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第03話「チカラ」





 三方向にばらけながら鎌蜘蛛に走って向かって行っている俺の脳裏に浮かんでいるのは、先程視力が戻るまでしていた会話だ。



――――「さっき呼んでいた通りこの人の名前は七瀬清ななせしんって言うの」



 主力が回復した俺は紹介されると共に、そっちの方を見る。俺よりも長い青い髪をしたあまりやる気のなさそうなやつだ。それが俺が一番最初に抱いた印象だ。

 よく体育教師や生徒指導の教師に注意を受けていそうというような雰囲気を受ける。

「……」

 その人物、七瀬清は特に目立った反応もせずに近くの木にもたれかかっている。俺と同じように人付き合いが苦手なのが極端に現れている奴なんだろう。

「知り合いってことは、七瀬も能力者なのか?」

 実際この時間帯にグラウンドにいると言うことは能力者であることを肯定しているようなものなのだが、俺は一応聞いてみる。

「七瀬くんも能力者よ。でも私や榊原くんみたいな超能力者じゃなくて獣化力者じゅうかりょくしゃっていうのだけどね」

 獣化力者というまた知らないような名称が出てくる。名前からして動物に関係するような能力というのは解るが……。

「獣化力っていうのは体を動物に変化させる能力のことなの。さっき榊原くんを助けた鳥も七瀬くんが変化した姿なのよ」

 聞いてみると解ることだが、獣化力者と超能力者の違いなんてあんまりないように感じる。目立った違いは体が変化するか変化しないかぐらいのものだ。

「じゃあさっきの光が出たやつはなんなんだ?」

「榊原くんはスタングレネードって知ってる?」

「一応知ってはいるが、さっきのはちょっと違うだろ?」

 スタングレネードっていうのは暴徒鎮圧用などに使われる手榴弾の一種で、音と光で感覚を狂わしてから一気に制圧するという代物だったはずだ。訓練用に音だけ出るというものは知っているが、光だけというのは聞いたことはない。

「対妖用に光の出力を上げている特別製なの」

 一応妖にしか聞こえないような音も出してるって話だけどね、と俺に補足説明をしてくる。

「……とりあえずどうするんだ?」

「とりあえずは私と榊原くんで撹乱してから七瀬くんに決めてもらうっていう作戦で行きたいんだけど……」

 作戦と言うよりかは出たとこ勝負のようだ。……よく今まで生き残ってたなこいつら。

 しかしこの作戦には不安要素しかないような気がする。

「紅葉、俺があの時発動させた能力なんて火事場のバカ力みたいなもんなんだぞ? そう都合よく発動するかも分からないし、紅葉の能力じゃあどうなるかも……」

 しかし俺のそんな心配するような言葉を気にしていないのか紅葉は俺の言葉を遮る。

「問題ないわよ。これまでがそれで何とかなってたのだから。それじゃあ行くわよ」――――



 思い出すと無性に頭が痛くなってくる。こんな作戦でこれまでが上手くいっていたというのだから先が思いやられる。まぁ能力の使い方もうまくいっていない俺がそんなことを言っても意味が無いのだが……。

 俺と紅葉はほぼ同時に鎌蜘蛛の前に飛び出るという形になる。七瀬がここに居ないのはより確実に一撃を入れるためだ。

 まず一番に優先するべきことは死なないこと。その次にこいつを倒すことだ。能力の使い方がほとんど分かっていない俺は紅葉のじゃまにならないように鎌を上手く避けながら立ちまわる。

 十字に振り回される鎌を俺は奴の方に飛び込むことで避ける。コイツの体によって吹き飛ばされる危険性があるが鎌で裂かれるよりかはマシだろうという考えから俺は迷わずにヤツの懐に転がりこむ。

 立ち上がる前にふと紅葉の方を見るとうまく自分がやられないように立ち回っている。しかし能力で出した動物は飛びかかると共に裂かれ、飛び掛かれば裂かれとまるで機械のような作業が淡々とこなされている。

 このままでは紅葉が追い込まれていくということはその時点でも歴然としていた。

 さながら蝿を追い払う人のように鎌を振り回す奴に対し俺は事前に渡されていた小型の改良スタングレネードを投げつける。



 ピカッ 



 とさっきよりも小さい光の爆発が起こり辺が一瞬だが見えるようになる。自分が思っていたよりも被害は大きく当たりの木は刈り倒され、地面は所々えぐれている。

 予想以上の周りへの被害に胸を少し痛めつつ、俺は紅葉の方へ走る。

 さっきより小さい光だったため俺たちにとっては丁度良い明かりとなるが、妖である鎌蜘蛛にとっては目潰しと同等の効果を得ることが出来る。

 そしてその時に出来た大きな隙に、七瀬が一撃を加える。

 綺麗に一撃が入り、鎌蜘蛛の破片が飛び散り大きな隙ができる。しかし、ただそれだけ。倒すまでには至らない。

 蜘蛛がモデルといっても妖は妖。その防御能力は高く、甲殻は装甲のように硬いようだ。七瀬のスピードから繰り出される攻撃に対しても、破片が飛び散るだけという状態からそのことがなんとなく予想することが出来る。

