表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラウンド・ザ・シークレット 6  作者: 空谷あかり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/28

23 決戦

 城門前に結集した教会兵達の前に、にこやかな笑顔の父王が現れた。その隣には教会の使者がいる。こちらは気恥ずかしそうに下を向いていた。父王の周囲には兵団長と城の衛兵が立っている。ただし衛兵の数はいつもの倍であった。

「いや申し訳ない。何か勘違いさせてしまったようだ。使者殿はここにおられる」

 教会兵の前には司祭がいる。血走った目で髪を振り乱しこう叫んだ。

「そなたらの計略にはひっかからんぞ。魔王と手を結び魔物をこの世界に引き込もうとしているのは分かっておる。その証拠にフーシャ姫がいないではないか」

 父王の後ろからフーシャが出てきた。

「ここにおりますわ。司祭様、どうなされたのです」

 ぐっ、と司祭は言葉に詰まった。最後尾にいたメタトロンが出てきて司祭を鼓舞する。

「その女は魔王と結婚する予定の女だ。そんな女のいうことを聞くな」

 司祭は気を取り直し、フーシャと父王に詰め寄った。

「そなたらは魔王をこの世界に呼び込み、世界を滅ぼそうとしているのであろう。分かっておるぞ」

 父王とフーシャは困った顔になった。確かに魔王はやってきたが彼はフーシャ以外の人間のことなど全く興味がなかった。平和主義者とウリエルは評したが、本当のところ魔王はただひたすら面倒で何もしたくなかったのである。人間界の征服などもってのほかであった。フーシャも父王もそのことは魔王と接しているうちに分かったから、今回の教会側の言い分はいいがかりにしか思えなかった。

 しかしそんなことを言っても信じてもらえるわけがない。父王自身ですら魔王に会うまではそう思っていたからである。とりあえず敵意はないことを示すために、父王は使者を教会兵に引き渡すことにした。

「こんな騒ぎになってすまなかった。使者殿、お帰りくだされ」

「あ、はい」

 使者は一歩踏み出して司祭のほうへ行こうとした。するとそこに教会兵が斬りかかった。

「何をする!」

 兵団長が瞬時に動き教会兵の刃を止める。衛兵達は使者のまわりを囲んでそれ以上の攻撃を防ぐ格好になった。

「その者はもういらん」

 父王を見て司祭が言った。狂人のしぐさであった。


 聞こえない哄笑がこだまする。メタトロンが笑っているのだった。セラフィムのことなどもはやどうでもよく、彼はただ自分がこの場を操っていることに酔っていた。

「もっとやれ」

 司祭はさらに言った。

「貴様らは魔物に取り込まれている。さらに異教の者とも手を結び、この世界を破壊しようとしておる。わしの目はごまかせんぞ」

「何をおっしゃっておられる」

 父王は困惑した顔になった。協会側の使者ですら司祭を恐怖の目で見た。兵団長は警戒を強め、城内に連絡係を走らせた。

「我々は教会とともにこの土地を代々守ってきた。異教徒などいないのは司祭殿がよくご存知ではないか」

「嘘をつくな」

 口から泡を吐きながら司祭は言った。

「王子にとりついているあの女達はなんだ。わしはこの目でしかと見たのだぞ! あれは王子をたぶらかす悪霊であろう!」

 父王とフーシャは顔を見合わせた。司祭が言っているのはサファとエメールのことであることは分かったが、王家に伝わるこの二人の話はそもそもこの地方の伝説として広まっており、いまさらとやかく言うほどのことでもなかった。教会でも認識しているいわば公認の伝説である。

「当家の伝説の話ならいまさら何ですかな」

 父王がそう言ってしまったのも無理はない。口角泡を飛ばし、司祭は反論した。

「あの者達は女神などではない。貴様らをだまそうとする悪霊じゃ。いや最初からこの王家は呪われておったのだろう。我々が取り除いてくれる」

 教会兵達は一斉に武器を持ち替えた。司祭が命令すればすぐさま攻撃に移れるような体制になっていた。

(くそっ)

 今の人数と装備では足りない。兵団長は衛兵のみで対応したことを後悔した。実はまだ動かせる隊があったのだが、あまり大げさにして教会側を刺激してはまずいと思って控えたのだ。

