21 結集2
司祭とメタトロンは言い争っていた。メタトロンの言うことを信じて兵まで動かしたのに、肝心の王家には女神の加護がある。いったいどういうことであろうか。納得の行く説明をしてほしいと司祭はメタトロンに詰め寄っていた。
メタトロンはメタトロンで天の言うことを信じないのかの一点張りである。王家が魔王に取り込まれているのは確かであるし、あの女神達は魔物が化けた偽者かもしれない、そう主張した。
「魔物なら教会内に入れぬ。もしやお主こそ偽者ではないのか」
「ここは教会内だ。疑っても構わないが司祭殿の主張と反するぞ」
つまりはメタトロンも女神達も本物だということである。では、と二人は顔を見合わせた。
「王家には両方の守護がある、と?」
いやいや、とメタトロンは反論した。
「天は王家を守護せん。あの女神達は我々とは別物だ」
「では異教の神か?」
「そうであろうな」
司祭は納得をした。真の異教神なら教会には入れないようにも思うのだが、なんであれ理解できる説明が欲しかった。そして異教徒は教会の敵である。
「魔物どもはおろか異教徒とも手を結ぶとは。断じて許せん」
「そうであろう」
メタトロンはほくそ笑んだ。大成功である。見たいものしか見ない者をだますのなど容易いものだ。同じようにして彼は天界で現在の地位を手に入れた。
「王家に進軍する。兵を集めよ」
司祭はそう命令を下した。メタトロンは姿を消すと空中で笑い転げた。物事はすべて彼の手のひらの上で転がっていた。そう信じていた。
すべてを知る者、とは創造神の別称でもある。しかしその創造神は自ら姿を変え、世界を知ることをやめた。そのほうがいいと思ったからである。自分の意思で生きるものこそ尊い。自分で考え動く者の手助けをしよう、創造神はそう考え、そのための世界を作った。それが今の世界である。
「しかしその歯車を外したやつがいる、と」
ウリエルの言葉をブレンはじっと聞いていた。
「自分が創造神に成り代わり、この世界を支配しようと企んだやつがいた。自主的、というのはそういうものも含むんだ。その時にどうするかというのがこの世界に与えられた課題でもある」
もう理解がついていかなかった。もっともウリエルは彼に聞かせるためにこの話をしているわけではない。ルーセットよりはましな聞き手として、自分の考えをまとめるためにしゃべっているだけだった。そのことはブレンにもよく分かっていたので、彼は難解になりつつあるウリエルの話をただおとなしく聞いていた。
「そいつの計略はうまくいっていた。そこへエノクが現れた。エノクのやつはそいつの真似をしてそいつから世界をそっくりもらうことにした。自分がそいつを操っていい目を見ようと考えたんだ」
「はい」
とりあえずの返事である。
「エノクはそいつの本性を知っていた。だから貢物をして自分を重要な位置につけさせて、そいつの懐にもぐりこんだ。それから自分が甘い汁をすするために行動を始めた」
すべてを知るはずの創造神はそのことを知るすべがなかった。見るための目をふさいでしまっていたからである。
「天界はめちゃめちゃになった。戦禍により邪魔者はあらかた消えた。一番邪魔な天軍長も追い落とした。エノクは持ってはならない武器を持ち、天界に君臨しようとした」
ここで言葉が途切れた。少し待っても続きがなかったのでブレンはウリエルの顔を見た。
「あの、続きは?」
その表情に見慣れない影が映ったように見えたのは気のせいだったのだろうか。
「まだだ。これからだ」
「これから?」
「ああ。あと勘違いしてるかもしれないがこれは過去の話じゃないぞ、今現在のできごとだ」
「え?」
ウリエルはブレンの顔を見た。
「エノクってこの間やってきたあの天使ですか?」
「そうだ」
教わった知識を全部脳内でさらってからブレンはたずねた。メタトロンという名は教わったがエノクという名前は彼の知っている知識の中にはない。魔界でサンダーと一緒に彼を尋問した時に過去を聞いたが、その内容はとても御使いとは信じられなかった。
「エノクって何者なんですか」
いいねえ、とウリエルはブレンのことを横目で見た。
「お前って賢いよな。普通なかなか何者とは聞かないそ」
「いや……どうもありがとうございます」
素直にほめ言葉を受け取ったブレンに、ウリエルはため息をついた。
「場所がここで相手が俺じゃなかったら死んでたぞ。そういうやつは長生きできないんだ」
「そうなんですか」
なんともいえない表情でウリエルはブレンを見た。
「人間……ねえ。しかし本当に変な生き物だな。これほど変だとは思わなかった。魔王城の庭師といいお前といい、どうしてそうなんだろうな。たぶん王女も変なんだろう」
「あの、何の話ですか」
うーん、とうなった後にウリエルは言った。
「メタトロンのやつは人間から御使いになった。唯一神に捧げ物をして忠誠を誓い、天界に引き上げてもらった。エノクってのは人間だった時の名前だ」
「それは聞きました」
「なら話は早いな」
ウリエルはブレンの顔を見た。
「そのエノクは何をした。さっき俺の話を聞いてただろう」
彼はしばらく言われたことの内容が理解できなかった。しかしじわじわとその内容が染み込んでくるにつれ、あることに思い当たった。
「あの、じゃ、もしかして……」
「そうだ」
ウリエルは肯定した。
「人間が神に取って代わろうとしているんだ。俺達にとっちゃ見過ごせない問題なんだよ」




