10 急転
翌日もサンダーはひまであった。サーキュラー以下彼女の仲間達が詰めている前線には何か動きがあるようだったが、彼女には特に何もなかった。なので今日もサンダーはチラシや雑誌を持ち込み、持ち場でひまをつぶしていた。
(なんだかなー)
もう転職することは彼女の中で決定事項であったので雑誌類を隠すこともしなかった。通りかかったハンスが驚いたくらいである。
「辞めちゃうんですか?」
「うん。もうやだ」
クワを担いだハンスを相手に、彼女はここぞとばかりにうっぷんをぶちまけた。
「なんであたしだけここなの?」
「えっ」
「いくら経験が浅いからってひどくない? そう見えないかもしれないけど一応これでも四大将軍だよ? ひどくない?」
「あ、はい」
なんとも言えない返事をしたハンスに、サンダーはさらに言葉を続けた。
「グランデだってあたしと同じはずなのに、なんで一緒じゃないの? そりゃあさあファイとかワンダとかとは違うよ。二人ともすごいもん。でもさあ……」
言いながらサンダーの声がだんだんと涙声になってきた。
「そんなにあたし、駄目?」
うつむいた彼女からすすり泣きと嗚咽が聞こえてきて、あわてたハンスは慰めにかかった。
「あの、そんな泣かないで下さい。きっとサーキュラーさんは何も思ってないですよ。たぶんちょうどよかったからここにサンダーさんを持ってきただけであの、何かあるってわけじゃないと……」
うつむいたまま、ぎろっとサンダーはハンスを睨み上げた。
「ちょうど……よかった?」
何か地雷を踏み抜いたらしいことが分かってハンスが青ざめる。
「あの、僕、そんなつもりじゃ……」
人生最大のピンチを感じながら、ハンスは一生懸命言葉をつないだ。ここでミスったら命がないような気がしていた。
「サンダーさんって雷精じゃないですか」
「そうだけど」
「あの、強力な雷精って少ないって聞いたことがあって」
「ふうん」
「それでその、きっと、隠しておきたいんですよ」
ハンスがよく分からないことを言い出したので、サンダーはとりあえず怒るのをやめて話を聞くことにした。
「ここに四大将軍がいるって本当はありえないんですよね」
「そうだけど」
サンダーはムカつきが戻ってきてつっけんどんになった。
「そしたら敵が来た時にあれってなりますよね。そのためじゃないですか」
それはそうだが、どうしても納得のいかない彼女はもう一つのムカつきの原因について言及した。
「じゃあセラフィムさんはどうなの。あたしの代わりに行ってるんだけど」
「あ、そうなんですか」
「そう」
えーと、とハンスは言った。
「セラフィムさんは無敵だから、きっとそれですよ。何かあっても大丈夫っていうか」
「……それ、あたし役立たずじゃん」
「あっ」
ハンスの脳裏をまだ終わっていない農作業の数々がかすめていった。花壇の花苗も植え終わっていないし果樹の摘み取りもやっていない。明日やろうと思っていたバラ園の剪定作業もである。
「すいません。僕が悪かったです」
反射的にハンスは謝った。そんなことで何とかなる気は全然しなかったが、とりあえず謝った。
「たぶん僕が全部悪いんで、きっとそうですよ。だから僕がいけないんです。すみません」
ハンスに八つ当たりしたって仕方ないのである。サンダーは大きくため息をつき、彼を解放することにした。
「別に謝らなくていいよ。全然関係ないんだし。仕事行きなよ」
「あっ、はい。すみません」
慌ててハンスはその場から去っていった。はあ、とサンダーはもう一つ大きなため息をつき、少々真面目な顔になって上空を見上げた。
「ん?」
ハンスの言ったことはあながち間違いではなかったかもしれない。サンダーは上空に現れたものを睨みすえるとサーキュラーとの遠話の通路を開いた。




