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アラウンド・ザ・シークレット 6  作者: 空谷あかり


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25 三界にあらず・2

 天界から届いた文書をサーキュラーは三度見した。どこからどう見ても正式な和解を求める文書であった。

「ほんとに本物か、これ」

 魔王城の謁見の間で四大将軍達を従えているにも関わらず、彼はそう言ってしまった。正面の王座に座る魔王も、その横に立つセラフィムもそうだとうなずく。サーキュラーは文面を読んだ。

「……以下の条項を取り決め、和平条約としたい。そのための日程は……」

 マジかよ、ともう一度サーキュラーは言った。今朝まで顔に出ていた冥樹の呪いはいつの間にかすっかり消えうせていた。

「呪いが消えましたから本物だと思いますよ」

 セラフィムが言った。え、とサーキュラーが文書から顔を上げる。

「そうだな。すっかりきれいになくなっているぞ」

 魔王も同意した。ワンダが気を利かせて水鏡を用意する。サーキュラーはそれを覗き込んでおおっと声を上げた。

「消えてる。よかったー」

 周囲からくすくす笑いが洩れる。いやだってさ、とサーキュラーは言った。

「俺、残りの人生一生これかと思ってたんだよ。いや消えてよかった。安心したわ」

 どっと笑いが起きた。ひとしきりの笑いが収まってから魔王は言った。

「直接私が行かなくてはならないようだな」

 文書には首脳会談の上と書かれていた。ラファエルとガブリエルは自室に篭る唯一神を引っ張り出すのに成功したのだ。

「そうみたいですね」

 魔王はちらとセラフィムを見た。

「誰が同行するかだが……セラフィム、お前も行くか」

 おいおい、とサーキュラーは言った。

「この城がからっぽになっちまうぞ。もうオフクロに頼むの嫌なんだよ」

 しかし、と魔王は言った。

「セラフィムについてはきちんとしておいたほうがよかろう。本人の前で唯一神から言質を取ったほうがいい」

 それはその通りである。少し考えてサーキュラーは言った。

「ならお前達は城に残れ。四人もいればなんとかなるだろう」

 四大将軍達はうなずいた。やや不安そうな顔のサンダーにサーキュラーは言った。

「もう動けるな。重要な戦力なんだからしっかり頼むぞ」

「はい」

 サーキュラーがサンダーからの返事を確認する。魔王は話を続けた。

「場所は煉獄だろうからこちらからウリエルに連絡を入れておく」

「御意にございます」

 態度を改め、サーキュラーが一礼した。後半を受けてセラフィムもうなずく。ところで、と魔王は続けた。

「呪いが消えたということは原因がなくなったということでいいのか、セラフィムよ」

「おそらく」

 サーキュラーが顔をしかめた。説明を求められているのに気づき、セラフィムは答えた。

「メタトロンが断罪されたのではないかと思われます」

 それはすでに分かっていたことであった。そうなった理由についてセラフィムは推測を述べた。

「メタトロンをよく思わない御使い達が上申したのでしょう。あまり好かれておりませんでしたから」

「ふむ」

「それに人界を巻き込んでまでの抗争を唯一神は望んでなかったのではないかと思います。ここはわたくしの推測ですが」

「続けよ」

「アレクセイに人界に行くように命じたのはメタトロンのようです」

 魔王はなるほど、とうなずいた。これはメタトロンとともに魔王城に侵入してきて捕らえられた、十二人の上級御使い達から得た情報である。

「地上まで前線を展開するには場所が二箇所になりますから単純に言っても倍の戦力が必要です。しかしもうそんな兵力は天界には残っていません。しかも人界ではドラゴンキラーを持つ伝説の勇者を復活させました」

「あれか」

 サーキュラーが言った。

「あの剣やべえな。あのお嬢ちゃん達はよくあんな業物を作ったもんだ。俺だったら死んでる」

 そう言ってサーキュラーはちらっと魔王を見た。なんともいえない顔で魔王は「続けよ」とセラフィムに言った。

「いまや天界には戦力になりそうな者はほとんどおりませんし、地上の王家も女神達がちからを取り戻したために侵攻は不可能です。勇者の伝説はあの地に広く知られていますし、実際のアルノ王子の実力もなかなかのようです」

「へえ。あの王子がねえ」

 サーキュラーが言った。はい、とセラフィムが答える。

「空中に現れたメタトロンを一撃で吹き飛ばしたそうです。司祭の目の前でやったのでおそらく二度と御使いは来ないでしょう。もし教会が攻め込めば王家だけでなく民も敵に回すことになりますから」

「やるねえ」

 くくっとサーキュラーが笑った。魔王が先を続けさせる。

「唯一神側も今こちらから攻め込まれれば防戦一方になり、やがては唯一神と御使いで天界を支配することもかなわなくなります。なのでもう休戦したいといったところでしょう」

 魔王がセラフィムを見て言った。

「お前のことはもういいのか」

 唯一神がセラフィムに執着していることは魔界でも有名であった。もともとはセラフィムさえ取り戻せれば勝てる、そう思った唯一神が魔界にちょっかいをかけてきたのが始まりである。

「分かりません」

 正直にセラフィムは答えた。

「しかしわたくしよりも天界の支配を維持するほうが重要だと思ったのではないでしょうか。それならそれでわたくしは構いません」

「ふむ」

 自分はそのうち取り戻せるが、天界の支配者の座は滑り落ちたら二度と取り戻せまい。下手をしたらないがしろにしてきた他の神々にリンチされる。サファとエメールのほかにも地上に逃げ延びた神々はそれなりの数がいるのだ。なのでそう判断したのだろうとセラフィムは言った。

「魔界より悪辣だな」

 魔王があきれたように言った。憐憫の情が湧いたようであった。

「そんなものです」

 さらりとセラフィムは答えた。

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