表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

聖都レムナス

夜明け前。

通信機の振動音でリヴィアは目を覚ました。


「……はい、リヴィア・ノクスです」

『集合だ。出撃準備を整えろ』

カラムの低い声が、いつもより硬かった。


リヴィアは急いで軍服に袖を通す。

冷たい布地が、胸の奥の不安を締めつけた。



【黒翼隊舎】


すでに全員が揃っていた。

カラムの声が静まり返った空気を割る。


「揃ったな。今回の任務は軍務部統括──レイリット大将からの直令だ」


アシュが顔をしかめる。

「グレイさんじゃなくて……?」


「ああ。どうも上層の意向が強い。内容は“革命軍潜伏先の破壊工作”。

潜伏先は……聖都レムナスだ。」


リズが思わず声を上げる。

「レムナス!? 聖理協会の総本山じゃない!」


「そうだ。」

カラムは淡々と続ける。

「そこに革命軍“リバースオーダー”が潜んでいる。……だがな、問題は別だ。」


「問題……?」リヴィアが問う。


「帝国がレムナスを敵に回す可能性がある。

ルーメン教は全世界の信仰だ。教会を攻撃すれば、“世界”を敵にする。」


リヴィアは息を呑む。

「つまり……帝国は、世界を相手に戦う気なの……?」


「分からん。」

カラムの瞳が鈍く光る。

「だが俺たちは命令に従うしかない。」


机上に広げられた地図。

帝国を中心に、無数の国家が取り囲む。

その中の一点──レムナス。


「潜入経路は?」


「信者の巡礼用の地下道だ。イムリットからレムナスまで繋がっている。」


「それって……神聖な場所を軍事利用するってことじゃ……」


「リヴィア。」

カラムが言葉を遮る。

「理想を語る暇はない。帝国はすでに準備を始めている。」


沈黙が落ちた。

そして、カラムが静かに告げる。

「出発する。」


黒翼全員が立ち上がる。

「了解!」

震え混じりの声が、部屋に響いた。



【帝国東端・イムリット】


輸送車の中。

ジンがハンドルを握りながら叫ぶ。

「マジでレムナスまで行くのかよ!?」


「黙って運転しろ!」アシュが怒鳴る。

車内の空気は張りつめていた。

誰も口を開かない。

世界の均衡を壊す作戦に向かうのだから。


やがて東の果て、イムリットの街並みが見えた。

その地下に潜る通路が、彼らの道。


黒翼は黒いマントで身を包み、地下道へと足を踏み入れた。

地上から遠ざかるにつれ、光も、祈りも、消えていく。


「駆け足だ。ここから半日でレムナスだ!」

カラムの声が暗闇に響く。



【聖都レムナス・西側聖堂】


カイゼン・アドラーの前に、セリウスが立っていた。


「隊長、なぜレムナスを……」


「昔ちょっとした縁があってな。だが帝国はすぐ嗅ぎつける。」


「それでも、ここを選んだのは……?」


「帝国にルーメン教を敵に回させるためだ。」

カイゼンは淡く笑う。

「世界中が目を覚ます。――それが狙いだ。」


セリウスの瞳が揺れた。

「なら俺たちは……囮ですか。」


「違う。お前は“生き延びる”んだ、セリウス。

そして……“セイクリッドルート(六つの理)”に会え。」


「伝説の魔法使い達……?」


「ああ。人間界を築いた六つの理。

彼らはまだ生きている。群島国家アスレオンへ行き、“オルド”という名の海賊を探せ。」


「海賊……」


「表の顔だ。奴は千年を生きる化け物だ。」

カイゼンは微笑んだ。

「世界の真理を学び、次の世を導け。――お前が新しい光だ。」


「俺なんかに……」


「お前にしかできん。」


「俺はお前が予言にある世界を救う“七つ目の理”、“セブンスルート”であると思ってるんだ。」


「この俺が…??」


その時、小柄な女性が姿を現す。

前髪をまっすぐ下ろした革命軍の剣士。


「カリン……」


「セリウス。先生に言われたの。“あなたを守れ”って。」

カリンの眼差しは鋭くも優しかった。


「行け。俺はここで迎え撃つ。」

カイゼンが微笑む。

セリウスは拳を握りしめ、振り返らずに去った。



【地下道/黒翼隊】


ネロが前方に手をかざす。

「来ます……!」


魔力の波動。銃声。

火花が暗闇を裂いた。


リヴィアが跳び出し、弾丸を弾く。

銃火の中、革命軍の兵たちが現れた。


「黒閃!」

リヴィアの一閃が、敵列を貫く。


直後、轟音と共に炎の奔流。

「防壁!」カラムが地面に手をつく。

土の壁が炎を押し返した。


アシュの火球が壁を突き抜け、

リズが電撃を纏って飛び出す。

「退けぇええ!!」

雷光と共に敵兵が吹き飛んだ。


黒翼は一気に突破。

レムナスの標識が視界に入る。


その時――。

「ッ!」リヴィアが身を翻した。

目に見えない斬撃が彼女を襲う。


火花。鋼の音。

細身の刀が光を裂いた。

周囲には冷気が漂い、息が白くなる。


「いい腕ね。」

声の主が現れる。黒髪の剣士――カリン。


「何者!?」


「革命軍幹部、カリン。黒翼を斬りに来た。」

抜刀の音。次の瞬間、リヴィアの腕がかすめられた。


「リヴィア!!」

リズが電光を纏い飛び出すが、カリンの剣戟に弾き飛ばされる。


カラムの槍が地を突き、

無数の土槍がカリンを貫こうとするも、全てが砕かれた。


「……侍の本気を見せてあげる。」

カリンが構える。


黒翼が全員身構えた瞬間――

背後のネロが呻き声を上げ、崩れ落ちた。


「ネロっ!!」カラムが駆け寄る。

「くっ……速すぎる……!」


リヴィアの瞳が闇に沈む。

「絶空!!」

黒い閃光が奔り、地下壁を切り裂いた。


カリンは一瞬押し負け、距離を取る。


「セリウスはどこ!?」


「……あなた、セリウスを知ってるの?」


「どこにいるの!?」


「帝国兵に教える義理はない!」


カリンが剣を掲げる。

列冬れっとう!」

地面から氷刃が噴き出す。


リヴィアも叫ぶ。

「絶空!!」

闇の奔流が氷を呑み込み、拮抗する。


光と闇、氷と影。

地下道が震え、壁が崩れ始めた。



【帝都・特務課執務室】


「少佐!」

エレナが駆け込む。

「黒翼が出動しています!」


「……誰の命令だ?」


「軍務部統括、レイリット大将です!」


「レイリット……?なぜそんな経路から……」

「目的地はレムナスです。」


グレイは顔を上げた。

「ついに動き出したか。……行くぞ、エレナ!」


「はい!」


エレナの表情は躍っていた。



【聖都レムナス】


セリウスは遠くの空を見上げた。

「……この魔力、まさか……カリン?」


(もう一つ知っている魔力を感じる。)


その時、

ドォォォォン!!


大地を揺るがす爆音。

レムナス中央の聖堂が、火柱を上げて崩れた。


「帝国軍……!!」

セリウスは双剣を抜き、燃える街へ走り出す。


「先生、カリン……やっぱり無理だ……!」


炎に照らされた空の下、

新たな戦争の火蓋が切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