 明らかにこちらの火力は足りていない。その事実は火を見るより明らかだった。

 七瀬は壁や木など障害物を蹴った反動を使い、鎌蜘蛛へ攻撃をすこしずつ入れていく。塵も積もればなんとやらというようなことわざがあるが、このままでは七瀬の体力が持たないだろう。

 そして視力を取り戻した鎌蜘蛛は七瀬を鎌の腹で弾き、次に紅葉に向けて鎌を振り下ろす。

 吹き飛ばされた七瀬は勢い良く校舎に激突をしてしまってすぐには動けない状態だ。

 俺は考えるより先に体が紅葉の方へ走り出していた。

 普通に考えればこんなこと自殺行為だ。自分の能力の使い方も理解していないような俺が向かった所で意味なんてないだろう。

 しかし俺は走りだしている。それが目の前で人が死ぬのを見たくないのか、ただ単に湧き出した偽善心からなのかは解らない。だが少なくともこの行動が無意味だと思わないし思いたくもない。

 俺は紅葉と鎌蜘蛛の間に割り込む。それとほぼ同時にあの時と同じ感覚に襲われ、俺の右手には一振りの刀が握られる。こんな状況だというのに不思議と俺の頭の中は冷静に、素早く俺たちが死なないための答えを弾きだす。

 ほぼ無意識的に発動し手に握られた刀を今度は自分の意志で変換させる。


 ”正面から受けるな。滑らせるように受け流せ”。


 脳から半強制的に出される命令に対し最適な形に刀を変換させることで、刀は盾へと変化する。

 結果としてその作戦は功を奏し、鎌蜘蛛の攻撃を防ぐことに成功する。

 しかし真上から出された一撃によって受け流したはずの衝撃は結果として防御に使った左腕に残ることになってしまう。

 勢い良く振り出された鎌が地面に突き刺さっているうちに俺は創りだした刀を鎌蜘蛛に振り続ける。

 しかし、日本刀のような細身のこの刀では切りかかっているこっちのほうが刃こぼれを起こしてしまうほどに装甲が硬い。なおかつこれまで刀など目にすることも殆ど無かったのだ。素人の剣術ではどんなに頑張っても切れはしない。

 そうしているうちに取り出された鎌の攻撃を柔道の受身の容量で地面を転がることで避ける。

 立ち上がろうとした俺に対して襲いかかってきた二発目の鎌での攻撃。

 一度やろうとした行動は、すぐ止まれない。無理をして体を戻しても首は吹き飛ぶだろう。

 俺はそんな状況で目をつぶってしまう。今度こそ死ぬ。そのことを覚悟した上での本能的な防衛行動だろう。

 しかし何かが地面におもいっきり落ちるような音がし、その衝撃で俺は吹き飛ばされる。


 目を開けてみると七瀬が俺の前に立っている。鎌蜘蛛がおもいっきりバランスを崩していることから俺はまた七瀬に救われたのだろう。

 俺は七瀬に目を向けると一瞬でこちらの意思が解ったのか、ほぼ俺と同時に逆方向に走りだす。

 俺は蜘蛛の右方向、七瀬は左方向へと走りだす。刀を作り出し二、三度斬りつけて鎌の攻撃に合わせて後退することで一撃を避ける。

 グラウンドにめり込んでいることから、大体の威力は察することができるが、スピードはそこまで速くない上に動きが単調すぎるためある程度喧嘩慣れした自分には当たりはしない、と高をくくりながらヒットアンドアウェイの戦法を繰り返す。

 問題があるとすれば剣術も何も知らない自分が適当に刀を振るった所で、ほとんどがあいつの堅い装甲に弾き返されてしまい振り抜き切れないということだけ、と無駄なぐらい冷静に考えながら先ほどまでより多めに距離を取る。

 しかし大した問題ではない。自分の能力が作り出す能力なのならば馬鹿正直に刀だけで戦わず他の武器を使えばいいだけの話だ。

 普段喧嘩をしているときにはないような柔軟な発想の転換が瞬時に行われる。右手に握る刀ごと光りに包まれ、刀を次の武器へと変化させる。


「さぁ、戦いは此処からだ」



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