第19話 話し合いと3人と少年少女
このたびは更新が非常に遅れてしまって申し訳ございません! 実は体育祭の練習等で忙しく更新ができなくて……本当に申し訳ございません!
実を言うと、これから先更に更新が遅くなってくると思います。なぜならばテストがあるからです。ちくしょうふざけんな体育祭の次はテストかよーっ!! とか思ってはいるのですが………社会の成績がすこぶる悪いので勉強しなくてはいけませんので………本当にすいません!テストが終わり次第さっさと更新するようにしますので、暫しお待ちください。
これからも『嘘と秘密と少年少女』をよろしくお願いします!
「まあ、互いに気まずいのは分かるのですが………」
白河妹こと白河夏希は、呆れたように溜息を吐いて、
「………席を離して思いっきり睨みあうのはやめていただけませんか…………?」
あの少年が喫茶店に訪問してから5分ほど経っているが、二人はコミュニケーションを取ろうという考えは一切ないらしく、席を離したまま睨みあっている。
迅人はテーブルに肘をつき警戒の視線を投げ続け、少年の方も腕を組んだまま訝しげな視線を向けている。
白河妹を挟んで、二人の少年の間に不可視の火花が飛び散っている。
間に挟まれている夏希からしてみれば本当に迷惑極まりない。
「もう………ともかくお二人とも、まずは自己紹介でもしたらどうなんですか?」
ともかく無理矢理にでも話題を作ろうとしたのだが、もう二人して完全完璧にスルーしている。
(こ、これは怒っていいのでしょうか? 怒ってしかるべきですよね怒るのが妥当ですよね怒るべきですよねぇこれ!?)
空気を変えようとして一生懸命ひねり出した策を木っ端微塵に砕かれ怒りに震える夏希。喫茶店にはただギスギスとした気まずい雰囲気が漂っている。(敵意むき出しなのが一人、不信感露なのが一人、静かに怒っているのが一人。)
と、そこで夏希の携帯がぶるぶると振動した。
携帯を取り出して未だ睨みあう二人を一瞥した夏希は、携帯に向けて一言二言告げると通話を切った。
「………お二人とも。本格的にまずい事態になってきていますので、もうさっさと話を進めてしまいます」
自らの座るテーブルに二人を引きずって着席させると(二人してちょっとは抵抗していたのだが、夏希の予想以上の腕力に結局は屈することになった)茶封筒を開いた。
そこから二枚の地図を取り出し、一枚づつ二人に手渡した。よく見るとこの近辺の地図で、使われなくなった廃工場に赤いバツ印が付けてあった。
「ではまずお二人の自己紹介からお願いします。正直時間的な余裕は一切ないのでちゃっちゃと済ませてください」
そう淡々と告げる彼女にふざけたような態度は一切ない。むしろ『さっさとしろこの愚図野郎ども』と言うような視線が彼女が相当焦っていることを物語っている。
ちなみに、渡した地図についてはスルーらしい。迅人が地図についての説明を求めようとしたら、目が合ったところで思いっきり睨まれた。人を殺せそうな視線だったところがなんとも恐ろしい。というか何でこんなに豹変してんのこの人、と迅人は一瞬思った。
(ヤバい、今のはヤバい。今の視線はホントヤバい。死ねる。気が弱い奴だったら軽く死ねる)
そんな事をちらりと考えた後、視線を感じて目をやると自己紹介さえしていない少年と目があった。
少年は一瞬戸惑うような顔をしたが、心の底から嫌そうに口を開いた。
「…………………杉原慧。高1だ」
「……………」
『さっさとしろ』と言うような視線が迅人に向けられた。
「………穂坂迅人。同じく高1」
嫌々言うと、杉原と名乗った少年と再度目があった。
暗めの茶髪は地毛なのだろうか、染めているような感じはしない。中性的な顔立ち、という訳ではないのだが、どこか細い感じがする。
と、二人はじっとお互いを観察していたのに気付いて慌てて目を反らした。
「さて、では早速始めますわよ。質問感想文句等は最後にまとめて言っちゃってください」
ここでようやく笑みを見せた彼女は、渡した地図と同じものを広げてとても簡潔に説明した。
赤い印を指差して、本当に本当に簡単にこう言った。
「来週、ここで“奴ら”の会合が開かれるそうなので、お二人にはそこを叩いてもらいます。まとめて」
言うだけ言って、彼女は帰る準備を始めた。
「いや待ったちょっと待ったホントに頼むから待って下さい! 説明所々端折りすぎ!! っつーかいきなり叩くとか言われても分かんないし!」
「え?」
「いや『え?』じゃなくてさ! もーちょっと詳しく説明してくれない?!」
「………………えー?」
会話のシリアス成分がショートコント並みに皆無になっている現場。シリアスにならないといけない場面なのに新米芸人のコントより面白くないとしか評価できないのが切ない。
