12 四大将軍
逃走しようとする御使いを雷撃で阻止し、上からの攻撃を雷球で跳ね返す。同時に前方から襲ってくる曲刀を、彼女は取り出した重たいバール状の鈍器で横になぎ払った。
「くそ……」
まさか鉄の棒が出てくるとは思わなかったのであろう、メタトロンは刃が欠けた曲刀を持ったまま後ろに跳ね飛び、空中で態勢を整えた。
「生意気な」
そこへサンダーは大きな雷球をひとつぶつけた。さっとメタトロンが避けて彼女をあざ笑う。
「当たらんぞ」
「いいんだよ」
サンダーは手に持った鈍器に電流を流し、それを振り上げてメタトロンに向かっていった。反射的にメタトロンは持った刀で防御する。
「ぐっ」
刃がかち合ったとたんに高圧電流が流れ、メタトロンは動けなくなった。もう少しだ、そう思った時に背後から別の御使いが襲いかかってきた。
「いった……」
背中に刺さった剣身に電流を流し込む。いつもならここで消えて仲間達にあとを頼むのだが今回はそうはいかない。サンダーは痛みをこらえるとさらに強い電流を宙に放った。
「ニコールの新作ワンピも買ってもらおう」
それでも足りなかったらコンビネゾンも追加である。サンダーは自分を中心に巨大な雷球を作り、それを一気に四散させた。数名の御使いがその直撃を受け、気を失って地面に落下してくる。
(もう、やばいなあ)
視界の隅にはまだ四名ほどの御使いが映っていた。メタトロンの動きを封じつつ、その四名を無力化させなければならない。自分の後には魔王が控えているが、このくらい追い返せなければ雷精将の名が泣く。
「そうだよ」
自分は切り札なのだ。サーキュラーがそう言ったではないか。
「まだまだやるよ」
半分暗くなってきた視界で彼女は目の前のメタトロンを睨みすえた。
電流の包囲網をさらに覆う形で巨大な水籠が現れた。やはり一番はワンダだな、とサンダーはその水流を見ながら思った。
「無理しないの」
つい、とサンダーの隣にワンダの姿が現れる。反対側にはファイの姿があった。
「……向こうを片付けてて遅くなった。ごめん」
眼前に二本の火柱が立ち上る。それらはゆらりと揺れて二体の巨人に変わった。ファイがイフリートを召喚したのだ。
「あの時のガキか」
見下した目でファイはメタトロンを見た。
「ゼラフを出せ。お前達に用はない」
くすくすとワンダが笑う。
「勝てっこないのに態度だけは大きいのね」
もう大丈夫だ、そう思った瞬間サンダーは崩折れそうになった。気力で体勢を立て直す。
「大丈夫だから」
言うのと同時に彼女は大きめの雷球を数個、空中に放った。その雷球を包み込むようにして、レースのカーテンのごとく青白い無数の小さな雷球が出現する。
「代わります。わたくしに用事があるようですから」
真っ赤な翼の音を響かせてセラフィムが上空から降りてくる。そしてサンダーを庇うようにその正面に立った。
「大丈夫だよ」
そう言うサンダーにセラフィムは言った。
「いえ、わたくしの仕事ですから」
「……そう」
ふらっと後ろに倒れこむサンダーをグランデが支えた。唐突にその姿が消えて金属製の髪飾りがグランデの手に残る。グランデはその髪飾りをポケットにしまい、ファイの横に立った。
「戻れ、ゼラフ」
「嫌です」
即答だ。メタトロンは刃の欠けた曲刀を振り上げる。
「さもないと……」
「自分の首が飛ぶ、ですか」
冷静にセラフィムは返した。微笑すら浮かんでいたかもしれない。
「その刀、天界のものではありませんね」
「だったらどうした」
語気は強いがメタトロンの表情はやや落ち着きがなかった。
「天界に人界のものを持ち込むのは禁止だったはずです」
「今はいいんだ!」
なるほど、とセラフィムは言ったようだった。
「あなたがそうしたのですね」
その隣からくすくすというワンダの笑い声が聞こえる。
「それってつまり、やりたい放題ってこと?」
彼らの背後に土のバリケードが張られる。セラフィムの真後ろにはグランデが控えていた。
「へえ。天界って勝手なことしていいんだ」
バリケードの上に炎が上がる。ファイがぽつっと言った。
「……こいつむかつく」
そうね、とワンダが答える。
「おしおきするわよ」
瞬時に大量の水流が湧き出て空中に残っている御使いを叩き落とした。間髪を入れずに青白い電光がその上を走る。地上に落ちた御使い達は身動きしなくなった。
「きっつー」
おどけたようなグランデの声がした。しかし御使い達の上にはすでに土が盛られており、意識を取り戻しても動くことは不可能な状態になっていた。
「きさまら……」
刀を振り上げてかかってこようとしたところに巨大な炎が上がる。
「……許さない」
業火に巻かれてメタトロンは目標を見失った。その両サイドにイフリートが近づいてくる。
「……どうするの、こいつ」
二体のイフリートがメタトロンを捕らえようとそれぞれに手を伸ばす。刀を振り回して抵抗するところにワンダが水流を浴びせた。じゅっと音がして大量の水蒸気が上がる。
「あついあついあつい!」
その様子をセラフィムはじっと見ていた。ワンダがさらに水を浴びせる。
「そんなに熱いの?」
後ろからグランデの驚いたような声がした。
「やめてくれ!」
「そうですか」
うすら寒いような微笑を浮かべ、セラフィムはいかづちを落とした。倒れたところにワンダが水縛をかけ、さらにグランデが土を乗せた。メタトロンは動かなくなり、ファイは魔王へ顛末を報告しに城内へと移動した。
魔王軍はメタトロン含む十三人の御使いを捕虜にしたが、今回はウリエルのように易々とはいかなかった。収容所はあったものの彼らの監視と世話だけでけっこうな手間になる。
「ご苦労であった。四大将軍には褒美を取らせる」
魔王は大広間でサーキュラーにこう伝えた。畏まったサーキュラーに魔王はこう続けた。
「で、雷精将の具合はどうだ」
サーキュラーの顔が曇る。
「無理をさせすぎた。三ヶ月は休養が必要だ」
こういう事態を防ぐためにセラフィムを前線に投入したというのに、大失敗だったと彼の顔には書かれていた。
「すまないがしばらくセラを借りたい。駄目か」
ふむ、と魔王が考え込む。
「御使いどもはどうしている」
サーキュラーの隣にハエトリの茶色い頭が現れた。魔王にひざまづいて一礼をすると報告を始める。
「メタトロンは火傷のため動けず別室で治療を受けています。ほか十二名は六名ずつ分けられ、雑居房にいます。今のところ特に反抗したり騒いだりといった目立った動きはありません」
「火傷?」
魔王がけげんな表情になったのも不思議はない。感覚はあるが御使いは本来怪我をしないものだからだ。
「はい。メタトロンはもともと人間であったのでその名残のようです」
「なるほどな」
魔王は何か思いついたようだった。彼はハエトリを下がらせるとサーキュラーと密談に入った。




