人員確保
昼休みの投稿
レティス王国のグラスダール侯爵領にある港町アリスティア。
十年前の疫病発生時は、死の港と恐れられ人が寄り付かなかったが、今ではそんな風評は吹き飛びレティス王国有数の町として栄えつつある。
レーヴェが、手に入れた建物は、その港町の中央部に広がる高台の上にあった。
「ホントに、これが金貨二十五枚なのか……」
建物の外観を一望したレーヴェは、呆然とした。
立派過ぎるのだ。
味のある外観をした四階建ての木造建築で奥行きも十分。三階には、広めのバルコニーを見て取れ、そこからは町を一望できるだろう。外観も立地も文句の付けようがないほどの物件で、何かの間違いかと思ったほどだ。
「オッサンには、感謝してもしきれないな」
(今度、飛び切りの酒を送ってやろう)
そう心に誓いつつ敷地内を伺う。
情報通り人の気配がある。それも一人や二人ではない少なくても一〇名以上だ。他の階にもいるとなるとかなりの人数になる。
さすがに、ここまでの規模とは予想していなかった。
「兄さん。そこは、宿屋じゃないよ?宿なら他をあたんな」
隣の店先から声を掛けられる。
視線を向けると恰幅の良い女性が、しかめっ面でレーヴェを見ていた。
歳は四十を超えた程度だろうか。いかにも気の強そうな女性で、エプロンと三角巾で見事な商売人である。右の耳にイヤリングをしているので、結婚していることが分かる。
「ここ宿にしか見えないんですが、一体なんですか?」
「そこは空き家さ。ゴロツキ付きのね」
(出てくる情報は、事前の情報と同じか……)
住人の言葉だ。信憑性は高い。ヤルダの情報通り中にいるのはゴロツキで、間違いなさそうだ。できればゴロツキどもの情報が知りたい。
「ゴロツキってどんな?」
「町の悪ガキってところだね。さすがに賞金が掛かっているような犯罪者は、見たことないね」
(それだと、殺すのは不味いな。話し合いで解決できればいいが……。)
「『殺す』って、物騒なことはやめておくれ。中に居るのは成人したての悪ガキさ、そんなことしたら町の人間全員を敵に回すよ。それに解決ってどういうことだい。家主にゴロツキの掃除でも頼まれたのかい?」
考えていることが、口から洩れていたらしい。ロディアさんの顔に怒りが見て取れる。しかし、今の言葉だけで家の関係者だと当たりを付けるのは大したモノである。
ちなみに、この国の成人年齢は十六歳である。
(隠してもいずれバレるし、正直に話すか……)
「一応、この家の家主です。」
「アンタが、この家の?一体、いくら積んだんだい?」
「金貨五百枚です」
目を丸くする女性に、即答する。
捨て値同然で買ったとは、さすがに言えないので買い取り価格をかなり盛った値を告げる。店を売りに出さなければならない事態に陥った時に、捨て値で買ったと言えば足元を見られるからだ。
「バカを言うんじゃないよ。三年前でも金貨二千枚以上の物件だよ。ゴロツキが住み着いたからってそんなに安くなる訳ないよ」
「金貨二千枚?金貨四枚では?」
あまりにもバカげた値段に、驚き事実を漏らす。
「アンタどこの田舎者だい?金貨四枚で、この家買えるなら誰だって買うよ。こんないい物件、早々あるもんじゃないさ。町で一番人気の物件だよ。最近では、所有権を持っている商人に貴族が金貨五千枚積んだっていう噂があるくらいだからね」
「オレが聞いている話しと随分違いますね。十年前の疫病患者を収容した上に、一家が全員死んだから縁起が悪くて誰も買わないって、話しでしたが……」
「一体、どこのどいつだい?そんな話ししたのは?」
ヤルダからの情報をそのまま伝えるとロディアは、やたらと不快な顔を浮かべた。心の底から嫌がっている表情だ。
「違うんですか?」
「確かに疫病患者を収容したけどね。家族はひとっこひとり死んじゃいないよ。翌年に店の主人がポックリ行っちまってね。唯一の肉親だった薬師のワイスさんが、権利を引き継いだんだよ。商人の話しでは高値で買い取ったって話しだがね」
「…………」
(ワイスって、あのワイス婆さんのことか?)
