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6 行き先はるか

「で、そいつなんなの」

 ジーク及びカーンとその一行は山あいの小道でサーキュラーに問い詰められていた。仕方なさそうにヤコブが言った。

「なんかついてきた」

 そうなの、と明華も言った。

「捕虜にしてくれってしつこくて。まさかくっついてくるとは思わなかったわ」

 一同が移動した先は風曳の谷入口である。その先に掲げられた「旧ダンジョン・立入り禁止」の看板を見ながらサーキュラーは言った。

「土地勘のある場所のほうがいいだろうと思ってここにしたんだが、そんな奴がついてくるとは思わなかった。そいつ仲間じゃないんだろ?」

 とんでもない、とタリオンが首を横に振る。カーンが簡単にいきさつを話した。ついでに教会兵からの情報も伝える。サーキュラーはハエトリを呼び出すと指示を与えた。ハエトリは一礼をしてさっと跳ね飛んで消える。教会兵はその様子を口を開けて見ていた。

 とりあえずの話を聞いたサーキュラーは、じゃー決まりだ、と教会兵を見て言った。

「仲間でもないなら元の場所に帰ってもらうわ。そのカッコ、教会兵だろ。ここに置いておくと面倒だしな」

 意外そうな顔でジークが言った。

「そいつ処分しないのか?」

 あーしないしない、とサーキュラーは右手をぶらぶらさせながら答えた。

「ちょっと今、うえとゴタゴタしてて教会関係者の死人を出すと面倒なんだわ。お前らがやってくれるならその方がいいけどな。そうしたらコッチは関係ないし」

 教会兵は顔面蒼白になった。あの、と必死でジーク達に取りすがる。

「ここがどこか知りませんが僕帰ったら殺されます。助けて下さい」

 面倒だな、とジークが言った。

「ここに放置していっていいか」

「やだよ」

 カーンとタリオンがサーキュラーを見た。

「ここ俺の土地だから変な奴置きたくないんだよ。人間がいると魔獣が寄って来る。こんなところで騒ぎを起こしたら魔王に怒られちまう」

「なるほど」

 一同は彼が魔王軍のトップだったことを思い出した。それじゃあさ、とヤコブが言った。

「イケニエ使う儀式とかしないの? ほらよくあるじゃん、血塗られたナントカみたいな」

 サーキュラーは頭痛がしてきたような顔でヤコブを見た。

「しねえよ。いつの時代だと思ってんだ」

 そうだ、と思いついたように明華が言った。

「あんたが食べればいいよ。そしたら問題解決」

 サーキュラーは脱力したようだった。

「俺魔獣じゃねえよ。食えねえし」

 ええっ、という声が一同から上がった。

「あのビジュアルで?」

「人食いグモじゃなかったのか?」

 おまえらなー、とサーキュラーが彼らを睨む。その横で教会兵がおそるおそる口を出してきた。

「あの、さっきから会話が不穏なんですけど……ここってどこですか」

 全員の目が教会兵に向いた。

「それとその人何者なんですか。人食いグモって、なんか穏やかじゃないんですけど」

 なんだっけ、と明華が言った。

「でっかいクモ」

 ヤコブが答える。タリオンは顔色が青白くなったが持ちこたえた。

「もうちょい説明しろよ」

 あきれたようにサーキュラーが言った。

「サーキュラー・ネフィラ・クラヴァータ閣下だろ。魔王軍統括総司令だ」

 カーンが言うとサーキュラーは感心したように彼を見た。

「フルネームに敬称までつけて全部噛まずに言えたヤツ久しぶりに見たわ。長すぎてだいたい統括総司令のあたりで噛むんだよ」

 そうなのか、とカーンが言った。一方の教会兵は生きた心地もしなかった。

「魔王軍って……あの……魔王ですよね? ここってもしかして魔界ですか?」

「そうだよ」

 さらっとヤコブが肯定する。あの、と教会兵が言った。

「みなさん落ち着いてますけど……その人ってもしかして人じゃないんじゃ……」

 ジーク達全員がサーキュラーの顔を見た。やんねえぞ、とサーキュラーが言う。

「化けないの」

「やだよ。意味ねえことはしねえよ」

 明華にサーキュラーがそう答えると、タリオン以外の一同は明らかにがっかりした顔をした。その様子を見て彼は仕方なく説明をした。

「基本的にアレは非常時用なんだよ。セラとか普通にあの姿でいたら大変だろうが。そうでなくてもあいつだだ洩れなんだぞ」

 なるほど、とジーク達はうなずいた。人の姿を取るというのは、強大すぎる自分のちからを封じるという効能もあるのだ。

「それに人間の姿ってよくできてんだよ。非力すぎず強すぎず、器用に動き回れる。できねえことも多いけどな」

「ふーん」

 タリオンが感心したように言った。教会兵はそのすぐ近くで震えながら地面にうずくまっていた。

「起きろよ。何もしねえよ」

 あまりの震え上がりっぷりにサーキュラーはそう声をかけた。それからしょうがねえな、の一言で四大将軍らが呼び出される。やほ、と軽いノリで最初にサンダーが現れた。教会兵が顔をあげる。

