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アラウンド・ザ・シークレット 6  作者: 空谷あかり


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24 三界にあらず

 ハエトリが持ってきた情報を見て魔王は考え込んでしまった。ううむ、とうなっているところにセラフィムがドアをノックして現れた。

「失礼します、魔王様」

 場所は魔王の自室である。ついで魔王はセラフィムの衣装が変わっていることに気がついた。本人にはこれと言って違ったところはない。しかし魔王はしげしげとセラフィムを見てしまった。

「どうされましたか」

 いや、と魔王は頭を振った。

「着ているものが変わったようだな」

 セラフィムは自分の着ている服の袖口を見た。

「はい。少しうたた寝をして、起きたら変化しておりました」

「お前がうたた寝とは珍しい」

「はい」

 ここのところ立て続きに起きている出来事で何か思うところでもあったのだろうか、魔王はそう思ったが口には出さなかった。

「疲れていたのでしょう。まさか服装が変わるとは思いませんでしたが、自分に対する認識を改めることになりそうです」

「そうか。疲れがひどいようならあまり動かなくていい。自重しろ」

「はい」

 ところで、と魔王は頭を切り替えた。

「女神達が王子にドラゴンキラーを持たせたようだな」

「はい。わたくしも驚きました」

 魔王を鎮めるために使ったが他に使い道もないしあれはもう使わない、そう双子の女神は言っていたのだった。血でしょう、とセラフィムは言った。

「彼女らが思ったよりもはるかに王子に適性があったのでしょう。なので事態を収拾し王家を存続させるために、王子を伝説の勇者に仕立てたのだと思います」

「あの王子がな」

 魔王は軽く笑った。

「あんなものを持たせたら私が父王に会いにいけないではないか。婚礼の儀の挨拶ができん」

「そこも狙いでしょう」

 ふむ、と魔王はセラフィムの言葉を待った。

「悪竜たる魔王様が近づけないようにしたことによって、ゲルア王家の正当性が保たれます。実際に魔王様が行かれる時はアルノ王子をどこかよそにやればいいだけですから」

「ひどい話だな」

「まったくです」

 二人して笑いが洩れる。天界もその意を汲んだ教会も、強力な旧い神々が守護についていると分かったら簡単には手出しできまい。王家はしばらくは安泰であろう。

「サーキュラーの仕事が一つ減ったわけだな」

「そうですね。ほっとしているのではないかと思います」

 そのサーキュラーは各所を走り回っていた。非公式ではあるがそろそろ休戦条約の話が持ちかけられそうだと聞き、戦力の調整をはかりつつ煉獄のウリエルと話し合いを進めていた。

「四大将軍は全員復帰したのか」

「そのようです。サンダーさんを前線に送ると連絡がありました」

 沈黙があった。

「死なぬとよいが」

「そうですね」

 そしてセラフィムは一礼をし、魔王の自室を出て行った。


 メタトロンはガブリエルと睨み合っていた。場所はあの洞窟である。彼が唯一神に奉じ、御使いにあげてもらった功績のある場所であった。

「よくもだましたな」

 曲刀を振りかざしたメタトロンにガブリエルはこう答えた。

「わしはぬしの知りたいことを教えてやっただけじゃ。その情報をどう使うかはぬし次第よ」

 メタトロンの刀は新品である。ガブリエルはそのことを見て取った。前の刀はおそらく魔界の連中に取り上げられたのであろう。御使いに相応しくない穢れた刀であるから、すぐさま調査が入ったはずだ。

「わしも斬るか」

 旧世界者の化石の前でうっそりとガブリエルは笑った。

「わしを斬って我が父に報告せよ。ガブリエルが反逆したとな」

 ガブリエルがいなくなれば、唯一神の天界平定前からいる生え抜きはラファエルとウリエルしか残らない。ウリエルは煉獄から出られないしラファエルは事務官である。どちらも唯一神の片腕となるには無理があった。

「ぬしには我が父を助け、この天界を治めるだけの器量はない。自分で分かっておろう」

「うるさい」

 こわいこわい、とおどけたようにガブリエルは言った。

「人間ごときにゼラフの代わりは務まらぬ。ウリエルはよく分かっていたがあれも問題児でな。この天界に置くことはできなかった」

 古びた木製の杖がガブリエルの手に現れた。杖を持つガブリエルをメタトロンは初めて見たように思った。

「以前はわしの仕事じゃった」

 ガブリエルはしわだらけの手に握った古びた杖を眺めた。

「ずっとゼラフに任せておったでな」

 高々と杖が掲げられる。

「昨日、我が父より全権を任せられた。よってわしがぬしを罰することとする。罪状は我が父を利用しそそのかした反逆罪だ」

「なっ……」

 言い終わる暇はなかった。目を焼く閃光とともにメタトロンは消滅し、後にはほんのわずかの灰塵だけが残った。

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