だとしたら、権利書は紛れもなく本物である。それなら嘘を付いたのは、ヤルダと云うことになる。しかし、あのヤルダが損してまで赤の他人であるオレに嘘の値段で売るはずがない。
ヤルダは面倒見がよく気遣いもできる人間だが、度を越したモノを与えたりはしない。長くない付き合いだが人を見る目はあるつもりだ。
ならば導き出される答えはひとつだ。
「この家の所有権持っている商人の名前って分かるかな?」
「知ってるよ。ロプス=アヴァールさ」
「ひょっとして、あまりいい噂が無い?」
「そうさ。強欲で知られててね。騙された奴は星の数ほどいるよ」
「この町の守備隊長の評判は?」
「……よくないね」
言葉を濁したが、「癒着している」とそう言っているのが見て取れた。そうなると状況は、最悪だ。
権利書を見せつけても権利書を取り上げられた上に、投獄される。運が悪ければそのまま口封じされて終わりだ。普通ならこれだけの条件が揃っていたら泣き寝入りだろう。
素直に捕まるつもりはないが、開業前から躓く訳にはいかない。今後の為にも、その商人と守備隊長には退場して貰った方がいい。
「貴重な情報ありがとうございます」
「もういいのかい?」
「なら、もうひとつ。悪ガキ共を叩き出したいんですが大丈夫ですか?」
レーヴェの言葉に、女性は訝しげにする。
「随分、デカい口聞くじゃないか。ガキと言ってもそれなりの人数は揃ってるよ。それに大怪我なんてさせたらタダじゃおかないよ」
「青痣ができる程度に抑えます」
(期待半分怪しさ半分といったところか……)
「引っ越し前から嫌われたくないですからね」
「居なくなってくれるなら大歓迎さ。青痣くらいなら構わないよ。それどころかいい薬になるさね」
「良かった」
幸先が良い。いきなり乱入して子供達を叩き出したとなれば、周囲に与える印象は良くない。事情を知っている人間が、一人でもいれば悪い噂が出回るのは避けることができる。
この女性は守備隊長の癒着や賞金首まで知っているほどなので、かなりの情報通と言える。賞金首の情報に関しては、恐らく隣にヤバイ奴がいないかどうかを知る為の産物だろうが、少なくとも欲しい情報を集める力はあるということだ。しかも、見ず知らずのレーヴェにお節介を焼くほどだ。当然、自分の知り得た事を周囲に知らせる程度の情報の発信力がある。
幸運を内心で喜び。レーヴェは真っ直ぐ店へ向かう。
リミットまで、十一日。目的を達成するには十分過ぎる時間だ。幸い明日から夜期に入る。闇に紛れれば隠れて動くのは簡単だ。相手の注意を自分に向ける為にも、今の内に種を蒔いて置く必要がある。
「家主からの伝言を預かって来た。話がしたいので、中に入れてくれ」
ノックの後に、そう言付けをすると扉が半分ほど開いた。
姿を現したのは、筋肉質のガタイのいい男だった。恐らく、腰巻と眼帯を装備させれば立派な盗賊になれるだろう。
「伝言はなんだ?」
「重要な話しだから、ここでは話せないな」
「何も聞いてないぞ」
「知らないよ。家主に頼まれただけだからな。用件を済ませたら直ぐに帰るさ」
「……入れ」
(これは、凄いな……)
扉をくぐり中に入ると内部は、大きな吹き抜けになっていた。正面には長い木造カウンターが鎮座し、背面には酒を収納するスペースがある。酒樽を置くスペースも用意されていて文句なしのレイアウトだった。
カウンター前のスペースには、頑丈なテーブルが五つ、埃に塗れているが大木を輪切りにしたような味のあるテーブルで、結構な値打ちモノだということが分かる。少し掃除をすればそのまま使えるだろう。
壁や床は、所々壊れていて張替えが必要だが、許容範囲内だ。
(本当に、いい買い物したな。店が軌道に乗ったら、二人に礼の品を贈るか……)
「おい、なにほうけてやがる。伝言があるんだろ。さっさと話しやがれ」
