第02話「ウラガワ」
何故夜に集まるのだろう。
その疑問が頭をよぎる。
この学園は全寮制のため、寮のない学校よりかは夜に集まりやすい。
だがそれでも夜に出歩くのは校則では禁止されている。
何故このまま話してくれてもいいものを、わざわざ捕まる可能性のある夜にするのだろう。
そんなことを考えているうちに寮の前につく。
「悠太!」
聞き覚えのある声で、後ろから名前を呼ばれ背中を叩かれる。
普通なら誰か確認するところだが、俺にこんなことをする奴は一人しかいない。
「達也か……」
俺はその言葉の主、朽木達也の方を向く。
さっきまでのこともあり、いつもより冷たい反応にはなっているが。
「テンション低いね……。何かあったの?」
何も無いというと嘘になるが、さっきまでの話は体験したことのある人間にしか解らない話だし、俺の数少ない友人を変なことに巻き込むわけにはいかない。
そう思い俺は、話を適当にはぐらかす。
そして俺は夕食を食べ部屋に戻る。
時計は午後八時十五分を指している。
あたりは完全に暗く闇に包まれている。
俺は今更になって気づいたのだが、あの木の下に夜集まると聞いただけで詳しい時間なんて聞いてない。
どうするか……。
そう思っていると、何かが窓に当たる音がする。
何の音だ?
そう思い俺は閉まっているカーテンを少しだけ開ける。
そこには鳥の形をした紙がくちばしで窓を叩いていた。
こんなことが出来るのはあいつしかいないよな……。
俺はそのまま窓をあける。
そうすると、よほど勢いがついていたのかその鳥はそのまま勢い良く部屋の中に入ってくる。
俺の方に迷いなく突っ込んできた鳥を避けようとすると、その鳥はいきなり紙に戻る。
その紙には女子の字で、
「八時半木の下に集合」
とだけ書いてあった。
今の出来事で、時間は八時二十分を越えている。
急がないと……。
俺はまだ制服のまま着替えていなかったため、そのまま急いで部屋を出る。
俺の部屋は一回の一番奥。玄関には遠い場所にある。
全力でこのまま走っても間に合わないんじゃないか?
そんな疑問はあるが、それでも俺は全力で走って集合場所に向かう。
木の下に着くまでに、人に一人も会わなかったことが奇跡のようだ……。
よく全力では、走っているので慣れてはいるが誰かに見つかってはいけないという緊張感の中ではいつもより無駄に疲れる。
ハァハァハァ
俺は集合場所についたときにはもうすでに息が荒くなっている。
木に手を当てて、体を支え深呼吸をして息を整える。
「あら、案外早かったじゃない」
「お前わざとあの時間に送ったんじゃないだろうな……」
わざとらしく紅葉が言っている思えたため、俺の口からそんな言葉が漏れていた。
「たしか色々とあなたに話さないといけないのよね」
「ああ、頼むよ」
この女はやっと話す気になったのか……。
「じゃあ順を追って説明するわね。まずは能力のこと。まず私やあなたが使う能力は異能力って言う、まあ地球上のあらゆる原理を無視した能力のことを言うの。その中でも、私たちが使う能力は超能力と呼ばれるものなの。能力の名前は他にもあるけど今はこれだけでもいいわよね?」
「ああ、どうせ一気に言われても理解出来ないだろうしな」
超能力、聞いたことぐらいはあるが、俺はスプーン曲げやテレパシーなんてものは一切出来やしないんだがな……。
「まず超能力っていうものは、自分のエネルギーと自然のエネルギーをあわせてものを作り出したり、物をまとったりする能力なの」
「いや、悪いもうすでに良く解らん……」
超能力と聞いて簡単な説明かと思っていたら、一発目からよく解らない説明が来た……。
「どこら辺が解らないの?」
