第15話 携帯と連絡と少年少女
「……………………どういう意味だよ」
「そのままの意味です」
「『この地域にいる中高生の不良たちがお姉さまを狙う日が来る』と言われて信じられると思うか?」
「信じるか信じないかは自由ですが正確な情報ですよ。貴方もよく知っている方と協力して得た情報ですので」
「………」
穂坂迅人のよく知っている人物、と言われる意外と限られてくる(友達が少ないともいう)。
その上正確な情報を手に入れることのできる人物というと……。
(……いや、それはないか。いやあるか)
それより今は説明を求めるべきだ、と穂坂は考える。
「どうしてそんなことになってんだ?」
「まあ、一から十まで説明すると長くなりますが、よろしいですか?」
「構わない」
では、人間関係の上での摩擦については話しましたね。と前置きをしてから、白河夏希は説明を始めた。
夏希の話をまとめると、白河有希の地位(夏希は立ち位置と言っていたが)を妬んだ連中が彼女に嫌がらせをするグループがいるらしい。
「だからお姉さまはここに引っ越してきたのです」
「なるほどな。(いじめ……ってやつか、わかりにくいな)」
「ですがやつらもしつこく嗅ぎまわっていたようで……。結局ここがばれてしまいました」
「……いや、嗅ぎまわるって……一体どんな手使って調べたんだよ」
「…………知らない方が幸せであると私は思います……………」
一度そこで、会話が途切れた。ほんの少しだけ、両者が沈黙する。
「で、なんでそれを俺に言うんだ。何のために俺に話すんだ?」
「協力してもらうためです」
「………………協力?」
「ええ」
少女が、お嬢様である少女が。ただの高校生なはずの少年に向かって言った。
「東ヶ原中学の伝説、死の伝説の一人である、貴方に」
沈黙が再び訪れた。その沈黙は考えるための沈黙か、それとも受け止められない現実に言葉が出ないのか。
観念するかのように少年が口を開いた。
「そこまでバレてんのか。すごいな、アレはあの人が情報を隠蔽してんだぞ」
「その方にもご協力していただいたんですよ」
「そっか」
力なく笑う。
「で、何に協力しろって言うんだ」
「いえ、今は特に何も」
「……………は?」
「やつらが何かしらの行動にでれば、また連絡します。というわけで携帯を出して下さい」
「……………あのさ、思ったんだけど」
「なんでしょう?」
「いや、やっぱりいい」
結論を急ぐのか前置きを長くするのかわかんねーなオイ、と思ったが言わないでおく。
ごそごそとポケットを探り、まだ新しい携帯電話を手渡す。
少女は携帯を受け取ると、観察するように見つめている。
「そんなストラップ一つもない携帯見ても面白いことは起きないぞ?」
「いえ。ですが貴方、結構不用心ですね」
「?」
「普通こんなことがあっても言う通りにはしないですよ?」
「ああ、そういうことか」
「詐欺とかそういう可能性は考慮していませんの?」
「はは、こんな凝った詐欺考える奴いないだろ」
それもそうですね、と少しだけ笑った夏希は二つの携帯を少し操作すると、満足そうな顔で穂坂に返却した。
「それでは、情報が入り次第また連絡いたしますので。………あと、それからこの件は誰にも口外しないように」
「ああ、じゃーな」
くるりとターンして優雅に去っていく少女を少しだけ目で追うと、自分も帰るために席を立った。
「さて、帰るか」
何事もなかったかのようにつぶやき、人気のない喫茶店を後にする。
帰ったら帰ったで空腹の家主に怒られるのはまだ気付いていなかった。