(いかんいかん。期待以上の作りで、ついつい魅入ってしまった)
現実に引き戻されると、素早く周囲を伺った。人数は、視界に入るだけで八人。背後に三人。得物になりそうなモノは、ナイフ四に棒切れ三、酒瓶五。
完全な素人であることが見て取れる。少しマシに見えるのが、後ろにいる扉で応対した男とカウンターテーブルからレーヴェを見すえている金髪の優男だ。この男が恐らくリーダーだろう。他の奴等と比べると若干マシだ。筋肉の付きも悪くない。
「お前がリーダーか?」
「そうだ。ロプスの旦那からの伝言だろ。サッサと言えよ」
(やっぱりロプス絡みだったか。大方、ヤルダから捨て値で買い取る為の自作自演だろう)
呆れる程、強欲な商人だ。
もっともその計画は、ワイスの付けた条件によって破られたわけだが……。
「その前に、全員呼んで貰いたいんだが……」
「伝言聞く為に、なんで召集掛けなきゃならないんだよ。上で女と宜しくやってる奴もいるんだ。無茶言うなってっての」
(めんどうだな……)
リーダー格の人間がいるのは良いとして召集を掛けるということは、こいつらを叩き出しても他の連中が戻って来る可能性があるということだ。女を抱いている奴らは、女ごと叩き出せば問題ないが、外に出ている奴等への対応が面倒だ。
これからのことを思って嘆息し、リーダー格の男を見据える。
「分かった。伝言は『さっさと出てけ、世間知らずのクソガキ共』だ。すぐに出て行くなら手荒な真似はしない」
「……おいおいおいおい、オレの耳が可笑しいのか?コイツ今なんて言った?」
放たれた言葉に呆気に取られた後、仲間に声をかける。明らかにレーヴェを下に見るあざけりがある。
「いや~、久しぶりに聞いたな~。『さっさと出てけ』だってよ。アハハハッ!」
「それだけじゃないぜ。コイツ、オレ達をクソガキ扱いしやがったぜ。こりゃあ死刑確定だな」
「まてまて、それだけじゃねぇ。世間知らず呼ばわりもしやがったぜ。裸にして大通りを連れ回そうぜ。黒髪なんて珍しいから人目を引くぜ」
(今、笑ったバカ共は使えないな。背後の男と一歩身を引いた奴は、悪くないな)
状況が、普通ではあり得ないことを悟ったのだ。勘がが働いたのか、頭の回転が速いのかは分からないが、危機管理ができる人間であることが見て取れた。
リーダーの男は、使えない。こちらの間合いの中で、平然と笑い転げているような奴だ。この手のタイプは、戦場に出たら真っ先に死ぬ。
「この状態で『手荒な真似はしない』だってよ。バレてねぇとでも思ってるのか?おめでたいヤツだぜ!」
「…………。」
「オレ達は、ロプスの旦那から許可を貰ってるんだよ。それに連絡に寄越す奴は、毎回同じ奴だ。テメェじゃねえ」
「なんのつもりで来たのか知らねぇが、アンタはイワユル『不法侵入者』って奴さ。ボコられても文句言えねぇんだよ!!」
(なるほどな。ロプスってのは、想像以上に悪知恵が働くらしい)
レーヴェには、この一件に関する全容が既に見えていた。
自分のモノと嘘を付き、町の不良共に貸し出す。正式な家主から許可を貰ったガキ共は、喜んで溜まり場として使うだろう。必然的にガキの出入りが多くなるから悪い噂が立つ。
本当の家主には、悪い噂だけを説明し値が益々下がっているとさり気無く脅しを掛ける。それで不安を煽り、捨て値に色を付けた額で買い取る。
取引が成立するまでは、定期的に人を寄越すことで家が荒れ過ぎないように注意を払い。手に入れたら適当な理由を付けて追い出す。もしもの時は、兵を動かして排除すればいい。
そうして悪い噂を消したところで、値を吊り上げ売却。差額でボロ儲けするという訳だ。
なんとも上手くできたカラクリだ。
「ビビッて、声もだせねぇのか?」
「人を殺したこともないガキが吠えるな。耳が腐る」
少しだけ凄みを効かせて威圧すると、ピタリと笑いが止んだ。
「テメェ……」