紅葉はもっともなことを聞いてくる。
全部がよくわかってないんだがな……。特に今の自分の存在とか。俺、本当に地球人なのかな……。
だが全部を聞いていると長くなりそうなので、本当によく解らないところだけを聞いておく。
「まず、そのエネルギーがなんたらってのはなんなんだ?」
「これはあんまりきにしなくてもいいのよ。私が言った素質がこのエネルギーのことを言ってるの。それにあなたはもう能力が使えるからそこら辺のことは、へ~そうなんだ。ぐらいに流していいわよ」
そんな適当でいいのか……。
疑問は残るがまあ、紅葉がいいと言っているならいいのだろう。
「で続きなんだけど。超能力はさっき言った通り作り出すとかまでの能力ばかりだから攻撃は本人がする必要があるの。だからそのへんは格闘センスとか本人の実力とかによるわね」
「だが紅葉。お前の能力は確か自分の意志で動いたりしていたはずだが?」
確か紅葉の場合は紙の動物が戦っていて本人は戦っていなかったはずだ。
「何にだって例外はあるものよ。それに私の能力は紙に命を吹き込む能力が本質なの」
だんだん紅葉の言っている超能力の意味が分かってきたような気がする。
……気のせいかもしれないが。
「で私は超能力者主体の異能力者団体の黒の教団に所属しているの。唐突で悪いんだけどあなたうちに入ってくれない?」
本当にコイツはなんでも唐突に言う奴だな……。
「具体的に何をするんだ? その団体での仕事は」
「仕事はいたって簡単よ。夜この学園に集まってくる妖を退治するの。そういえば、この学校の裏に神社があることを知ってる?」
学園の裏に神社があったなんて初めて知った……。
「もうだれもいない神社なんだけどね。憑神って言うその土地とかに着く位の高い妖が、その場所に他の妖を寄せ着けちゃうの。普通妖は昼間は動けないし力も使えないの。でも憑神だけは昼間でも動くことが出来るの」
「じゃあその憑神ってのをぶっ飛ばすのはいけないのか?」
紅葉は少し苦笑して俺の質問に答える。
「出来る人はいないことはないけど、それでもごく少数の人間だけなの。それに妖でも神様は神様だから居なくなってしまったらその土地に加護とかがなくなっちゃうの」
はた迷惑な神様だな……。
「それで私たちの仕事は周りに集まってくる妖をかること。あんまり憑神の居る土地に居と力を蓄えて危険になっちゃうから弱いうちに私たちが狩るの」
狩るって……。結構恐ろしいことをさらっといったなこの女……。
それだけこう言うことには慣れているということか。
「それで次はあなたの能力の説明ね。あなたの能力は「創造」(メイク)。空気から道具を作り出す能力って聞いたわ」
聞いたという単語から察するにさっき言った団体の黒のなんたらの誰かに聞いたのだろう。
「……創造ねぇ……」
出来ればその話を最初から聞きたかった。
だが、実際に目にした今の俺だから信じられる話であってそれを見ていない俺だったら絶対に信じられなかっただろう。
「ちなみに私の能力は「紙造形」(ペーパークラフト)って言う名称で能力はさっき言った通り紙に命を吹きこんで生き物に変える能力なの」
聞いてもいないのに自分の能力の説明までしてくる。
このフレンドーリーな感じが最初に欲しかった……。
紅葉が自分の腕時計を見る。
俺も時間を確認しようと右腕を見るが急いで部屋を出てきたため俺の右腕にいつもの腕時計はない。
仕方なく校舎についている時計を見ようとするが、空は暗く既にもう時計は見えない。
「このあたりは特に闇が深いから時計は見えないわよ。今は九時二十分そろそろお出ましの時間かしらね」
そう紅葉が言った瞬間を測ったかのように何かが飛び出す。
……あれはでかい蜘蛛か?