 おそらく父王とフーシャは守れるだろうが使者までは警護の手が届かない。しかし使者を死なせてしまえは司祭側の思うつぼである。

「手伝うぜ。姫はいらねえ」

 不意に真横から声がした。兵団長はちらとそちらを見て、見知った顔があるのに気づいた。

「ジーク!」

 その後ろから落ち着いた声がする。カーンだった。

「次の仕事先が決まった。西のドライン城周辺で大型魔獣狩りだ。あと少しだから手伝ってやるよ」

 ジークが剣を構え直す。

「ここはもうおさらばだ。大金掴んで今度こそ優雅な暮らしをしてやるぜ。魔獣ハンターで大儲けだ」

 武器を構えたジークとカーンの後ろに明華の姿がある。

「ちゃんとお会いするのは初めてかもね、フーシャ姫。なによ可愛いじゃない。本物の姫と旅してみたかったわ」

 くすくす笑う明華の左右にはタリオンとヤコブが見える。しょうがないなあ、という感じでタリオンが言った。

「いろいろと義理があるからね。それに頼まれたし」

 ついでに各所から前払いの報酬も貰っていた。マスターリキュールも追加でもう一瓶来ていた。魔力の回復だけでなくステータスの増強もできる優れものである。それがあったので彼らはこの地を離れて新しい職業に就くことを決めたのだった。

 まあね、とタリオンとカーンは目配せをした。

「本当なら来なくてもいいんだけど、どうしてもってジークが言うからさ」

 タリオンの後に、のほほんとしたヤコブの声がした。

「こういう時は人手は多いほうがいいよ」

 ねえ、とヤコブはジーク達に言った。

「そういうことだ。援護は任せろ。回復術師をこき使っていいぞ」

 ジークが言うとやめてくれよ、とタリオンが答える。しかしぎくしゃくした空気はない。

「いくぜ!」

 タリオンとヤコブが少し後ろに下がる。ジークとカーン、それに明華は集まった教会兵達の前に立ちはだかった。


 魔王と渡り合う技量は伊達ではない。教会兵達も城の兵士達もそのことを嫌になるほど思い知った。ジーク達は短時間であらかたの教会兵を片付け、残るは司祭とその護衛、それにいまだ踏みとどまっている少数の者達だけだった。

「炎術が効かないわ」

 明華が額の汗をぬぐいながら言う。ヤコブはかっぱらいを諦め、明華とタリオンを護衛する役割にまわっていた。

「聖別だけじゃないな」

 タリオンが用心深く言った。明華もうなずく。

「護衛に術師がいる。魔法は教会では禁術のはずだけど」

 煙幕が張られる。ヤコブが煙筒を投げたのだ。

「そんな奴ぶった切れ」

 ジークが言うとはいはい、とカーンが答えた。

「どこを斬る。見つからないが」

 言いながら武器を持ち直す。彼らの言っている術師とはメタトロンのことであった。姿を隠しているために人間の目には見えない。しかし気配は充分に感じられた。ヤコブが煙幕で見えない空中に投げナイフを投げる。ナイフは空を切り、教会兵達の頭上に落ちた。

「駄目だな」

「隠れてやがる。明華、いけるか」

 再度、明華は火焔魔法を繰り出した。だが手応えはない。ちっ、とジークは舌打ちした。

「ここまでか」

「俺達じゃ無理だ。援軍が欲しいところだな」

 ちらっとカーンは城門のほうを見た。ジークが司祭に向かって剣を構える。

「お、おまえら……なんということを」

 怒りに震える司祭にタリオンが言った。

「僕達を闇討ちしたのはお忘れですか」

 へへっ、とジークが剣を構えたまま笑う。

「ジジイだからぼけんてんだろ。治してやれよ、タリオン」

「嫌だね。どうせ治んないし」

 明華が正面に扇状の炎を広げる。残った教会兵達も司祭の護衛も近寄れなくなった。

「そろそろ引っ張り出すか」

「だな」

 ジークとカーンは後ろにいたヤコブに合図をする。ヤコブは道具入れにあったホイッスルを取り出し、思い切り吹いた。

「じゃあねえ」

「後は頼んだぞ、王子様!」

 突風が吹き荒れ、五人の姿は見えなくなった。風が収まった後には明華の置いていった火炎と、倒された多数の教会兵達が残っているだけだった。


 あーもう、とアルノは城門の内側で思った。手際よく城門はほんの少しだけ開けられている。傍目には閉まっているように見えたが、彼がちょっと押せば出られる隙間ができるようになっていた。アルノの両脇にはサファとエメールが現れて立っており、彼の顔をじっと見ていた。

