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じやんぷ!2 函館残照

作者: 吉高 都司
掲載日:2025/10/06

【春チャレンジ2025】で書かさせていただきました『じやんぷ!』の続編として書いてみました。もし、よろしければ一度覗いていただければ幸いです。【10月6日修正、加筆しました】

 【今】

 二人は肩を貸し合いながら、戦場を歩いていた。

 ついさっきまでの戦場の叫び声が嘘の様に、

 辺りは異様なほど静かだった。

 一人は片手に刀を杖代わりに、もう一人はエンフィールド銃を杖代わりにして。


 もうじき夜が明ける。

 その二人を照らし出した朝日に映る長い影は、長かった彼らの旅の終わりと、新たな出発を照らしているようだった。


 【数年前】

 自分を鍛え上げ、力を付け、強くなるため、藩校の教授の推挙で海軍伝習所に向かっていた。

 友を助ける為、彼の家族を助ける為、そして親友の妹君を助ける為。


 いや、助けるなんて、おこがましい。

 自分にどれだけの力があるのか、あるのならば、それを鍛え上げんがためだった。


 結局、親友の父君は投獄されてから行方不明、母君、妹君は遠方の母方の生家に出戻り、親友は遠島となっていた。


 その様な中、真偽は確かではないが、親友が遠島先で知り合った、某藩の重鎮と共に島抜けをしたという、噂を耳にした。


 真偽を確かめなくてはと、そして、早く次に進まなければと、もどかしい自分自身に焦っていた。



 【数刻前】

 白刃が煌めき、宙を舞った、

 相対する者の頭上をそれが舞った。


 ここは函館。

 遠くに、小銃と大砲の音、海からは艦砲射撃、近くにあっては、我々と同じ様に白刃を撃ちあい、その一合ごとに発する命を懸けた叫び声が遠く近く、そこここに大地を、函館の虚空を響かせていた。


 地より這うように相手の白刃が目の前に迫った。

 仰け反りながら、反転し返す刀で、足の脛をめがけ刃を走らした。


 五稜郭より少し離れた戦場。


 鋭い鋼と鋼が打ち合う、金属音の一音一音が命のやり取りの音。

 その命が辺りの戦場に鳴り響いている。


 小銃の硝煙と、血の匂いが鼻を衝く。


 周りは、我らと同じように刃と刃を打ち合い、ある者は打たれ、ある者は打ち勝ち、その中を、エンフィールド銃の弾丸が飛び交い、またその弾丸に当たる者、かすめる者、流れ弾が地面に弾き、立木を打ち抜き、家屋に食い込み、その土壁にめり込む。


 大砲の弾が、辺りの人間を木の葉の様に薙ぎ倒し、舞い上げ、そして、地面に叩きつけている。


 それらを、一顧だにもせず、ただ、お互い白刃を構え次の刹那を、微動だにせず待っていた。




 【数年前】

 海軍伝習所が閉鎖となり、神戸で新たな海軍の操練所が開設するとの事だったので、早速俺は神戸に向かった。


 親友の事もそうだが、妹君のあどけない顔を思い出すと、ぎゅっと胸が締め付けられる。

 あのコロコロとした笑い声、そして悪戯っぽい笑顔。

 それらの一つ一つが、声と笑顔と共に耳朶と瞼の奥にいつまでも残っている。


 俺は、その神戸の海軍操練所で、学べることは何でも学んだ。



 【数刻前】

 白刃がキラリと光ったかと思うと、目の前まで音もなく迫って来た、

 身を捻りつつ、その刃を弾き、こちらの攻撃態勢を整えつつ、相手右側にみを滑らし刃を打ち下ろした。


 【数年前】

 将軍慶喜公は大政奉還されたときは信じ難かった、自分は何のために、ここまで頑張って来たのか。

 友を救うため、ここまで来たことが、全て水の泡となってしまった、この虚無感は言葉で言い表せないものだった。


 その時、伊庭八郎という幕臣と知り合い、その人が指揮している遊撃隊と言うものを知った。



 【数刻前】

 一合、二合と刃を合わせる毎に、

 お互いの命をその音と共に命を終着、決着させようとしている。

 三合、四合と重ねてゆくが、命を削り合っている当事者たちは、もう数えてはいない。



 【数年前】

 その後、遊撃隊に身を寄せ、奥羽越列藩同盟と共に戦っている最中、友の消息が分かった。

 遠島から或る者の手引きで、さる重要人物を救出する際、どういう経緯か分からないが一緒に脱出、いわゆる島抜けをし、そのままその藩に身を寄せ、そのまま新政府軍の一員となったようだった。

