第9話 伝説と結論と少年少女
「そりゃ俺だってこの近くに住んでんだから東ヶ原に居たとしてもいいだろうが」
至極尤もな意見だが、その程度でこの空気は元に戻らない。京太郎と蓮は目を見開いて絶句しているし、龍華はいつもの笑顔が完全に崩れて驚きを隠せないというような状態だった。
「まあ二、三年くらい前はね、東中にも不良は居たんだけど」
「ちょっと待とう! ちょっと待とうかな我が妹、てか質問したのお前だろうが何勝手に先進めてんの?!」
当然の疑問を思いっきりぶつけてくる兄を完璧に無視して舞は続ける。
「けれど、まあ、なんて言うかナ……それらを抑える存在が居たって、言えばいいのかな?」
「どういうことなんですか?」
完璧に無視されて凹んでいる京太郎と、意味が全くわかっていない蓮と、不機嫌そうに黙りこむ上城。
この3人に構っていたら進まないと思った賢明な龍華は先を促す。
「おねーさんは東中の死の伝説って知ってる?」
「きる・・・れじぇんど? いいえ、わからないですね…」
聞いたことのない不吉な名詞。ただ、会話の流れと単語の響きから、ある程度は想像できる。
「奇禍憑依、 終わりを告げる破壊者、 沈黙地獄、 無尽蔵、 血濡れた狂犬、 空白無明、 歌う没落、 武装定理。その8人の総称が死の伝説。目をつけられたら殺される。手を出したなら叩き潰される。待っているのは屍だけの、最悪の8人」
「…………………………………」
あまりにも壮絶で、実感の湧かない3人。しかし、上城勇人だけが、顔色一つ変えずに沈黙を貫いている。
「まあ、私は聞いたことを話しているだけだからちょっと大袈裟になってるかもしれないね」
とりあえず結論としては、と沈黙する4人に告げる舞。
「なんだか最近中高生とかのカツアゲとかがあるみたいだから気をつけてね、っていう忠告なんだよ」
その場に居る全員がずっこけたのは言うまでもない。じゃあ何のために話してたんだというツッコミが通じないのは、京太郎や蓮はもちろん、短い時間見ていただけの龍華や勇人も分かっていた。
だが、この話が身近なことであることを自覚することはまだもう少し後の話だ。