威圧しているつもりだろうが、全くなってない。身の危険など毛ほども感じない。これだけで程度が見える。
「簀巻きにして引きずり廻してやる」
「やってみろ、ガキ」
「このっ!?」
よほどこちらの態度が腹にすえかねたらしく、怒り狂ったように殴り掛かって来る。
拳を横に反らし、拳を躱す。同時に身体を戻す動きに合わせて、鳩尾に膝を叩き込む。
「ゴホッ!?」
「手加減したんだ吐いてくれるなよ。汚れたら掃除するのは、オレだからな。っと!」
背後からの一撃を軽くいなす。完全な死角からの一撃だったが、気配で丸わかりだった。
「カイル、大丈夫か!?」
咳き込むリーダーの少年に、仲間が声をかけるがまるで反応しない。強烈な腹への一撃で、呼吸が思うようにできないのだ。涙目でなんとか呼吸を整えようとしているのが見て取れる。
「上の奴等を呼んで来い!袋叩きにするぞ!!ロゼさんにも声をー『必要ない。』」
凛とした高い声の後に、三階から見事な着地を決める少女。
「ロゼさん!」
十七八というところだろうか。まだ幼さを残す中性的な顔立ちをした銀髪の少女だった。肩まで伸びる髪と同じ色の瞳で、油断無くレーヴェをみすえる。
「うるさくて眠れない。何事?」
抑揚のない声で、問い掛けられるとガキが騒ぎ立てる。
「コイツが、カイルを!?」
「いきなり殴り掛かって来たんです」
「今のはホント?」
「……イエ、先に殴り掛かったのはカイルです」
ロゼと呼ばれる少女の問い掛けに扉で応対した男が答える。
少女は、軽快な足取りで近づくと嘘をついた男の頭に拳を打ち下ろした。頭蓋を叩く鈍い音がしたので、手加減抜きの一発であることが分かる。
「嘘はダメ」
「……す、すみません」
「それで、なにしたの?」
涙目になる男に、再度質問する少女。嘘を許さぬ凄みがあった。
「あの野郎が、いきなり出て行けって……。後、軽い挑発を……」
「ん、了解。」
状況を確認している間も、少女はレーヴェを警戒し隙を見せなかった。
(動きも視線の運びも及第点、何よりも最初に状況把握に勤めたところがいい)
「ローゼリア=ヴァイス」
「レーヴェ=ヒルベルトだ」
相手が名乗ったので、レーヴェが名乗り返す。
これは挨拶というだけでなく、交渉を持ち掛ける時に使用する意思確認方法のひとつだ。名乗ることで相手に誠意を示し、自分に話し合いの準備があることを伝える。相手が名乗り返せばその申し出を受けたことになる。名乗らない場合は、話し合いの相手として認められないことになり、その時点で決裂となる。
「要件を聞く。」
ローゼリアが警戒を若干緩めたので、それに習ってレーヴェも警戒を緩めた。
交渉に入る前の最低限のマナーと言ったところだ。
「オレの要求は、君達がこの家から出て行くことだ」
「何故?家主には、許可を得ていると聞いている」
「残念ながらそれは偽の家主だ。現在の家主はオレだ」
「それを証明するモノは?」
「権利書がある」
「見せて」
(直球だな……。だが、悪くない)
要求に対して拒否することはできるが、その時点で交渉は決裂だろう。町の人間の大半は、商人のロプスが持っていると認識しているからだ。レーヴェの言葉が信用に値するモノとして認識させる為には、それを裏付ける証拠を見せ付ける必要がある。
懐から権利書の入った封筒を取り出すとローゼリアに向かって投げた。
封筒を受け取ると中のローゼリアは、中の書面を確認した。
「姐さん……」
「黙って」
取り巻きの男に声を掛けられるが一言で封殺。取り巻き連中から相当な信頼を勝ち取っているようだ。
中に入っていた数枚の書類を確認し終えるとローゼリアは、封筒をレーヴェに投げ返した。
「グラスダール公爵の署名と印が入ってる。間違いなく本物。場所もここで間違いない」
「じゃあ、オレ達は……」
「差し詰め家を勝手に占拠する不法侵入者。殴られて当たり前」