 あいつは元々頭が切れて腕も立つそこを見込まれたのだろう。



 【数刻前】

 もう一度使を握り直し柄を絞った、肩が、腕が手首が熱い、背中が重い、ふくらはぎが異様に熱い、いや生温かい、視覚は一点を見て、全体を見ている、研ぎ澄まされた感覚が、一段後ろから俯瞰しているような感覚になる。血だ、足首を伝い足の甲まで血で濡れている、何時切られたのか。




 【数か月前】

 友はその藩で、新政府軍として、鳥羽伏見から、江戸を通り抜け、会津、そしてここ、函館まで、転戦に次ぐ転戦でやって来ているらしい。


 ある日、俺は遊撃隊隊長に聞いてみた。

 このままでは、親友と切り合うことになるかもしれない、どうすればいいでしょうか?と

 伊庭隊長は暫く考えて、お前はどうしたい、と。


 俺は、友を助けたい、と。


 隊長は、助けるとは?と。

 続けて、

 君の親友一族は当時の幕府から抹殺されたと言っていい、俺達はその幕府側の人間だ。

 その人間が助けると言って手を差し伸べて、差し伸べられて、ありがとう、と言って友達は手を握ってくれると思うか?

 多分、幕府憎し、意趣返し、復讐に命を懸けて来ているのだろう、でなければ島抜けして、函館まで来ないだろう。

 一呼吸置いて、

 そのことに正面からぶつかり合う事だ、文字通り命をかけて。

 やっても、やられても、結果お互いがここまでやったと、納得できた時、初めて彼だけでなく、お前さんも助けることになるだろうよ。


 そう言って、無くなった右手をさすっていた。


 【数刻前】

 そして今戦っている相手側が、まさか、あいつが親友が俺の目の前に立つとは思いもよらなかった。


 いや、眼の前の自分と似た、鏡のような自分自身と相対している。

 そう、鏡の様に眼の前に居るのは、自分であり、友だ。 


 俺は、お前をいや、お前の家族を助ける為、ここまでやって来た。自分ではどうする事も出来ない事も全て、俺が不甲斐ないばっかりにと叫んだ。


 友は、それは俺が頼んだことではない、父上は藩の為、この国の為に心血を注いでやって来たのに、この国の仕打ちはどうだ、一家は離散、父上の消息も分からずじまい、そんな時、この国を変えようと俺に力を貸してくれた御仁がいた、だからそれに俺は乗ったんだ、何が悪い。


 俺は、

 こんな日本人同士が戦うなんて間違っている、力を合わせるべきではないのか。


 友は、

 そうさせなかったのは誰だ。


 そう言い終わらない内に、遠くから、砲弾の弾が至近距離で、近くの家屋に直撃し、破裂した。

 俺達二人はその爆風に飛ばされ地面に叩きつけられた。


 辺り一面家屋の破片、砲弾の破片、黒煙が充満したが幸いにも致命傷となる傷は受けなかった。

 が、俺は、肩に、友は太腿に、木片が刺さり、お互い戦闘不能となり、激痛でそのまま気を失った。


 どれくらいたっただろうか、辺りは薄暗く、銃声や、刀の合わせる音、物音一つしなかった。

 静かな夜だった、遠くを見ると、人が、ぞろぞろと兵士たちが海岸を歩いている。

 よく見ると敵味方入り混じっている、しかし戦闘する様子もなくただ並んで怪我をしている者、健常者それぞれが支え合いながら歩いていた。


 沖合の戦艦の砲が火を噴くことまなく、ただ、蒸気機関の黒煙がたなびいていただけだった。

 陸の方も、所々、火砲による黒煙があちこちでたなびいているだけで、新たな砲弾が飛び交うことは無かった。


 戦いは終わったようだった。

 全ては終わった。

 旅を終えたような感覚だった。




 【今】

 もうすぐ夜が明ける、

 もうすぐ六月になる函館はまだ、日陰や、山の奥では残雪が残っていてまだ春の装いはまだ早い。

 内地はもう桜が咲き切り、桜前線は津軽海峡で足踏みしているらしい。


 お互い肩を掛けながら、足の怪我がひどく肩を貸し合いながら。

 そしてエンフィールド銃を杖に、刀を杖に、歩き出した。


 帰ろう、あの故郷に、僕たちの旅はこれからだ、続きは故郷に帰ってから綴ろう。

 そう言って二人は歩き出した。

 彼等の行く先は、

 二人が青春を駆け抜けたあの懐かしいふるさと。 了


覗いていただき、目を通していただき有難うございます。かなり、走った内容となっておりますが、何卒ご容赦くだされば幸いです。

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