見えない蓋
ある時空を飛んでいるジェット機が空中で爆発した。
空は澄み渡った青空が広がり、気流も激しいものでなく、気圧の急激な変動もなかった。パイロットからのSOS信号も、全くない状態での出来事だった。
関係各社各国はただちに原因究明に取り掛かったが、それは判明しなかった。
なぜなら、事故現場に向かうヘリまでもが謎の爆発を起こしたため、空から現場に向かう事ができなかったからだ。
場所は森深い山であり、空以外で向かうには、徒歩しかなかった。
車で行ければいいのだが、可燃性のガスが何らかの原因で空中を漂っていた場合、車も安全とは言えなかった。
そんな中、空を事故現場に向かう者がいた。使っている移動手段は気球であった。
驚くかもしれないが、ジェット機よりも気球の方が高くまで昇れる。
気球内の空気を温める熱源は太陽光。
この熱で空気を暖め、浮力を与えることができる。気球を移動させる動力は電池だ。これでプロペラを回して移動力を得ていた。しかも太陽発電付きのため、航続距離も稼げるのであった。
気球がジェット機やヘリが爆発した高度に達した時、何かに接触した。
接触と言っても何も無いただの空。こんなに上空で接触なんて、航空機にぶつかるしかあり得ないけれど、当然そのような物は飛んでいない。
空を観察すると、どうやら気球の上の方に、見えない蓋のような物があるようで、それが上昇することを妨げている。
場所を変えて上昇を試みたが、やはり見えない蓋によって妨げられた。
この事はただちに運輸安全委員会および警察に知らされた。
大々的に注意勧告が行われ、この見えない蓋の事は、すぐに世界中に広まった。
国連が、調査を行ったところ、このような現象は他の場所でも発生し、しかもそれは地球を覆いつつあることがわかった。
場当たり的ではあるが、世界の航空機に対して、限界高度の制限が設けられた。それは今までのおよそ半分の5kmとなった。
この処置は様々な悪影響を及ぼした。
空気抵抗が増す事による燃費の悪化と、巡航速度の低下による移動時間の増加。航行高度の引き下げによる乱気流での事故の多発、地上での騒音などだ。
それでも人類は、この移動手段を無くす事などできなかった。
不便な事ばかりが目立つこの空気の蓋は、アートに多少影響を与えた。
この見えない蓋に、絵を描くものが現れたのだ。もちろん気球を使ってではなく複数のドローンを使ってスプレーを噴射し手早く描き上げる。
空がキャンパスになった。
皆は空を見上げる事なく、スマホを覗き込み、それを鑑賞した。
初めの方こそ、皆はその目新しさに興味を惹かれて絵を鑑賞していたが、それが日常になると、次第に注目される事はなくなっていった。
そんなある日ある場所で、長年患っている病気が悪化したため、診てもらっているものがいる。
そのうち治るだろうと放置していたところ、身体中に細菌のようなモノがはびこり、身体を蝕んでいた。
最近に至っては、高熱を出すことも珍しい事ではなくなってきた。
「この細菌を殺すことはできないんですか」
「できないことはないが、君の善玉菌まで巻き添えで殺すことになるぞ」
「この際、構いません。一時的に体が弱っても、この悪玉菌を一掃できるなら我慢します」
「うむ、わかった。係の者が呼ぶまで控え室で待っていてくれ」
控室で待っていると、係のものが顔を出した。
どうやら施術の準備が整ったようだ。
これでこの辛さから解放される。自分の体で誕生したものだから大切にしたかったけれど、我慢にも限度がある。甘い顔をしていればいい気になって…。
そんなこと思っていると、係の者と目があった。
「あ、こちらにどうぞ、地球さんですね」
私は頷いて歩き出した。




