第2話 一日目と名簿と少年少女
今回は二つの視点で展開します。
「ホントに当たったよ」
「まさか本当に来るとはな」
「時期的にも珍しいことですよね~」
午前の授業が終了し、今は絶賛昼食中である。
ちなみにセリフは上から穂坂、上城、真中となっている。
朝のHR直前、転入生疑惑を馬鹿馬鹿しいと一蹴したのに本当に転入生が来たというイベント発生中であった。
ちなみに東野、野村の姿はここにはない。好奇心旺盛な猫のごとく転入生の周りで騒いでいるクラスメイトに混じって質問しようと頑張っているところだろう。
「でも穂坂君って転入生に質問しようとしないんですね、意外です」
「いやあそこに行っても質問なんできるわけねーだろうよ」
「確かにな」
さらに言ってしまうとこの三人を除く全てのクラスメイトが転入生の周りに居るため、周りは静かだった。
なんでこんな状態になっているかというと、転入生であるのと同時に、超がつくほどの美少女だったからだ。
ただの転入生だったのならまだしも、美少女転入生とあらば男子はもちろん女子も興味を持つ。
しかし三人はのんびりと昼食をとっていた。転入生にあまり興味がなさそうな態度で、ゆるゆると箸を動かしている。
「それでさ上城、俺昨日スーパーで三本で30円のキュウリ売ってたの見たんだよ。でも特に使う予定なかったから買わなかった」
「じゃあ今なんで言ったんだよ」
「なんとなく」
「あっそ」
この二人は青春真っ盛りなのになんでこんな会話の内容が高校生っぽくないんだろう、と密かに真中は思う。なんか嫌なことでもあったのだろうか。
「ところでさ、真中はいいのか? あそこに行かなくて」
「なんでですか?」
「いや、興味ありそうだからさ、こんなイベントには特に」
話を振られた真中はほんの少し考えるような素振りを見せると、やわらかく微笑んで言った。
「だって、面倒じゃないですか」
それはそんな笑顔で言う台詞じゃねぇ、と二人は思ったが、口にしなかったのは一種の思いやりのようなものがあったからだろう。
のんびりとしているのに、どこか変わっている昼休みの時間が過ぎていく。
日が暮れる直前の人通りの少ない道。そこに、一つの影があった。
「はぁ……」
ぐったりと疲れた様子で溜め息をつく少女、白河有希。
最近この地域に引っ越してきて、今日、学校に転入生としてやってきた。
あまりにも不自然な転入だから何かしら質問は来るだろうと思ってはいたのだが、心配していたような質問はあまり無かったのだが、
(た、体重とか聞かれたときはちょっとびっくりしちゃったかな……)
主な質問は誕生日の日付や好きな食べ物とかだったのだが、いきなり体重やらスリーサイズやら聞かれたときは驚いた。答えあぐねて黙っていたら野村という女の子がその男子を殴り飛ばしていたが。
「ふう」
肺にたまった息を押し出すようにして息を吐く。鞄から明るく彩られたクラスの名簿(クラスメイトの写真付き)を取り出し見つめる。
「やっぱり、違うのかな」
続けて制服のポケットを探り、黄色いストラップを取り出す。縁が銀色のイニシャルのストラップ。そのイニシャルは少女のものではない。
「……なんで、来ちゃったのかな」
掌に転がる小さなストラップを見つめると、どうしてなのか無性に泣きたくなってきた。
私は、本来ならここに居ることはありえないのに。
なんで、ここに逃げてきたのだろう。
どうして、ここを選んでしまったのだろうか。
昔の思い出にすがって、逃げる理由を正当化して。
自分の弱さから目を背け、止める声すら振り払って。
でも、もしも、
「もしも、さ」
もしも、私がもっと強くあったら。
他の人たちにも迷惑かけたりもしなかったのかな。
名簿とストラップを鞄に仕舞って、少女は歩きだした。
小さな背中に背負いきれない秘密と嘘を引きずりながら。