 門の外側では倒れている教会兵を背景に、司祭と父王が真っ向から言い争っていた。

「当家の守護神を愚弄するか」

 父王の問いに司祭はこう答えた。

「神などではないと言っておる」

(駄目だな、これ)

 アルノは覚悟を決めた。それに応じて両脇の双子の女神から微笑が彼に向けられる。

「分かったよ」

 準備万端整えてアルノは城門に手をかけた。


 ひどいですわね、という声がした。本当ですわ、と返す言葉も聞こえる。これは司祭と父王だけでなくそこにいた全員の耳に届いた。しかし姿は見えない。

「父上、何の騒ぎですか」

 きょろきょろしている一堂の前に、閉まっていた城門を開けてアルノが出てきた。手には磨き上げられた巨大なドラゴンキラーを持ち、着こんだ銀の鎧には青と緑の宝石がちりばめられている。その格好を見て城門前に集まっていた人間達はどよめいた。

「アルノ様、それは……その防具はどうされたのです」

 兵団長が言った。こともなげにアルノは答える。

「もらった。すげー軽いよ。ウソみたいだ」

「その剣はどうした」

 父王が言うとアルノは言った。

「宝物庫にあったのを双子の女神に渡されました。僕の持ち物だそうです。前見た時はさびだらけで全然使えそうになかったのに」

 フーシャの顔がこわばる。アルノが持っていたのは竜と化した魔王の背に突き刺さっていたあの剣だった。確かドラゴンキラーという名で、竜族の魔王を倒すことができる魔剣である。彼女は後から伝説だと思っていたそれらの事柄が本当だと教えられた。事実、魔王はこの剣で死にかけた。

「アルノ、その剣は……」

 フーシャが言うとアルノ王子は答えた。

「知ってる。教えてもらった。姉さま達には向けないよ」

 そして巨大な剣を正面に構え、アルノはこう大見得を切った。

「文句があるやつはかかってこい! 僕が相手だ!」

 その瞬間アルノの後ろに双子の女神、サファとエメールが出現した。この辺の演出とタイミングは魔王軍の四大将軍達から学んだものである。以前見た時にかっこよかったので真似するようアルノが頼んだのだ。しかし真似事でも効果はなかなかのもので、教会兵達はあとずさりし司祭は色を失った。

「私達はこの王家とアルノ様の守護を任じております」

「王家に危機が迫る時は私達がお手伝いしましょう」

 司祭の真上に曲刀を持ったメタトロンが現れた。どうも分が悪いと見て現れたのであった。

「進軍せよ! 我々には真の神がついている! それは偽者だ!」

 言われて司祭は気を取り直した。

「そうだ、我々にはこの天使様がついておる! お前達の目を覚まさせるためにな!」

 ふう、とアルノの右後ろからため息が聞こえた。左後ろからも困ったものですわ、という呟きがもれた。

「え、いいの? ほんとに?」

 アルノが言うとサファとエメールは同時にうなずいた。アルノは兵団長や衛兵を下がらせ、自分が一歩前に出た。

「じゃ、やるよ」

 そして上空に浮かぶメタトロンに向かって巨大な剣を一閃した。もちろん剣先は届かない。しかし凄まじい衝撃を受けてメタトロンははるか彼方まで吹き飛ばされた。

「えっ……」

「まさか……」

「本物のドラゴンキラーだ」

「やばい」

 残った教会兵達に動揺が走る。司祭はアルノを睨みつけていたが、小柄なアルノが身長ほどもある大剣を易々と扱っているのを見てただごとではないと思ったようだった。

「おぬしはあの伝説の勇者なのか。悪竜を倒しこの地に平和をもたらしたという」

「知らないよ、そんなの」

 アルノにとってはどうでもいいことだったので、彼はそう答えた。司祭の顔色が青くなる。

「でもこれは僕のなんだってさ」

 アルノが剣を構えなおしたとたん、教会兵は後方からばらばらと逃げ出した。

「待て! 待たぬか!」

 司祭が言っても聞きもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