第0話 道を行く少女と残される少女
夕焼けの都市。赤く染まる街並みの片隅には、二人の少女が佇んでいた。
少女達は姉妹で、身長と髪型とそれぞれが持つ雰囲気以外は全くと言っていいほど同じだった。
二人の間にある雰囲気は、お世辞にも穏やかとは言えなかった。
背の低い、妹の少女は自らの通う中学校の制服に身を包み、肩まで伸ばした黒髪を二つ結びにしていた。
その可愛らしい顔は驚きの一色に染められていて、赤く染まる街の中でも、その顔色は青白くなっていた。
もう一人の、背の高い姉の少女は入学したばかりの高校の制服に身を包み、腰の辺りまでまっすぐ伸ばした黒髪を風になびかせていた。
妹の少女は震える唇で、言葉を紡ぎだす。
「あ、ありえませんわ。なんでそのようなことを……。それ以前に、なぜ、どうして今の今まで私に黙っていたのですか!!」
少女の叫びには、驚き、焦り、ほんの少しだけの憤りがあった。
「それは、貴女が私を止めると思っていたからなの」
「ッ………!!」
その言葉は、確かに的を射ていて。妹の少女は黙り込む。
くやしい。
妹の少女は、その言葉が完璧に当たっていたことが、くやしい。
その言葉に対して言い返せないことが、くやしい。
「大丈夫。一人でもやっていけるから、心配しないで」
その言葉で妹の少女は、知った。
自分に姉を止められないことを、知った。
安心させるような言葉の中には、確固たる決意があって、抱えきれない不安があって。それでも絶対に揺らがないとまた更に決意していた。
「大丈夫だから。休みの日とかにもまた、帰ってくるから」
優しく包まれるように抱かれて、妹の少女は泣き出しそうになった。居なくなる。居なくなってしまう。
「泣かないで、夏希。行き辛くなっちゃうでしょう」
おどけるような声で言う姉に、夏希は、妹の少女は、弱弱しく答える。
「そんなの……そんなの、無理に決まっているじゃないですか」
姉の少女は、大丈夫よ、と言って。
「すぐに、戻ってくるから」
その言葉が後々厄介なことになるなんて、誰も予測できなかった。