崩壊
翌日、二人はモーターパーク鈴鹿にいた。
「げぇ!タイム負けてるし。」
麻生は走行終了後に配布されるタイム計測の表を見て愕然とした。
「51,32秒か。まだまだ削れるなぁ。」
加野は麻生を無視して呟いた。
「やっぱVTECだ!VTECに載せ替えちゃる!」
「はいはい。まずはお金を貯めましょうね。」
加野はたんたんと片づけを始めていた。
ふと上を見る。
雲一つ無い晴天だ。
今日は私の勝ちか。
「今日は加野さんの勝ちだな。」
麻生も同じことを考えていたようだ。
「でも、なんだろうな?空はこんなにも青いのに嫌な感じがするんだよ。」
「嫌な感じ?」
「ああ。何か起こりそうな嫌な感じ。こう…違和感を感じないか?」
「違和感って…?別に何も無いじゃない。静かで、綺麗な空。何も無いわよ。」
「…そうか。そうだよな。」
そうして二人は片づけを済ませてモーターパーク鈴鹿を後にした。
名阪国道に乗って大阪へと車を走らせる。
いつもと変わらない景色だ。
夕暮れで交通量の多い名阪国道。
オレンジ色になっていく山々。
俺の杞憂だったみたいだ。
昔から勘がいい方だったから嫌な感じとかがあると本当に嫌なことがあったりした。
俺の勘も鈍ってきたようだ。
時刻は午後5時32分。
日が落ちる前に帰れそうだ。
「バサバサバサバサバサ!!!!」
「うぁ!!」
突如、フロントガラスの視界が真っ黒になる。
その黒はボンネットからルーフまでもの凄い勢いで流れていく。
カラスだ…!
カラスの群がもの凄い勢いで飛んでいく…!
何かから逃げるように…!
一体何から?
動物達は五感が鋭く、人間よりも危機に気づくのが早いと聞いたことがある。
「……あ。」
違和感。
音がしなかった。
モーターパーク鈴鹿で。
なんにも音がしなかった。
いつも聞こえてくる虫や動物達の鳴き声が聞こえなかった。
胃液が大量に放出される。
即座にハザード。ブレーキ。
路肩に駐車。
急げ急げ急げ。
瞳孔が見開く。瞬きするのを体が忘れてる。
カラスがどんどん南の方へ飛んでいく。
車から降りる。
カラスを見る。
我先にと飛んでいくカラス。
加野もアルトワークスを後ろにつけて歩み寄ってきた。
「なにこれ…?」
加野は風で舞う髪の毛を手で押さえながら言った。
「分からない…。」
二人はただ呆然とカラスを見つめるしか無かった。
-ズドン。
最初の衝撃はゆっくりと、静かに来た。
地面が揺れたというよりは自分の体が浮いた感覚だ。
一瞬無重力になった気がした。
加野がふらついたので麻生は加野の肩をしっかりと掴んだ。
二人はどこかを見る訳ではないが、一点を見つめたまま動けなくなった。
-ズズズズズズズズズズ!!!!!
「きゃぁっ!!」