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救いの手

「さて、どうするかな」


 仕事を一通り済ませたレーヴェは、カウンターの定位置に納まるとハルトに話し掛けた。

 レーヴェの仕事が一段落するのを待っていたハルトだが正直困り果てていた。


「正直、深刻どころの話じゃねぇぜ。あの坊主の状態は……」


 ハルトはそう言って弟子達に預けたロンに視線を向けた。

 余りにも辛気臭かったので、弟子達と一緒に騒がせているのだ。もちろん代金は、ハルト持ちである。


「宿無しの金無しだからな。おまけに知り合いが処分されてたら明日には路頭に迷うな」

「なに他人事みたいに言ってやがる。ロンの坊主が路頭に迷う破目になる原因を作ったのは、おめぇじゃねぇか」


 言い掛かりに近いが事実である。間接的にではあるが、レーヴェが原因で守備隊が解体されたとも言えなくはない。


「人聞きが悪いな。オレは自分の財産を守る為に主張をしただけだ。守備隊が解体されたのは奴等の自業自得だろ」

「だがよぉ、罪悪感がないって訳じゃねぇんだろ?」

「まあ、少なくともある程度手助けはしてやりたいと思ってるが……」


 だからこそこうして頭を悩ましている。

 「我関せず」を貫ける精神の持ち主であれば、知らぬ存ぜぬを貫けばよかった。しかし、レーヴェは残念ながらそこまで薄情になれなかった。


「当面の部屋を用意してやれねぇのか?」

「無理だな。繁盛してるって言っても、このまま順調に進むとは限らないからな。無料(ただ)同然で泊めてやれる余裕はない。一泊や二泊程度なら考えんでもないが、ロンが必要としてるのは当面の宿泊と金を稼ぐ手段だろ。そっちの方で口利きできないのか?」


 どこかに見習いとして捻じ込むことができれば両方が解決する。


「必要な道具も下地も全くないんじゃ厳しいだろうな。知らねぇかもしれんが、見習いを受け入れんのも結構大変なんだぜ。それに、オレの伝手はお前さんが押し付けてきた餓鬼共に使っちまって残ってねぇ」

「となると、やっぱり試して見るしかないな」


 あまりお勧めしたくないが、ロンにぴったりの解決方法が存在する。無論、レーヴェとハルトの力添えが必要とするが、おんぶに抱っこより数倍マシな案だ。上手くいけばそのまま生活を安定させることも可能かもしれない。


「そうなるだろうな。あの坊主にでもできそうな物もあるんだろ?」

「雑用が多いから何とかなるだろう。でも、宿に泊まるほどの金は稼げないぞ」


 そう言ってレーヴェは意味有り気の視線を送る


「ったく、分かったよ。お節介焼いて坊主に関わったのはオレだしな。家の空き部屋を貸してやるよ。掃除してねぇけど外で寝るよりマシだろ」

「なら、後はロンの意志次第か」

「突っぱねるようなら後は坊主の問題だな。ここまで考えて世話してやろうとしてるだけでもお人好しが過ぎるぜ」


 溜息交じりの苦言にレーヴェは「違いない」と苦笑気味に応えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「本当に部屋を貸してくれるんですか?」


 騒ぎ終えた後、ロンはレーヴェ達から説明を受けていた。

 深刻な状態から救い出そうとしてくれている二人に、ロンは自分でも気付かない内に敬語を使うようになっていた。


「家の汚ねぇ部屋でよければな」

「寒さが凌げて寝られるなら十分ですよ。ありがとうございます!」

「と言っても無料(ただ)じゃねぇ。部屋代は一日小銅貨二枚だ。一月、四十日だから銅貨八枚だな」

「……銅貨八枚」


 ハルトが部屋代の話をすると文無しであるロンは顔色を失う。


「そんな顔をすんな。当面と生活費として金は貸してやる。そこから今月の部屋代と生活費を出せ」

「助かりますけど……ハルトさんは良いんですか?」


 示された提案にロンは目を剥くと恐る恐る尋ねた。


「文無しの餓鬼が遠慮してんじゃねぇよ。だが、勘違いすんなよ。部屋代を払えなくなったら容赦無く叩き出すからな」

「で、でもオレ働き先が無くて……」

「それも承知済みだ。詳しい話は、そっちの黒頭に聞きな」


 そう言ってハルトが顎でレーヴェをさす。


「髪の色で人を呼称しないでくれ」

「うるせぇ。さっさと説明してやれ」

「分かったよ」


 いきなり黒頭呼ばわりされたのは不本意だったが、わざわざ訂正させる気もないので仕方なく説明を始めることにする。


「まずは自己紹介だな。この店『月夜の宿木亭』の主人レーヴェ=ヒルベルトだ。よろしく頼む」

「こ、こちらこそ宜しくお願いします」


 カウンター越しに手を差し出されたので、ロンは慌ててそれに応じる。


「ロン、君の現状は少しだけ改善したが、まだ重要な要素が掛けていることは認識しているな」

「それはもちろん。オレには働き先がありませんから」

「そこでだ。オレが君に簡単な仕事を用意しようと思う」

「え?マスターが?」


 店の下働きと言うフレーズがロンの脳裏を過ぎるが、レーヴェの次の一言でバッサリ否定される。


「残念だが店の手伝いじゃないぞ」

「じゃあ、一体何をすれば……」


 予想を外されて困惑するロン。


「簡単だ。うちから君に依頼を出すから、それを処理して欲しい」

「依頼ですか?一体、どんな依頼なんですか?」

「簡単な奴だと『買い物』や『草むしり』だな。少し大変な奴になると『溝攫い』や『木材運び』があるな。特殊なのだと『失せ物探し』や『害獣の駆除』なんて物もある」


 手元にある案件を思い出し、その一部をロンに紹介する。


「それはまた一貫性が無いですね。全部マスター、いえ、ヒルベルトさん絡みなんですか?」

「本当の依頼主は別にいる。うちは、依頼が確実に行われたかを確認して報酬を支払うだけだ」

「報酬は幾ら位貰えるんですか?」

「依頼ごとに異なるから何とも言えないな。ただ報酬が半銅貨一枚を割ることだけは無いと約束する」


 最低限の報酬をレーヴェが確約するとロンはゴクリと唾を飲み込んだ。

 田舎育ちのロンにとって半銅貨一枚はかなり割りの良い報酬だ。ひとつ依頼をこなすだけで十分部屋代を稼ぐことができる上に、うまくすると故郷に金を仕送りすることもできるかもしれない。


「依頼は常にあるんですか?一度きりだと困るんですけど」

「今のところ無くなる気配はないな。減るどころか微増気味だ」


 それを聞いてロンは覚悟を決めた。


「やります。やらせて下さい」


 テーブルに両手を着き、深々と頭を下げてレーヴェに願い出た。


「なら最初の依頼だ。報酬は小銅貨五枚、今からやれるか?」

「ハイ!!」


 投げかけられた質問に、ロンは気持ちの良い返事で答えた。

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