飛び出してきたのは蜘蛛のような八本の足が付いている昆虫のような生き物だ。
「あれが……妖か?」
「そうよあれが妖。悪霊がやんだものだけど、無能力者にも見えるし物理的な攻撃も効くわよ。あの妖の名前は「鎌蜘蛛」(かまぐも)っていう名前よ」
普通蜘蛛は外層が柔らかく簡単に潰れるような昆虫だがあの鎌蜘蛛は明らかに表面が硬くなっており前の二本の足は大きな鎌になっている。
「ああいう斬るとかの攻撃してくる妖、苦手なのよね……」
たしかに紅葉の能力では一撃で粉砕されてしまうだろう。
鎌蜘蛛は周りを伺った後、こっちに気づいたのかこっちに向かってくる。そして鎌を振り回し斬りかかってくる。
「うわっ」
とっさのことに俺は前方に回転し、攻撃が当たらないように転がる。
その攻撃は俺を狙っていたためその攻撃は誰にも当たらない。
だがその攻撃は手前の木に当たりそれは一刀両断される。
攻撃力と切れ味は半端じゃないな……。
そう思ってると、
「紙造形、狼」
そう言いノーマークになっていた紅葉が能力を発動させる。
俺が初めて合った時に襲われた犬よりも一回り大きい言葉通りの狼だ。
その狼は鎌蜘蛛に噛み付くがまるでダメージが無いかのようにそのことを気にしていない。
俺は何をすればいいんだ? 自分に超能力が宿っていることが分かったとしても、それの使い方は俺自身がいまいち分かっていない。習うより慣れろとはよく言われるがこんな判断一つで命が簡単になくなるような実践では試して見ることすら命取りになるだろう。
しかし、そんなことなど考えずにがむしゃらに動いていることが今回の正解だったらしい。
俺の真上にはヤツの鎌が迫っていた。
――避けろ――
普段なら反射的に体が動くような鋭い一撃。しかし次の行動を迷っていた俺は防御の姿勢を取ることすら出来ない。
こんな所で死ぬのか? そんなことを思いながら俺は目を瞑りながら次の一撃を待ってる。しかし、次の一撃が俺に当たることはなかった。
次の瞬間俺は空を飛んでいた。より精密に言うならば大柄な鳥に掴まれて空にいる。
あまりの驚きに思考がうまくまとまらず声すら出ない。
いきなりのことだったが、俺は紅葉の方を見る。しかし紅葉は俺の方を見た後意味深に頷き、鎌蜘蛛の近くに何かを投げた。
「……目をつぶれ!」
誰が入ったのかも確認する暇もないがどこからかそんな声が聞こえる。
何故? と疑問にする時間が無駄だったのだろう。俺は次の瞬間、強烈な光に視界を奪われていた。
「……目は見えるか?」
足が地に着く感覚と共に誰だか解らない声で質問が投げかけられる。
「お前は誰だ?」
「……その質問をするってことはまだ目は見えてないね」
妙にため息混じりの返事が返ってくる。俺自身は特に返事をしているつもりはなかったのだが……。
何故かこの頃、自分勝手に納得するような奴と接点が多いような気がする。普段の行いが悪いわけではないと思うが……。
「七瀬くん、大丈夫だった?」
今度は聞いたことがあるような声が聞こえてくる。この声は紅葉だろうか?
「……こっちは問題ない。だけどこっちのは直接食らったみたいだよ」
七瀬と呼ばれた男は、紅葉と知り合いのようだが俺とのやり取りと同じような感覚で返事をしている。
「……どうだった?」
「どうだろう……少なくとも私では倒すことどころか傷つけるのも無理そうってところかな?」
二人して主語の抜けた会話をしている。多分話してることは先刻の鎌蜘蛛の事だというのはなんとなくつかめた。
少しの間話しながら待っていると俺の視力もだんだんと戻ってきてちゃんと見えるようになってくる。
「じゃあ、さっき行った通り動いてね」
「……」 「……分かった」
そして俺たちは紅葉の言葉と共にもう一度鎌蜘蛛に向かって走りだした。