第13話 拳銃と日常と少年少女
突き付けられた拳銃。それを握っているのは黒髪ツインテールの少女。背が低く、穂坂の胸の辺りに顔がある。幼さを感じさせる可愛らしい顔には挑発するような微笑みが浮かんでいるのに、どうしてだか虚しさを感じる。
それでもいつ爆発するかわからない銃口を向けられている、ということは間違った選択をしてしまったら頭に風穴が開くことになる。
「穂坂迅人さんですね? 無駄な抵抗はせず、こちらの指示を聞いていただけますか?」
聞かなければどうなるかなんて、その場の誰もが理解できる。とは言っても、この道にはまだ夕方であるにもかかわらず、少女と穂坂迅人だけしかいなかった。
完全なる異常事態だった。しかし少年は一言も発しない。
「こちらも手荒なまねはしたくありません。少しだけ、話を聞いてもらうだけでもいいんです」
「………何の用だ」
突き放すような口調で、怪訝な眼差しを向ける。
「少しだけ、話をしてもらうだけです。それに、貴方にとって無関係な話じゃありませんの」
丁寧な口調で告げる少女。その手には銃が握られているが、穂坂迅人は別のことが気になっていた。
(……似てる。誰かに似てる。絶対誰かに似てる………けど誰に似てるかわからねえ)
なんだか今の状況を放棄(現実逃避)しているように見える。
だが、そんな疑問を断ち切るように少女に話しかける。
「話をするだけ……? それにしてはずいぶん物騒なもの持ってるな」
「困ったときの対応策…とでも言っておきましょう。それで、話を聞いていただけますか?」
「いや、まだ話を聞こうとは思わねえな。大体お前が誰で、なんで俺に話をするのか、それが分からないうちは話を聞くわけにはいかない」
はっきりと言い放つ。その瞳に恐怖はない。それを見た少女の方が面喰ったようで、きょとんとしたまま黙りこんでしまった。
「………っふ」
突然笑みを浮かべた少女に、穂坂は訝しげな視線を向けた。
少女はゆっくりとした動作で拳銃を仕舞うと、優雅に微笑んだ。
「事情を説明するには、この場所は向いていません」
「だったら俺は帰らせてもらう。別に用があるってわけでもないが、帰らないとまずいんでな」
踵を返して家路に就こうとする。しかし、それは少女の言葉によって強引に止められた。
「……死の伝説」
ピタリ、と足が止まる。振り返ると少女は柔らかく微笑みながら「話を聞く気になりました?」と言った。
「………はっ」
小さく笑って、完全に少女の方へ向き直る。
「話とやらを聞こうじゃないか。そこまで気付いてんなら普通の学生だなんて言っても無意味だろうしな」
少女は笑って「こちらです」と言い残し歩いていく。穂坂は携帯を開き『今日は少し遅くなる』と家主にメールを送った。
少年の日常が崩れるまで、あと一日もない。