予想以上に通りを理解できる人間のようだ。権利書が本物だと判別する鑑定眼といい、是非とも雇いたい人材だった。
「荷物をまとめて」
「でも姐さん。オレ達はともかく、姐さんは住む場所が……。」
「なんとかなる。野宿にも慣れてるし」
「ロゼさんに、そんなことさせられねぇよ!いっその事、モノを取り上げちまえばいい!!」
ダメージを回復させた少年が焦って声をあげる。
「無理よ」
「無理なモンか!全員で袋叩きにすれば、こんな奴イチコロだ!!」
「全員で、殴り掛かっても一撃も当てれないで終わる。次元が違う」
「ね、姐さんでも勝てないんですか?」
「百回戦えば、百回負けるそういう相手……」
「…………」
ローゼリアの言葉に全員が沈黙する。それだけローゼリアの強さを知っているのだろう。
(大したもんだ)
レーヴェは、ローゼリアの一連のやり取りを見てそう思った。
三階から飛び降りて平然と着地を決める能力と状況の把握から警戒、交渉にいたるまで全てが及第点だった。しかも相対するレーヴェとの実力差を正確に把握し、事実として受け入れる気概を持っている。
これだけの逸材は、そうそうお目に掛かれるモノではない。
(欲しいな……)
心の底からそう思った。うまい具合に、此方に引き込む材料があるのだ。これを逃す手はない。
「ローゼリア、君は住む場所がないのか?」
「ん、放浪者」
「なら、オレに雇われる気はないか?食事つきの住み込みで、月当たり銀貨三枚でどうだ?」
「……銀貨六枚なら。」
突然の提案に言葉に驚くが、ローゼリアはすぐに切り返すした。
「それはボリ過ぎだろ銀貨三、銅貨五枚」
「読み書きができるし算術もできる。銀貨五枚」
「ならひとまず銀貨四枚、後は働きを見て追加でどうだ」
「分かった」
なんとかレーヴェとしても納得の行く額で落ち着いた。
さすがに、金銭の駆け引きまでできるとは思っていなかったので、十代後半の娘に払うにしては、少々高額になってしまった。しかも、寝床と食事付きである。
「それと、扉で応対した奴とそっちの棒持ってる奴も、その気があるなら雇ってやる。ローゼリアほどはだせんがな」
何故、自分が声を掛けられたのか分からず二人は、お互いに顔を見合わせる。
「まあ、よく考えればいいさ。答えが出たらココに来い。それと悪いが、すぐに帰す訳にはいかない」
「どういうことだよ?もう用は無い筈だろ」
「人の家に上がり来んで、荒らし回ってお咎め無しで済む訳ないだろう」
「金なんて、誰も持ってないぜ」
なにしろ全員職無しだ。ここにある酒や食い物は、日雇いの仕事や家からくすねて来たモノだ。金なんてある訳がない。
このデカイ家の修繕費となると金貨が必要になる。とてもじゃないが払える額ではない。
「別に金を請求する訳じゃないさ。やって欲しいことは三つ。一つ目、この家の掃除。二つ目は、修繕の手伝いをすること。修繕を手伝ったらささやかだが、金も払おう。ローゼリアには、掃除の監督を頼みたい。終わったらコイツで夕飯でも食べるといい」
「ん、了解」
弾いた銀貨をキャッチし、懐に収めるローゼリア。
掃除の監督は、実際問題として家の間取りを把握しているローゼリアの方が、上手くやれるだろう。
それに、労働力として確保した少年達もローゼリアの下で働くなら文句も少ないはずである。いきなり降って沸いたように出てきた得体のしれない男に、指図されたら誰でも反発する。
リーダーであるカイルがいい例だ。
その点、ローゼリアに任せれば簡単にクリアされる。反発を招きながら掃除をするより、遥かにマシな結果になるだろう。
その辺も含めての判断だ。
「最後のひとつは?」
「なに、町の通りでちょっとした立ち話をしてくれればいいだけだ。」
レーヴェは、ニヤリと笑みを返した。
頑張って、早いスパンで投稿します。
文章表現に難が多いですが、チョコチョコ修正します。