫。そして乱暴に口元を腕で拭き、涙と涎を垂らし真っ青になりながら家を飛び出していく。夜11時30分。台所には綾乃一人だけが床の上で倒れていた。手と足を縄で縛られ拘束されている。横に立つ男は除湿機の様な機械の『主電源』を入れた。すると蓋が足踏み式ゴミ箱の様にパカッと口を開き、その中には赤黒く悪臭を放ち続ける肉塊の山があった。男は綾乃の身体を持ち上げると斜めに傾かせ、機械の口元に頭部を宛がい『スタート』ボタンを押す。すると機械の中から出てきたのは螺旋状の分厚い刃。勢いよく回転するその中へ綾乃を頭部から押し込めれば、逆さまの状態で身体が突き刺さり、ブルブルと左右に揺れて『ボギュッ』『ギュ、ゴ、ギギュギッ』と轟音を鳴らしながら、徐々に砕かれ落下していく綾乃の肉体。守屋 進はそんな彼女の姿を楽しそうに眺める。そんな彼を隣室に居座る女性達は無言で睨み続けた。そして除湿機の様な機械・正式名称『自発エネルギー備蓄保存機』にまた今日も新たなエネルギーが蓄積されていく。






あかん、これホラーやない。ミステリー擬きや。


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― 新着の感想 ―
[一言] うーむこれは素晴らしい。ディ・モールト素晴らしい。まずこのまったく改行も余白もない詰め込んだ書き方が良いです。この人天然なんじゃなかろうか、と思わせるところが来る。もちろん意図的にやってらっ…
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