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アラウンド・ザ・シークレット 6  作者: 空谷あかり


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16 要望されない者

 魔王のもとには天界からの手紙が何通か届いていた。そのいくつかはセラフィムを返せというものであり、あと一つは煉獄についての定期連絡である。しかしメタトロンについての書簡はなかった。

「お前は必要なようだが……あの男はいらんのか」

 場所は魔王の自室である。魔王は椅子に座り、机の上に散らばるいくつもの手紙を取り上げて眺めた。

「そうおっしゃられましても……お返事しかねます」

「天界にとって重要な者なのだろう」

 それはそうである。しかしメタトロンが捕まってからもう三ヶ月もたとうというのに、唯一神からはなんの連絡もなかった。ウリエルの時ですら意味不明な感じの書状が届いたので、魔王とセラフィムは天界がどう出るか待っていたのである。

「本音は不要ということか」

「おそらくは。消滅してもかまわないと思っているのでしょう」

 それもかわいそうな話ではある。ウリエル以下か、と魔王は言った。

「ここを襲撃したのも唯一神の命令だろう」

「そうです」

 この部分は裏づけを取ってあった。メタトロンと一緒に捕らえた十二人の御使いを解放する際に、サーキュラーとセラフィムは一人ひとりに脅しと甘言で尋問をかけたのである。その結果ほぼ全員が同じ内容をしゃべった。すなわちメタトロンに同行して魔王城を襲撃し、セラフィムを無力化して捕らえてこいといった内容である。

 御使いの一人はこうも言った。

「あんたを捕らえてこいなんて無理だって言ったんだ」

「そうですか」

 ああ、とその御使いはセラフィムに言った。

「けど人数がいるから大丈夫だってよ。魔王城には今総司令官のサーキュラーもいないし魔王は腰抜けだ。だから平気だってあのメタトロンのヤツが言ったんだ」

「へえ」

 これはサーキュラーである。その御使いはサーキュラーを見ると嫌そうにぶるっと身を震わせた。

「それが何だあの女、くっそ強ええじゃねえか。四大将軍であのざまじゃ俺達に勝ち目はない。おまけにメタトロンは自害するかと思いきゃのうのうとケガの治療をされてる。俺達バカかよ」

 セラフィムの返事はこうであった。

「あなたたちに同情はしますが……仕方ないですね。リスクは分かっていたはずです」

 けっ、とその御使いは言った。

「そういうところ本当にむかつくな。けどしょうがないんだよ、ああそうだとも。しょうがないんだ。あの女がいなかったらあんたが出てくる。どうしようもないんだよ」

 返答を聞き、考えた末に魔王は十二人の御使いを解放することにした。何も小細工はせずそのまま解放したのだ。

「疑心暗鬼を狙うのですか」

 セラフィムが言うと、ふん、と魔王は巨大な椅子に座ったまま答えた。

「メタトロンがいなければ攻撃してくることはあるまい。唯一神を焚きつけているのはあの男なのだろう。そしてもう唯一神はあの男に飽きているようだ。いや、うんざりしているというべきか」

 その点はセラフィムもうっすらと感じていた。自分を追い落としその後釜に座ったものの、正直なところ他の御使い達の支持も得られていないし、畏怖で縛るほどの実力もない。

「どうした、セラフィム」

「いえ、何でもありません」

 一瞬、かつての自分ならば同行の十二人全員が消滅するまで魔王城を攻撃するだろうと彼は思った。おそらくサンダーは生き残れないであろうし、下手をしたら魔王と戦い、魔王城を吹き飛ばして対象者を回収してくるかもしれない。

「あのメタトロンというのは自分では何もできない凡庸な男なのだな。そうは思わんか、セラフィム」

「はい」

「だからこそ唯一神と天界に食らいつくのだろう」

 魔王は言った。

「ただ野心は強いようだ。なら存分に踊ってもらうことにしよう。治療を続けて治ったら天界に返してやれ。何が起きるか見ものだ」

 かしこまりました、とセラフィムは答え、一礼をして魔王の自室を退出した。それからサーキュラーを探しに城内を歩いていった。


 平和裏にメタトロンは天界に返されたように見えた。魔王はもったいぶってウリエルと天界に連絡を入れ、ウリエルの立会いのもと煉獄で返還の儀式を行った。天界側の使者はラファエルほか三人である。魔界側でメタトロンと一緒に来たのはサーキュラーとファイ、それにグランデだった。

