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隣国の王太子に転生したので、婚約破棄された悪役令嬢を口説く予定だったのに

作者: ぺいた
掲載日:2026/06/21

なんでこうなった。


王立学園の卒業パーティー。

王太子であるアラン殿下は、婚約者の公爵令嬢、クラウディア様をエスコートしている。

2人とも、幸せそうに微笑んでいる。


なんでだよ。

婚約破棄はどうなったんだよ。

破棄してくれなきゃ、クラウディア様に声かけられないじゃないかよ。

殿下のお気に入りの男爵令嬢はどこいったんだよ。

誰か教えてくれよー!


◇◇◇


俺がゲームの登場人物に転生したと気づいたのは、この学園に入学した時だった。

「憧れのクラウディア様が、実写化して目の前に!」という感動で前世を思い出したのだ。


「お約束の悪役令嬢」というタイトル名の乙女ゲームは、その名の通り、定番のストーリーだった。


自キャラは身分の低いピンクブロンドの男爵令嬢。普通なら近寄ることもできない、王太子や高位貴族の子息を、なんとかして射止めるのが目的のゲーム。


しかし攻略対象はみんな婚約者がいるので、卑怯な手段を使う。

私物を自分で壊したり、捨てたり、勝手に転んだり池に飛び込んだりするんだが、それを攻略対象の婚約者がやったように見せかけて、同情をひいたり、悪役令嬢に仕立て上げようとしたりする。

その裏工作を、攻略対象に見破られるとゲームオーバー。

いかに見破られずに、目当てのキャラを攻略するかがキモだ。


ストーリーは定番なんだが、自分のキャラがあまりにも卑怯な悪役なので、新鮮だった。

しかしその卑怯な攻撃に対してクラウディアは、常に誇り高くてかっこよかった。

妹のゲームを借りて遊んだだけなのに、自分用のゲーム機とソフト3個(遊び用と飾る用と保存用)を買いそろえたくらい好きになって、クラウディアのセリフと行動を、全部見るまでやり続けた。


そんな俺が、隣国の王太子に生まれ変わったのだ。

あの憧れのクラウディア様と、同じクラスになって、話したりできるのだ。

天国!!


その上、ヒロインが王太子を選べば、クラウディアは婚約破棄されるのだ。

フリーになるのだ!

そしたらそしたら、傷心のクラウディアを隣国に連れていって、結婚することができるかも?


妄想はふくらむばかり。クラウディアが婚約破棄されるのは、ヒロインが王太子を攻略した時だけだ。ここはぜひとも王太子を狙ってほしい。なにがなんでも。


そう思って、ヒロインが王太子を狙うのを、こっそり応援していた。


しかし、ヒロインは俺のことも射程に入れてたみたいで、廊下を歩いていたら、泣きながら走ってぶつかってきた。


「おっと」

「あ、も、申し訳ありません…」


あーこれ知ってる、「どうしたの?」と聞くと、「クラウディア様に叱られて…」と泣いてみせるのだ。


俺はシナリオ通りに「どうしたの?」と聞いてみた。


「クラウディア様に叱られて…」

おお、ほんとに言った。このあと彼女は、


「で、でも、わたくしが悪いんです! わたくしが、クラウディア様のお気に障るような言動を取ったのから! 扇で叩かれるくらい、当然なんです!」


と、まるで扇で叩かれたように、赤くなった手をすりすりとさすって見せるのだ。自分で叩いたくせに。


俺はヒロイン側でプレイしてたから、こうやってこっち側で見るの面白いなあ。

でも俺は彼女に攻略されたくないので、


「そっかあ。直接注意してもらえたなんて、良かったね。貴族としてのふるまいが身に着くといいね」

とにっこりして言った。


ヒロインは予想外の答えだったみたいで、「えっ」と目を丸くしていた。


ほんと顔はかわいいんだよなあ。泣いてると守ってあげたくなるもんなあ、としみじみ見ていると


「マチルダ嬢! なにかあったのか?」と、王太子とおなじみの3人がきた。

そうか、ヒロイン、マチルダって名前なのか。俺は「ゆうしゃ」って名前でプレイしてたからなあ。なんか変な感じ。


まあそれはおいといて。おなじみの3人とは、定番のあれ、筆頭公爵家の息子と宰相の息子と騎士団長の息子だ。


「いえ、いいえ、何も! クラウディア様が、わたくしを思って、注意してくださっただけです」


と言って手をすりすりする。


「手が赤くなっている! これは、クラウディアがやったのか?」

おお、王太子が、うまく誘導されている。


「いいえいいえ、これは自分で…! けっして、クラウディア様のせいでは…」


「自分でやるわけがないだろう! 今日と言う今日は、クラウディアに言ってやる!」

憤る王太子をマチルダが止める。


「いいえいいえ、本当に違うのです! 殿下が、私にあまりにも優しくしてくださるから…クラウディア様もおつらいと思うのです! 責めないであげてください…!」


「マチルダ…君は優しいな」王太子がマチルダ嬢の手を取り、「ではせめて、その手の治療をさせてくれ。医務室に行こう」と歩き出した。


「見事な冤罪の完成を見た」

と思わずつぶやいたら、


「なに?!」

と宰相の息子がくってかかってきた。小さい声で言ったのに…。


「マチルダ嬢が嘘をつくわけがないだろう! いいがかりはやめてくれたまえ!」


わあ。もう君も攻略されてたのかー。手練れだなあマチルダ嬢。

まあでもマチルダの嘘が見破られたら、婚約破棄にならないので、余計なことはいうまいと


「そうだね。口が過ぎたようだ」と言ってごまかした。


その後も、攻略対象になるのは避けながらも、マチルダの大嘘の邪魔をしないように(でもクラウディア様の俺への印象はなるべく良くなるように)、立ち回ったつもりだ。それなのに…。