「なんですかぁサーキュラー様。いま休暇中なんですけど」

 手にはシュークリームを持っていた。続いてグランデが現れる。こちらは額に汗止めのヘアバンドを巻き、タオルを持って現れた。トレーニング中だったらしい。

「何用でしょうか、司令」

 それからワンダ、最後に少し遅れてファイが現れた。ワンダは若干不機嫌でありファイは寝起きの顔であった。

「もうなによサーキュラーちゃん。旅行中よ」

「……おはようございますサーキュラー様」

 サーキュラーは現れた四大将軍達を見回すとそこにいる教会兵を見た。呆然とした表情で地べたに座り込んでしまっていた。

「なに、勇者いるじゃん」

「あら本当ね」

 サンダーがジーク達がいることに気がついた。ほかの三人もそちらを見て周囲を確認する。そしてそこが魔界の風曳の谷であることを再確認すると、四大将軍全員が唯一の部外者である教会兵を見た。

「呼び出しの理由はこの人ですか」

 グランデが言った。やっとしゃっきりしてきたファイも、袖口に炎を揺らめかせながら教会兵の近くに寄ってくる。下からフードで隠したファイの顔を見上げた教会兵がひえっ、と言った。

「……こいつむかつく」

 まあまあ、とグランデがファイをなだめる。で、とサーキュラーは言った。

「休暇中悪いがこいつ、どこかへ捨ててきてくれ。あとそいつらの護衛も頼む。指定の場所に戻してやってくれ」

 ええー、と不満の声が四大将軍達から上がる。そいつらとはジーク達のことであった。めんどうー、とサンダーに言われ、サーキュラーは譲歩した。

「休暇をもう一週間伸ばしていいから頼むよ。俺今動けないんだわ。四人いりゃなんとかなるだろ」

 しょうがないわねえ、とワンダが言った。

「領収書はそっち持ちよ。あたしたちで何とかするわ」

「すまない、ワンダ」

 言うなりサーキュラーは飛行糸を繰り出して飛び去ってしまった。本当に忙しいらしいと分かり、四大将軍達はため息をつきつつ手分けして作業を進めることにした。

「ところでこの人なんなの」

 シュークリームを食べ終えたサンダーが言った。カーンがざっと説明する。説明を聞き終えた四人はジーク達の護衛をワンダとサンダー、教会兵の輸送をファイとグランデという組み合わせで行うことにした。

「じゃあ行ってくるわね」

「よろしく~」

 ワンダとサンダーはそう言うとジーク達と一緒に歩いてその場を離れた。男達にくっつき、明華と三人で賑やかにしゃべりながら魔界の道を歩くさまを教会兵が固唾を飲んで見守る。いいかげん見えなくなった頃に硬直している教会兵をグランデがこづいた。

「あんたはこっちよ」

 殺してはいけないと言われているので、グランデとファイは道々歩きながら教会兵の行き先を探すことにした。逃げられるとまずいので真ん中に教会兵を挟んで彼女らは話をしていた。

「どうしようか、この人」

「……天界は?」

「ファイ、行ける?」

「……行けない。無理」

 しばしの沈黙が続く。今度はグランデが言った。

「お城に連れていく?」

「……御使い対策でサーキュラー様お城に詰めてるって言ってた。たぶん今お城網だらけ」

「じゃあ駄目ねえ。ひっかかったら取れないわ」

「……うん」

 取れないどころではない。サーキュラーの糸はとんでもない強度があるので、引っかかったところをうっかり引っ張るとそこから真っ二つに切断されてしまったりする。二人は人体の脆さも考え合わせ、魔王城に教会兵を連れて行くのはやめにした。

「……あー」

 ファイが何か思いついたようだった。

「……煉獄行き」

 それいいわね、とグランデも同意した。教会兵が不安そうに二人の顔を見る。

「一番いいんじゃない」

「……そう思う」

 教会兵は泣きそうな表情になった。

「あっ、あの、煉獄って罪人の行くところですよね」

「まあそうね。でも死なないから大丈夫よ」

 グランデの言葉にうんうん、とファイもうなずく。

「……平気。人間行っても大丈夫」

 さ、行くわよ、とグランデがもう一度教会兵をこづいた。教会兵は半泣きになりながら魔界の道を二人に連行されていった。

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