 メンバーを見たサーキュラーは言った。

「ガブリエルのおっさんは来ねえの」

 おどおどとラファエルが答える。

「メタトロンがいないので代わりに御使いのとりまとめをやってます。それで忙しくて来られないそうです」

「そうか」

 肝心のメタトロンはまだ火傷から回復しきっていず、ベッドに横たわったまま運ばれてきていた。引渡しの際にサーキュラーは言った。

「これ以上はこっちで治療しても無理だ。魔王は完治するまでやってやれと言ったんだが、もうこれ以上はちょっと、な。魔王にも話してある」

 サーキュラーが言っていることはウリエルにも天界側の使者達にも分かった。そもそも天界側の存在を魔界に長期間置くことすら難しい。環境が違いすぎるのだ。

「元が人間だったからここまでやれたが魔界じゃもう回復は見込めない。あとはそっちで頼む」

「分かりました」

 ラファエルがびくついているのはサーキュラーのせいだけではない。一緒についてきたファイもその原因だった。旧世界者の血筋は天界にはいない。なのでその雰囲気に押されていたのである。

「またか。びびりすぎだぞ、ラファ」

 あきれたようにウリエルが言った。はい、とラファエルが答える。ファイはそんなラファエルをじっと見ていた。

「で、ここからは交渉なんだが」

 サーキュラーはファイとグランデを従えて言った。ウリエルが聞き耳を立てる。

「セラに今後ちょっかいを出すな。なら今回のことは不問にする」

「それは……」

 即答できないラファエルにサーキュラーは畳みかけた。

「もしまた来るようなら、次はお前らの大事なじいさんがいなくなるかもしれないぞ」

「え……本気ですか」

「今回はそいつが」

 そう言ってサーキュラーは、ラファエルの背後でベッドに横たわったままのメタトロンを見た。

「暴走したってことにしといてやる」

「え……あ、はい」

 ほほう、という表情のウリエルと青ざめているラファエルを交互に見ながらサーキュラーは続けた。

「こっちも損害が出てんだ。魔王と俺からの温情だ」

 うっかりすみません、と言いかけてラファエルは飲み込んだ。ここでそんなことを言ったらどんな事態になるのか分かったものではない。

「言っておくが俺じゃないぞ」

「魔王じきじきに、ですか」

 セラフィムは魔王の側近である。ラファエルがそう思ったのも無理はない。しかしサーキュラーは首を横に振った。

「セラをキレさせるな。分かったな。本人から警告されているはずだ。ガブリエルのおっさんにも言っとけ。あのおっさんならそれがどれだけ危険なのか分かるはずだ」

「は、はい」

 ラファエルの背後へ他の御使い達が近寄ってきて、メタトロンをベッドごと運んでいった。ウリエルはルーセット達に言いつけて、陶製のゴブレットを三つと水の入った水差しを持ってこさせた。

「じゃこれで今回の件は終了だ」

 自分とそれぞれの前にゴブレットを置き、真ん中に水差しを置く。

「全員が飲めるものがこれしかなかった。お前らは酒禁止だしな」

 言いながらウリエルは水差しから水を全員のゴブレットに注いだ。それからそのゴブレットに手持ちの小瓶から一滴ずつ液体を垂らす。

「契約書でもよかったがここで預かりたくない。どうせお前ら置いていくだろう」

「よく分かってるじゃん」

 サーキュラーが言うとウリエルはこれだからな、と言った。

「冥樹の誓約杯だ。破ったら全員に呪が飛ぶぞ」

「え……呪ってなんですか」

 ラファエルがしり込みしたように言った。

「たいしたことはない。体のどこかに戦火の模様が出るだけだ」

「えげつねえな」

 サーキュラーの言葉にウリエルはこう返した。

「お前達ほどじゃない」

「悪いな」

 にやっと笑うサーキュラーにウリエルは嫌そうな顔をする。そのやりとりをラファエルは固唾を呑んで見ていた。

「じゃ、俺からいくわ」

 言うなりサーキュラーはゴブレットを手に取り一息に飲み干した。続いてウリエルが器を手に取る。

「約束は守れよ、お前ら」

 こちらも一気に中身をあおった。最後にラファエルが置かれたゴブレットをじっと見つめ、右手に持つ。

「立場上確約はできませんが……できるだけのことはします」

 そして覚悟を決めた様子でそれを空けた。控えていたルーセット達が空いた器を回収し、持ち去る。

「思ったより根性あるな、お前」

 サーキュラーはラファエルの背中をバン、と叩き、ファイとグランデを従えてその場を去った。

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