◇◇◇


3年後の卒業パーティー。穏やかに微笑む王太子とクラウディア様。

なぜなんだ。なんで婚約破棄が行われない。


俺は、宰相子息…いや、たしかジルベールだったか。彼に聞きに行った。

「なあ、マチルダ嬢はどこにいるの?」


それを聞いたジルベールは、ものすごい顔で俺を睨みつけると、

「おまえ、おまえのせいでー!」と泣き出した。


「えっなに? 俺なんかした?」とあわてたが、まったく見当もつかず、周りの人間も「何事か」と思い始めたようなので、そそくさと別室に移動して話を聞いた。


彼の話によると、マチルダは卒業前に、証拠を集められて噓がばれ、修道院送りになったらしい。


「えっバレたんだ。なんで?」と言うと


「だからおまえのせいだよ! おまえが、クラウディア嬢に『俺はわかってますから』とか言うから!」

と言われた。


「えっ!」

見られてたの!? 


「クラウディア嬢の様子を見に行った殿下が、見てたんだってよ」


マチルダの私物を壊したと責められて、悲しそうに庭園で佇んでたからつい、「ここに味方がいます」って伝えたくて「あなたがそんな人じゃないってこと、俺はわかってますから」って声かけちゃったんだよな。

でもそれだけで?


「あれだけクラス中の男子生徒をが夢中になってるのに、隣国の王太子であるおまえはまったくなびかない。それどころかクラウディアに『わかってます』と言う。殿下が疑問に思うのは当たり前だろう!」


そ、そうだったのか。


「それで極秘でクラウディア様には見張りをつけたんだ。それなのにあいかわらずマチルダは『クラウディア様にアクセサリーを捨てられた』だの『叩かれた』だの言うから、そりゃバレるよ」


「なるほど…それは悪かった」

俺は素直に謝った。あれ? でも…


「君はマチルダに夢中だったんだろ? まるでマチルダが嘘吐きなのをわかってたみたいじゃないか?」


「わかってたよ!」ジルベールが叫んだ。「だって俺、転生者だもん!」


「えっお前も!?」思わず口に出た。


「やっぱりな。そんな気がしたよ」

そうなんだ、俺は全然わかんなかったけど…


「でもだったら、なんで協力してくれなかったんだよ!」

と、ジルベールが声を荒げた。


「俺は、この世界がギャルゲーと同じって気づいた時から、クラウディア様と結ばれるために努力してきたのに! おまえの浅はかな行動のせいで、全部パーだ!」


え? 今、なんつった?


「ギャ、ギャルゲー? 乙女ゲーだろ?」


「あっさてはおまえ、乙女ゲーしかやってないんだな?」


「うん、ギャルゲーなんてあったの?」


「あったよ。『お約束と思わせといて悪役令嬢』っていう、『お約束の悪役令嬢』のギャルゲーバージョンが」


あっ!


「そういえば思い出した! クラウディアの人気が男子にあまりにも高いんで、男子キャラになってクラウディアを口説く、ギャルゲー版を作ったってやつ!」


「そうそれ。やってないのかよ」


「だってあれ、マチルダだのクラスの女子だのにもいい顔しないと、爆発してクリアできないって聞いたから…。俺はクラウディア様以外に興味なかったから、やる気になれなくて…」


「やっぱりなー。気持ちはわかるけど、俺はクラウディアを口説きたい一心で、のめりこんだぜー。王太子キャラも、第二王子キャラも、騎士団長の息子も公爵令息も、そして俺、宰相の息子も、全キャラでやって、全部クリアしたんだぜー!」


「す、すげーな…」俺は感心した。


「自キャラが王太子の時は、マチルダを疑えばいいだけだから楽だったけど、他はめっちゃ難しいんだよ! 王太子にはマチルダに疑いを持たせちゃいけない。婚約破棄のためにね。その上で、クラウディアを口説くんだよ。王太子にバレないように」


それは確かに難しそうだ…。


「そのために、俺もマチルダに夢中なふりしてたのに!」


「そ、そうか、そ、それは悪かった」俺はもう一度素直に謝った。


「他のやつらだってそうだよ。みんなマチルダの嘘に気づいてた。でも殿下に婚約破棄させるためには、マチルダに騙されてもらわなくちゃいけないから、必死でマチルダをちやほやしてたんだよ!」


「そ、そうだったんだ…」マチルダちやほやにそんな裏があったとは…。


「でも一番難しいのは、婚約者がいた公爵令息だったなー。自分と殿下の、両方の婚約を壊さないといけないからね。何度コントローラーを投げたことか…」ジルベールが遠い目をした。


「ほんとにごめん…、俺、何も知らなくて…」さらにもう一度謝った。


「もういいよ。しばらくの間、夢を見られたし、リアルクラウディア様と関われたんだもん。いい思い出ができたと思ってあきらめるよ」


「そうだな、いい思い出ができたな…」


失恋仲間となった俺たち2人は、がっしと握手した。


「飲むか」

「おう!」


俺たちは、夜会がお開きになったあとも、朝までしこたま飲んだ。

そして、大親友となって、異世界生活を満喫するのであった。

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