隣国の王太子に転生したので、婚約破棄された悪役令嬢を口説く予定だったのに
なんでこうなった。
王立学園の卒業パーティー。
王太子であるアラン殿下は、婚約者の公爵令嬢、クラウディア様をエスコートしている。
2人とも、幸せそうに微笑んでいる。
なんでだよ。
婚約破棄はどうなったんだよ。
破棄してくれなきゃ、クラウディア様に声かけられないじゃないかよ。
殿下のお気に入りの男爵令嬢はどこいったんだよ。
誰か教えてくれよー!
◇◇◇
俺がゲームの登場人物に転生したと気づいたのは、この学園に入学した時だった。
「憧れのクラウディア様が、実写化して目の前に!」という感動で前世を思い出したのだ。
「お約束の悪役令嬢」というタイトル名の乙女ゲームは、その名の通り、定番のストーリーだった。
自キャラは身分の低いピンクブロンドの男爵令嬢。普通なら近寄ることもできない、王太子や高位貴族の子息を、なんとかして射止めるのが目的のゲーム。
しかし攻略対象はみんな婚約者がいるので、卑怯な手段を使う。
私物を自分で壊したり、捨てたり、勝手に転んだり池に飛び込んだりするんだが、それを攻略対象の婚約者がやったように見せかけて、同情をひいたり、悪役令嬢に仕立て上げようとしたりする。
その裏工作を、攻略対象に見破られるとゲームオーバー。
いかに見破られずに、目当てのキャラを攻略するかがキモだ。
ストーリーは定番なんだが、自分のキャラがあまりにも卑怯な悪役なので、新鮮だった。
しかしその卑怯な攻撃に対してクラウディアは、常に誇り高くてかっこよかった。
妹のゲームを借りて遊んだだけなのに、自分用のゲーム機とソフト3個(遊び用と飾る用と保存用)を買いそろえたくらい好きになって、クラウディアのセリフと行動を、全部見るまでやり続けた。
そんな俺が、隣国の王太子に生まれ変わったのだ。
あの憧れのクラウディア様と、同じクラスになって、話したりできるのだ。
天国!!
その上、ヒロインが王太子を選べば、クラウディアは婚約破棄されるのだ。
フリーになるのだ!
そしたらそしたら、傷心のクラウディアを隣国に連れていって、結婚することができるかも?
妄想はふくらむばかり。クラウディアが婚約破棄されるのは、ヒロインが王太子を攻略した時だけだ。ここはぜひとも王太子を狙ってほしい。なにがなんでも。
そう思って、ヒロインが王太子を狙うのを、こっそり応援していた。
しかし、ヒロインは俺のことも射程に入れてたみたいで、廊下を歩いていたら、泣きながら走ってぶつかってきた。
「おっと」
「あ、も、申し訳ありません…」
あーこれ知ってる、「どうしたの?」と聞くと、「クラウディア様に叱られて…」と泣いてみせるのだ。
俺はシナリオ通りに「どうしたの?」と聞いてみた。
「クラウディア様に叱られて…」
おお、ほんとに言った。このあと彼女は、
「で、でも、わたくしが悪いんです! わたくしが、クラウディア様のお気に障るような言動を取ったのから! 扇で叩かれるくらい、当然なんです!」
と、まるで扇で叩かれたように、赤くなった手をすりすりとさすって見せるのだ。自分で叩いたくせに。
俺はヒロイン側でプレイしてたから、こうやってこっち側で見るの面白いなあ。
でも俺は彼女に攻略されたくないので、
「そっかあ。直接注意してもらえたなんて、良かったね。貴族としてのふるまいが身に着くといいね」
とにっこりして言った。
ヒロインは予想外の答えだったみたいで、「えっ」と目を丸くしていた。
ほんと顔はかわいいんだよなあ。泣いてると守ってあげたくなるもんなあ、としみじみ見ていると
「マチルダ嬢! なにかあったのか?」と、王太子とおなじみの3人がきた。
そうか、ヒロイン、マチルダって名前なのか。俺は「ゆうしゃ」って名前でプレイしてたからなあ。なんか変な感じ。
まあそれはおいといて。おなじみの3人とは、定番のあれ、筆頭公爵家の息子と宰相の息子と騎士団長の息子だ。
「いえ、いいえ、何も! クラウディア様が、わたくしを思って、注意してくださっただけです」
と言って手をすりすりする。
「手が赤くなっている! これは、クラウディアがやったのか?」
おお、王太子が、うまく誘導されている。
「いいえいいえ、これは自分で…! けっして、クラウディア様のせいでは…」
「自分でやるわけがないだろう! 今日と言う今日は、クラウディアに言ってやる!」
憤る王太子をマチルダが止める。
「いいえいいえ、本当に違うのです! 殿下が、私にあまりにも優しくしてくださるから…クラウディア様もおつらいと思うのです! 責めないであげてください…!」
「マチルダ…君は優しいな」王太子がマチルダ嬢の手を取り、「ではせめて、その手の治療をさせてくれ。医務室に行こう」と歩き出した。
「見事な冤罪の完成を見た」
と思わずつぶやいたら、
「なに?!」
と宰相の息子がくってかかってきた。小さい声で言ったのに…。
「マチルダ嬢が嘘をつくわけがないだろう! いいがかりはやめてくれたまえ!」
わあ。もう君も攻略されてたのかー。手練れだなあマチルダ嬢。
まあでもマチルダの嘘が見破られたら、婚約破棄にならないので、余計なことはいうまいと
「そうだね。口が過ぎたようだ」と言ってごまかした。
その後も、攻略対象になるのは避けながらも、マチルダの大嘘の邪魔をしないように(でもクラウディア様の俺への印象はなるべく良くなるように)、立ち回ったつもりだ。それなのに…。
◇◇◇
3年後の卒業パーティー。穏やかに微笑む王太子とクラウディア様。
なぜなんだ。なんで婚約破棄が行われない。
俺は、宰相子息…いや、たしかジルベールだったか。彼に聞きに行った。
「なあ、マチルダ嬢はどこにいるの?」
それを聞いたジルベールは、ものすごい顔で俺を睨みつけると、
「おまえ、おまえのせいでー!」と泣き出した。
「えっなに? 俺なんかした?」とあわてたが、まったく見当もつかず、周りの人間も「何事か」と思い始めたようなので、そそくさと別室に移動して話を聞いた。
彼の話によると、マチルダは卒業前に、証拠を集められて噓がばれ、修道院送りになったらしい。
「えっバレたんだ。なんで?」と言うと
「だからおまえのせいだよ! おまえが、クラウディア嬢に『俺はわかってますから』とか言うから!」
と言われた。
「えっ!」
見られてたの!?