「冗談ですよ。…………冗談ですよ」
「いや全然冗談に見えなかった」
なんだか顔の半分くらいに影が差している夏希だったが。先程から全く口を開かなかった杉原が、ようやく口を開いて言った。
「そもそも、なんで僕と彼なんだ? 警察には任せられないのは分かるが、白河君の方から動くことはできないのか?」
「あれ? そもそも何で警察に連絡しないんだ?」
話が始まりそうだったのにナイスタイミングで話の腰をへし折った迅人。話が全然進まない。
見事に会話のキャッチボールをストップさせた迅人に困ったように微笑みかけながら、夏希は席に着き頬杖をついた。
「まあまずはそこからですね。何故警察に頼らないのか、ということですがこれは意外と簡単なことです」
というかなにか飲み物が欲しいですね、と言ったが、それはどうしようもないので二人とも無視した。
「まず第一に。奴らが考え、実行しているのは犯罪まがいの……というかもろ犯罪です。ですから権力を行使して不良を雇っている………ようなものです。まあ、こんなことで『雇っている』などというのは全ての社会人に失礼かもしれませんがね」
「ふむふむ」
「それで例えば、私達のような立場の人間が実力行使に出れば大事になるのは間違い無しです。本当です。それだけは間違いありません」
「む? ………ああいや、何でもない」
「続けますね。では、大事になったところで、『そんなことはしていない』、『私達は関係ない』と言われればどうなるでしょうか?」
「…………ああ、そういうことか」
「ええ。ある程度の口封じをしておけば関係者から情報が漏れることは無いでしょうし、やってないと言われたらそれまでです。むしろ、こちら側が訴えられる危険もあるわけです」
「そうだったのか………」
むー、と微妙に納得いかなさそうな顔をする迅人だが、夏希はどこか申し訳なさそうに言った。
「本当はお二人を巻き込むのは気が引けるのですが……どうしようもないというのが事実です。こちらだけで解決できたらよかったのですが………」
「いや、別にいいんだけどさ」
「へ?」
あまりにもあっさりとした反応に間抜けな声を上げる夏希。それに対して迅人は本当に何でもないかのように言った。
「別にそんな迷惑じゃねえよ。確かに問題のスケールは大きい方だけど、今まで俺がやってきたことと大して変りはねえしな」
「………?」
「………そう、ですか」
呆れと安堵が混ざったような微笑みを浮かべ、夏希は表情を引き締める。意味が分かっていない杉原を完全に放置して立ち上がる。封筒から2枚の紙を取り出して二人に手渡す。
「それでは詳細はこちらに書いてありますので。当日はなるべく目立たないような服装でお越しください」
「りょーかい」
「ああ」
「それでは、解散」
迅人は喫茶店から去っていった少女を見送り、それから一応電源を切っていた携帯を開いて時間を見る。
「げっ!?」
午後7時30分。PM7:30。不在着信7件。7件の番号は全て見知ったものだった。というか全部同じものだった。とある医師の家主の女性のものだ。
Q・この携帯の画面から読み取れることは何でしょうか?
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい)
底知れない悪寒に襲われてると、携帯が愉快なまでにに地味な着信音を垂れ流し始めた。
しかしそれは彼にとって恐怖でしかない。
震える手でゆっくりと携帯を操作し電話に出る。
三城院響。またの名を天国の門番。食欲に従順な女性なのに全然太らない脅威の女性。
『………迅人、貴様は、いま、何時だと思っている?』
「し、7時30分………ですよ、ね?」
怒りを含んでいる声に心の底から怯えながらなんとか返事をする。顔面蒼白なうえに冷や汗もセットという異常事態だ。
『……分かっているならさっさと帰ってこい。今日は別に何でもいいぞ』
「へ………?」
何か言おうと思った時にはすでに通話を切られていた。何でもいいとはもちろん夕食のことだろう。
だが、いつもと違っていた。こんなことがあればいつもは『早く帰って来いこのバカ者! ちなみに今日はカレーがいい!』などと叫んで切るのが普通だったのだが………。
「???」
まあいいや帰るかとか思ったところで、まだ残っていた杉原に声を掛けられる。
人気のない喫茶店で繰り返される問答は、両者に何も与えなかった。
一人が問い、一人が受け流す。そんな会話に意味は無いと見切った問う側の一人は、納得できない様子で帰っていった。
答える側の一人は最後にこう締めくくる。
「……………俺だって、普通でありたかったさ」