「クラウディア嬢の様子を見に行った殿下が、見てたんだってよ」
マチルダの私物を壊したと責められて、悲しそうに庭園で佇んでたからつい、「ここに味方がいます」って伝えたくて「あなたがそんな人じゃないってこと、俺はわかってますから」って声かけちゃったんだよな。
でもそれだけで?
「あれだけクラス中の男子生徒をが夢中になってるのに、隣国の王太子であるおまえはまったくなびかない。それどころかクラウディアに『わかってます』と言う。殿下が疑問に思うのは当たり前だろう!」
そ、そうだったのか。
「それで極秘でクラウディア様には見張りをつけたんだ。それなのにあいかわらずマチルダは『クラウディア様にアクセサリーを捨てられた』だの『叩かれた』だの言うから、そりゃバレるよ」
「なるほど…それは悪かった」
俺は素直に謝った。あれ? でも…
「君はマチルダに夢中だったんだろ? まるでマチルダが嘘吐きなのをわかってたみたいじゃないか?」
「わかってたよ!」ジルベールが叫んだ。「だって俺、転生者だもん!」
「えっお前も!?」思わず口に出た。
「やっぱりな。そんな気がしたよ」
そうなんだ、俺は全然わかんなかったけど…
「でもだったら、なんで協力してくれなかったんだよ!」
と、ジルベールが声を荒げた。
「俺は、この世界がギャルゲーと同じって気づいた時から、クラウディア様と結ばれるために努力してきたのに! おまえの浅はかな行動のせいで、全部パーだ!」
え? 今、なんつった?
「ギャ、ギャルゲー? 乙女ゲーだろ?」
「あっさてはおまえ、乙女ゲーしかやってないんだな?」
「うん、ギャルゲーなんてあったの?」
「あったよ。『お約束と思わせといて悪役令嬢』っていう、『お約束の悪役令嬢』のギャルゲーバージョンが」
あっ!
「そういえば思い出した! クラウディアの人気が男子にあまりにも高いんで、男子キャラになってクラウディアを口説く、ギャルゲー版を作ったってやつ!」
「そうそれ。やってないのかよ」
「だってあれ、マチルダだのクラスの女子だのにもいい顔しないと、爆発してクリアできないって聞いたから…。俺はクラウディア様以外に興味なかったから、やる気になれなくて…」
「やっぱりなー。気持ちはわかるけど、俺はクラウディアを口説きたい一心で、のめりこんだぜー。王太子キャラも、第二王子キャラも、騎士団長の息子も公爵令息も、そして俺、宰相の息子も、全キャラでやって、全部クリアしたんだぜー!」
「す、すげーな…」俺は感心した。
「自キャラが王太子の時は、マチルダを疑えばいいだけだから楽だったけど、他はめっちゃ難しいんだよ! 王太子にはマチルダに疑いを持たせちゃいけない。婚約破棄のためにね。その上で、クラウディアを口説くんだよ。王太子にバレないように」
それは確かに難しそうだ…。
「そのために、俺もマチルダに夢中なふりしてたのに!」
「そ、そうか、そ、それは悪かった」俺はもう一度素直に謝った。
「他のやつらだってそうだよ。みんなマチルダの嘘に気づいてた。でも殿下に婚約破棄させるためには、マチルダに騙されてもらわなくちゃいけないから、必死でマチルダをちやほやしてたんだよ!」
「そ、そうだったんだ…」マチルダちやほやにそんな裏があったとは…。
「でも一番難しいのは、婚約者がいた公爵令息だったなー。自分と殿下の、両方の婚約を壊さないといけないからね。何度コントローラーを投げたことか…」ジルベールが遠い目をした。
「ほんとにごめん…、俺、何も知らなくて…」さらにもう一度謝った。
「もういいよ。しばらくの間、夢を見られたし、リアルクラウディア様と関われたんだもん。いい思い出ができたと思ってあきらめるよ」
「そうだな、いい思い出ができたな…」
失恋仲間となった俺たち2人は、がっしと握手した。
「飲むか」
「おう!」
俺たちは、夜会がお開きになったあとも、朝までしこたま飲んだ。
そして、大親友となって、異世界生活を満喫するのであった。




